第21話「妹はメンタルがつよい」
茜は俺にとっては妹なのだが、クラスメイトからすれば可愛い同級生なわけで……それなりにモテてはいるようだ。しかし俺は思うのだがクラスメイトから公衆の面前で告白されて『私、お兄ちゃんが好きなので』とバッサリ切り捨てるのはどうかと思わないでもない。おかげで俺にあらぬ噂が立つのは必然と言えるのだが、もう一人の当事者の茜の方は涼しい顔をして評判を無視していた。
「お兄ちゃん! 帰りますよ!」
そう言って俺の腕に抱きつく茜。周囲からの視線などまったく気にした様子は無い。空気がチリチリと燃えているような気がするが、茜の周囲だけ常温を保っているような温度差がある。俺もその空気に耐えられず引かれるままに教室を出た。
「分かったから引っ張るのはやめてくれ……」
引かれながら校舎を出たところで茜は俺に抱きついてきた。
「いやー学校の中だと安易にこうしてイチャつくことも出来ませんねえ……」
うそだろ……?
「お前、学校の中では一応押さえてるんだな……」
「十八禁にならない程度には気をつかわなければなりませんからね」
十八禁って……お前の基準はどうかしているんじゃないのか……普通は全年齢対象のことしかしないのが普通だと思うのだが……
というか十八禁の行動ってなんだろう? 少なくとも公衆の面前でできるようなことではないと思う。物騒というか、いかがわしいというか……そういう行動は是非とも一八歳を過ぎてからも出来るだけ控えて欲しいと思う。コイツは学校で倫理の勉強をした方がいいんじゃないだろうか? いや、倫理なんて高度なものではなく小学校から道徳の授業をサボタージュしていたのではないかと疑わしいくらいだ。
「俺は茜が全年齢対応であるようにお願いしたいよ」
「私は精神年齢が高いですからね、多少のサバ読みは許されるはずですよ!」
「サバって下の方に読むものだと思ってた……」
「まあまあ、カフェにでも寄ってから帰りませんか?」
「この町にカフェなんてものが数えるほどしかないことは知ってるだろう?」
都市部でなければカフェなどというものは個人経営の小規模店くらいしかない。一応カフェも電車に乗れば行けるが、電車賃の方が高く付くことと電車の待ち時間がそこそこかかることから電車で向かうのは論外といっていい。
「せっかくなので寄り道して帰りましょうよ! お兄ちゃんとの寄り道がしたいです!」
「わがままを言うなよ……この町の限界くらい知っているだろ?」
町の限界……ショボい……しょうがないことではあるのだが、ここは政令指定都市ではない、それが限界というものだ。無い袖は振れないのでシンプルにコンビニで買い食いをする程度のことで妥協してもらった。コンビニってマジでどこにでもあるな……都市部とは品揃えがまったく違うけれど、それでもだいたい同じものを置いているというのはすごいことだ。
「お兄ちゃん、イートインで唐揚げはいくら何でもロマンの欠片もない気がしますよ?」
「お前は何年この町で暮らしたんだ? ロマンなんてものが微塵もないことは十分知っているだろう」
「世知辛い世の中ですねえ……」
「世の中に文句を言っても変わらんよ、大抵のことは自分でなんとかするしか無いだろう」
「つまりお兄ちゃんを手に入れるためにはお兄ちゃんに好かれるより、お兄ちゃんが私以外を見ないように私が教育した方がいいという事ですか?」
「お前はもうちょっとマシなたとえを持ち出せなかったのか……」
呆れながら言うが、茜の方は気にした様子もない。俺の唐揚げを一つ取って口に入れ、嬉しそうにしていた。なんだかんだと言っても結構楽しんでいる様子なのでいいだろう。
「あーあ……これで最後ですか……」
「そう言うな、いつでも出来ることなんだからそんなに惜しむなよ」
「言いましたね? お兄ちゃんは私の予定にいつでも付き合ってくれると言いましたね?」
「ああ、そうだよ、そのくらいに付き合えないほど狭い心を持ってはいないんでな」
「よっしゃあああ!! それならお兄ちゃんは生涯私に付き合ってもらいますよ!」
「それは随分と長い話だなあ……」
コイツのことだから三日もすれば忘れそうなものだ。なんにせよ、妹と遊ぶのは楽しいものだ。だから当面はこの心地よさに身を任せよう。
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