第39話 スキルボード
「どういうことだ?」スレイはシゲルに訊ねた。
「あぁ。オレもそのメモの事は聞いていなかったが、オレ達がバラバラに囚われていた時、トーマだけは牢から抜け出して、この城内を探索していたというのは聞いている。その時にこの執務室で話しているスレイさんとバルバスさんの会話を盗み聞きした事も聞かされた。トーマはその、スレイさんとバルバスさんの会話がオレ達に話した内容と違わない事に驚いたって言っていたよ。まるで裏表がない事に驚いて、スレイさんたちの事を信用する事にしたんだって。そこまでは聞いていたんだけど、トーマがその時、自分が生み出したアイテムでスレイさんとバルバスさんを眠らせて、この部屋の中に侵入したって事はオレもこの手紙で初めて知ったよ。そして、その本の中のそのメモを見つけてそこに書き足したらしい」シゲルはゆっくりと、だが、一気にそう言った。
スレイとバルバスは顔を見合わせる。そして、一拍の後、二人同時に笑い出した。
「そうか。確かに我々はあの時、疲れ切ってはいたが、ああやって眠り込んでしまったのは、そうか、トーマの仕業だったのか!」と、スレイは笑いながら言い、「まさか、トーマに出し抜かれていたとは!」とバルバスも愉快そうに言った。
「すまねえな、スレイさん、バルバスさん。トーマは少しいたずら好きなとこもあって……」シゲルはそう言って頭を掻く。
「良いのだ。とても愉快だ。それに、これ以上にその手紙がトーマ本人からのものである事を証明するものはあるまい。ワハハ。してやられたな、バルバス」スレイは心底楽しそうにそう言った。
「ええ。彼も部下に欲しいくらいです」バルバスも笑いながら言う。
「しかし、シゲル。手紙には合体魔法だとか、簡易な転移魔法を彼らが得たと書いてあったようだが、それがどういう事か分かるか?」バルバスは声のトーンを落とし、真剣な面持ちでシゲルに聞いた。
「んー、それはどこから話をするべきか……」シゲルはしばし考え込む。「えっと、先ずは、あいつ等はその魔法を得る為に嘆きの石を集めたらしいが、それは森の中の獰猛な魔獣を狩る事で手に入れたと書いてある。少なくともユウコはオレと一緒にあの平和な朝市の光景を見たんだ。言葉と文化を持つ異種族をむやみに殺めようとは思わない」シゲルもまた、真剣な面持ちでバルバスに答えた。
「そうか……」バルバスはホッと息を漏らし、肩の力を抜いた。
「バルバスの気持ちは分かるが、我が国の商隊をニンゲンの盗賊からトーマは救ってくれたのだ。彼らが嘆きの石を目当てに同胞を殺す事は、もう、ない。それは聞かずとも分かる事だ。また、魔獣を狩るのは責める事でもない」スレイは静かにそう言い、続けて「だが、嘆きの石を集める事で魔法を得られるというのはどういうことなのだ? 私たちがオマエたち八人からそれぞれに話を聞いた時、オマエたちは一様にケイケンチを得る為だ、それで成長する為だと言っていたが、魔法をそんなに簡単に得られるとはどういう事なんだ?それを説明してくれないか、シゲル」と訊ねた。
「これは、今まで隠してたという訳ではないんだが……。いや、隠していた事になるのか? んー。オレにはそれほど大きな恩恵があるものではないから、忘れてたって気もするし、でも、仲間の為に敢えて言わなかったって事もあるのか」シゲルはそう言ってすぐに、スレイに対して頭を下げた。「すみません!オレ達の秘密として今まで言ってこなかった事があります!」と、頭を下げながらシゲルは言った。
「ふむ。そうなのか。まぁ、そういう事もあるだろう。あって当然と言うべきか。よい、頭を上げよ、シゲル。その秘密を我々に聞かせてくれるのか?」スレイは言う。
「はい。実は……、って説明もしにくいな。えっと、ちょっと待ってくださいね。ステータスウィンドウ、オープン! こ、これ、見えます?」シゲルは自分の胸の前の空間を指さして二人に言った。
「これ、とはなんだ?」スレイが言う。バルバスもいぶかしげにシゲルの挙動を見ている。
「やっぱり、これはオレ達にしか見えないんだよなー。ってか、本人にしか見えないものみたいなんです」シゲルの口調はどうにも定まらない。罪悪感めいたものが丁寧な言葉を選ばせようとするが、それが今一つ揺らぎ続けている。
「順を追って話してくれたらいい。落ち着いて、一つ一つ説明してくれ」スレイは落ち着いた口調でシゲルに言った。
「これは、オレ達転生者に与えられた特権のようなものらしい。シュマルカ神から、オレ達はそれぞれに説明を受けた。ネフト王国の人間達にこれについて語られた事はないし、転生者以外の人間が胸の前でこうやって指を動かしているのも見た事がない。でも、オレ達転生者にとっては確実にあるものなんだ。自分にしか見えないけど」
「ふむ。続けてくれ」スレイは机の上に肘を立てて、組んだその手に口を寄せてそう言った。
「ステータスウィドウ、オープンと呟く事で現れる本人にしか見えないこれは、一枚の紙のようなもので、そこには自分の強さが数字で書かれているんだ。筋力、とか、体力、とか、魔法力、なんてものが、数字で書かれている。そして、その紙を指でこする様にこう触れると、また違う紙が現れるんだ」シゲルはそう言いながら、胸の前で指を右から左に軽く動かした。
「オマエたちから聞かされる話はどうにも荒唐無稽でしっかりと理解できているかどうか、自信がないが……。バルバス」スレイは隣に佇んでいるバルバスに声をかけた。
「心得ております」バルバスは答える。そう言うバルバスは既に先ほどから紙に記録を取っている。「うむ、助かる。ありがとう」スレイはバルバスに一瞥をくれて、シゲルに目線を向け、続きを話すように促す。
「そして、その違う紙というのがスキルボードというヤツで。オレ達は嘆きの石の魔力をこのスキルボードに注入して、魔法や特殊なスキルを手に入れる事ができるんだ」
「特殊なスキルとは?」スレイは訊ねる。
「あぁ。オレだったら、【剛体】という防御力を極限まで高められるスキルがあったり、そうだな、トーマだったら、【合成】ってスキルで睡眠香なんてものを作り出す事ができる」
「ほぉ」
「そして、このスキルボードってのには、現在獲得しているスキルと、将来的に獲得できるスキルの名前とその説明がマス目の中に載っていて、そして、それらは線で繋がっているんだ。双六のように……っていっても分からないか。えーっと、どう言ったらいいかな。自分が欲しいスキルを選んでそのスキルが必要としているだけの魔力を嘆きの石からそこに入れてやれば、そのスキルを獲得できる。でも、その獲得できるスキルってのは、線で繋がっているその前段階のスキルを得てからじゃないと、そこに魔力は注ぎこめないんだ。あ、そうだ。バルバスさん、オレにも紙を分けてくれ。描いて説明するよ」シゲルはバルバスにそう言い、バルバスはそれに応える。
シゲルはスレイの横に立って、スレイの机の上で紙に四角を描いたり線を引いたりその中にスキルの名称を書き込んだりした。自分にだけ見えているそのスキルボードを見ながら、それを模写した。
「ふむ。実に興味深い……。が、シュマルカ神とは本当にいったいなんなのだ? これは特権どころか、ズル、ではないか。我々の世界の
シゲルの説明を一通り聞き終えたスレイは天井を見上げ、深いため息の後に、そう言った。
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