第13話「妹クッキング」

「ふふふ……お兄ちゃんを私の手料理で虜にしてあげますよ!」


 茜がキッチンに立ってそう言っている。俺はレトルトでいいと言ったのだが、茜はそれを良しとせず『私が作ります!』と断言したのでお願いすることにした。メニューはカレーだそうだ。ちなみに両親に『せっかく結婚したことですし二人きりで食事に行ってはどうですか』と言ったのは茜だ。なんだかマッチポンプを感じずにはいられない。


「茜って料理作れたのか?」


「私の料理の腕は皆が認めるところでしたよ!」


 皆というのが誰を指すのかは分からなかったが自信があることだけは分かった。


「なあ、なんでカレーなんだ?」


 作ってもらう側が言うことでもないのかもしれないが、なんとなく気になった。


「男の人はカレーが好きって聞いたことがあったので」


 兄に対して男の人という雑なくくりをするのはどうかと思うが人気と言うことは無難ということでありその選択も当たり前なのかもしれない。


「そうか、ありがとう」


「へへへ……」


 野菜をザクザク切っている茜にお礼を言いつつ俺はスマホを眺める。相変わらずいつもの流れだが、俺は今まではこういうときは一人で食べていたなと思い出した。いつの間にか一人での食事が遠い昔のことのように思えるあたり茜に依存している気もする。


「なあ茜、手伝おうか?」


「お兄ちゃんって料理できたんですか!?」


 まったく、そんなことで驚くなんて心外だぞ。


「カレーくらいならなんてなんとかなるよ。味の方は知らないけどな」


「……遠慮しておきます、味の保証が無いというのがすこし不安なので」


 俺は料理が下手なのだろうか? はっきりそう言ってくれる人も、そもそも食べた感想を求めることも無かった。その意味では保証のしようがない。


「信用無いなあ……」


「今日は私の手料理を披露する日ですからね! お兄ちゃんに頼っていては妹の名が廃ります!」


「そうか……妹の名が廃るというのはよくわからんが頼むよ」


 妹は固有名詞ではなく代名詞なので名前が廃るも何も無いのではないかと思うのだが、本人なりのこだわりというやつだろう。


 サクサクと野菜を切る音が響くキッチンで、俺は茜の調理している姿を眺める。少し前までは俺がやっていた作業だ。全部任せていいのだろうかとは思うのだが、やる気満々の茜をどけてまでするようなことでもない気がする。


「お兄ちゃん、カレーのルウはどこにありますか?」


「ああ、冷蔵庫に入れてるよ」


「ルウって冷蔵でしたっけ?」


「さあ? こだわったこと無いからよく分かんないな。冷やして品質が落ちるわけでも無いだろうし常温よりいいかなって思っただけだよ」


「お兄ちゃんは雑なのかマメなのかよく分かりませんね……」


 俺は冷蔵庫からカレールウを取りだして茜に渡した。辛口だが涼しい顔で受け取ったので辛いのは平気なのだろう。


「じゃあお兄ちゃん、後はルウを入れるだけですよ!」


「早いな……もう出来るのか」


「本当はもっと煮込んだ方がいいんですけど、今日は時間があんまり無いですからね」


「そうだっけ? 特にこれから用事は無かったと思うが」


「親が帰ってきてからお兄ちゃんにアプローチかけるほどの度胸は無いんですよ!」


「思ってたよりどうでもいい理由なんだな」


 茜は文句を言いたげにしているがカレーの匂いが漂ってきた。


「美味しそうな匂いだな」


「そうですね……今は議論より食事ですね」


 そうして炊いてあるご飯にカレーをかけてカレーライスの完成だ。何やらモジモジしている茜、どうかしたのだろうか?


「茜? どうした?」


「ええっと……私は大いに頑張ってこれを作ったわけで……お兄ちゃんは……私のことを……その……褒めてくれてもいいんじゃないかなあと」


「ああ、お礼の言うのが先だったな。ありがとう茜」


「ふふふ……お兄ちゃんに褒められるのはいいですね!」


 楽しそうにしているので何よりだ。


「もう食べていいか? 温かいうちに食べたいんだが」


「ああ、そうでした! 食べましょう!」


「「いただきます!」」


 俺はカレーをすくって口に運んでみる。ピリッとした辛さとよく分からないコクがあるので料理の味がよく分からない俺でも美味しいと思える味だった。


「美味しいな!」


「妹の愛ってやつですよ!」


 茜はとても楽しそうに食事をしていた。食後、俺が風呂に入ろうとしていたところで茜がついて来たのだが、何事かと思ったら食後、両親揃って帰ってきたので二人といるのが気まずかっただけなのかもしれない。『チッ……余計なタイミングで……』と言っていたが、その理由を気にすることはやめておいた。

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