恋人じゃなくて妹です!
スカイレイク
第1話「妹になろう!」
「ああ……
私は現在、思い人に心を惹かれています。あの人は私の運命の人に違いないのです。だというのにクラスメイト以上の関係になる事が出来ない! なんて理不尽なのでしょう!
分かっています。勇気を出せば良いはずなのです。ほんの少しの勇気があればあの方を私の恋人に出来るはずなのです。
そこで私は一つの不安要素に行き着きました。
「恋人って……別れることもあるんですよねえ……」
学校のクラス内でも誰と誰が付き合ったという報告と同じくらいの数の別れたという噂話が流れてきます。そのたびに私はあの人を恋人にしても別れに怯えながら日々を過ごさねばならないのかと不安で押しつぶされそうになります。付き合う前からこれなので告白して拒否されたら私のメンタルは押しつぶされてしまうでしょう。
なんとかして薊さんを私のものにする方法を考えなくてはなりません。
「ふぁああ……」
眠いですね、薊さんのことを考えていたらもう深夜になっています、時の流れは速いですね。
冷蔵庫にドクペを取りに向かったところリビングでかすかな明かりが付いていることに気が付きました。
「PCですか……不用心ですねえ……」
私はそこで点灯している画面に釘付けになりました。そこには『マッチングサービス』の一つが映されていました。確かに片親で寂しいと思ったことがないではありませんが、今はそんなことは問題ではないのです。
父さんも暇ですねなどと言うことより重要な問題があります。そう、薊さんのご家庭は離婚されているのです。私の脳内データベースに確かにそうだったと記述してあります。
私はキーボードに手を伸ばしました。これは不正アクセスになるのでしょう、怒られるくらいは覚悟をしていなければなりません。そして私は薊さんの母親の名前、「
翌日、帰宅してきた父さんは機嫌がよさそうにしていました。私が『何かあったの?』と聞いたところ気まずそうに目をそらして『いや……別に』と答えていました。
その晩、父さんは私の目を盗んでコソコソスマホを弄っていました。何をやっているかは分かりませんが出来ることなら私の思い通りに事が運んでくれるように祈っておきました。
すこし経ってから父さんは私に『紹介したい人がいる』と言い出しました。私ははやる心臓を押さえて努めて冷静に気取られないように『分かった』と言いました。その時の私はハリウッドの役者もビビるくらいの完璧な演技ができていたと自負します。
そして私はその人と出会いました。「兄妹として」です。そしてその人の隣にはおとなしそうな女の人が一人たっています。誰なのかは聞くまでもありません。私の薊さんを調べた結果のログが脳内でしっかりと残っています。
「初めまして、秋津唯です……実はあなたのお父さんとお付き合いをしています」
ヒュー……私の思い通りの展開です! こんなに都合がよく事が運ぶのでしょうか? 世の中捨てたものではないですね! 私の意志で二人を引き合わせたのですからね!
「それで私と唯さんのお付き合いを認めてもらえないかな……?」
「構いませんよ! 父さんも随分と苦労してきたでしょう。そのくらいのワガママは言ってもいいじゃないですか、私は全然問題無しです!!」
そしてぼんやりと私たちの方を見ている私の思い人はゆっくりと頷いていました。
「構わないわよね? 薊?」
「認めたくないというのはしょうがないと思う……ただ、出来れば君の理解を得たい」
父さんも義母さんも説得に出ました、ここまで来たら確定なので母さんと呼んでも問題無いでしょう!」
「まあ、好きにすればいいんじゃない? 俺がどうこう言えることでもないし」
よっしゃああああ!!!!!
心がガッツポーズを何回も決めています、難所はクリアしたので後は薊さん……いえ、お兄ちゃんと同居する準備だけですね!
私はこうしてお兄ちゃんを私のお兄ちゃんにすることに成功しました。そして卒業の季節が過ぎ去り、同じ高校に入学しての登校初日になりました。
「お兄ちゃん! 朝ですよ!」
私は寝起きのお兄ちゃんに飛びつきました。大丈夫、兄妹なら普通にやることですね、恋人ではこういう事をしづらいのが難点ですからね。
「うへっ!? 茜! 寝起きにダイブするのはやめろって言ったろ!」
「ゴメンね?」
「反省がまるで感じられない……」
私はこうしてお兄ちゃんとの同居生活を合法的かつ社会の体面的にも問題の無い形で手に入れたのです。
――兄の話
母さんが『あなたにも父さんが出来るの』と言ったときはイラッとしたものだ。しかしそれを止めるわけにもいかないので顔合わせの場に顔を出した。そこには中学で一緒だったクラスメイトがいた。顔は覚えているのだが名前が出てこない。父親から『うちの茜だ』と紹介されてようやく身元を理解した。
そうしてその女の子と俺は兄妹になった。初対面――と言うわけでもないのだが――のころにはオドオドしていたのに、いざ同居するとなったら突然距離感を詰めてきた。その勢いは俺が受け止めなければ重力の鎖をちぎりそうなほどの早さで俺に飛び込んでくる。
朝だというのに茜のダイブのせいで腹をうたれてしまった。中学の卒業後の春休みから流れるように高校に入学するというのに一切の迷いは無かった。
「着替えるから部屋から出てくれ……」
「私はお兄ちゃんを見てても別に構いませんよ?」
「俺が構うんだよ!」
調子が狂うとしかいいようがない。妹を押し出して自分の制服を着込んで鞄の中身をチェックする。初登校に何の問題も無い状態だ。よし、朝飯を食べていくとするか。
自室のドアを開けると茜がドア前に立っていた……
「先に出ててもよかったんだぞ?」
「いえいえ、お兄ちゃんのお世話はしなくてはなりませんから」
えぇ……
「
そう言うと茜が俺の口を塞いで耳打ちしてきた。
「『父さん』でしょう?」
「ああ、そうか、そうだったな」
俺はキッチンに向かい茜といわお……父さんと母さんで揃って朝食を食べる。四人で食べる朝食というのは不思議な感じがする。春休みのあいだは昼まで寝ていたからな、朝食を全員揃って取ったことはまだ無かった。
茜はトーストをかじりながら俺に牛乳を注いでくれた。一杯飲んでサラダとトーストを食べて席を立つ。同じタイミングを見計らっていたかのように茜は立ち上がって「ごちそうさま」と言った。俺もつられて「ごちそうさま」と言ってから鞄を手に取る。
「お兄ちゃん! いきますよ!」
そう言っている声のする玄関の方へと歩いて行った。たぶんなんとかなるだろう。俺は何の確信も無いのにそのときなんとなくそう思ったのだった。
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