転生勇者とはなんだ。それを斡旋する神とはなんだ。なんなんだ?

ハヤシダノリカズ

襲撃者と迎撃者

第1話 スレイ

 ノックの音がした。瀟洒な装飾が施された机の上には積み上がった書類、その机の装飾に合わせて作られたであろうベルベットの背もたれが美しい椅子に座っている男は真剣な面持ちで手に持った一枚の書類に目を通している。

「入るがいい」

 男は目を通した書類を低い方の書類の山に重ね、高い方の山から一枚を取り、その内容に目を走らせる。彼は自分の仕事をこなしながらノックした者を迎え入れる。

「失礼します」

 入ってきたのは小柄な男だ。男は開けたままの扉の前でうやうやしく頭を下げながら、「スレイ様。時間でございます」と言った。

「そうか。もう、そんな時間か。ご苦労。すぐに参る」

 書類に目を通していたスレイと呼ばれる男は、目を閉じ、目頭を軽くつまんだ後に立ち上がり、部屋を出る。

「いつも、すまぬな。世話になる」スレイは扉前に控えて頭を垂れている男に声をかけた。黒のズボンに黒のジャケット、その上に乗っている頭は山羊のそれだ。

「何をおっしゃいますやら。お仕事、お疲れ様です。スレイ様、お加減はいかがでございましょう。わたくしにはスレイ様の尻尾の様子が少し気になるのですが。少し疲労がたまっておられるのではないか、と」山羊頭の男はスレイに言う。

「おぉ。そうであったか。ふむ……。では、済まぬが、滋養のあるものを夕食に用意してくれるか、バルバス」

「かしこまりました」

 バルバスの返事に頷いたあと、スレイは廊下を歩きだす。バルバスに指摘された尻尾にチラリと目をやる。その濃紺の表面に一瞥をくれ、スレイは少しだけ眉間に皺を寄せ、歩みを速めた。


 中央に赤い絨毯が敷かれた廊下をスレイは歩いている。廊下に少し張り出ている柱には燭台が設置され、ろうそくが灯っている。スレイが手を伸ばしても届かない位置にろうそくは灯っているが、その明かりは天井まで届かない。絨毯が敷かれていなければ、スレイの足音は天井と壁にこだましているのではないか。高く、長い静かな廊下をスレイは歩く。痩身の身を紺のスーツに包んだ姿が赤い絨毯に影を作っている。ジャケットの腰辺りのサイドベンツ二つのスリットからは一対の羽が覗いている。その羽の色も紺だ。腰に紺の羽、尻にひょろりと長細い尻尾、その先端は終端の手前で少し膨らみ、終端は尖っている。スレイと燭台の上のろうそくの灯りは、赤い絨毯の上にそんな影をせわしなく動かしている。


 程なくして、贅を凝らした装飾が為された巨大な扉の前にスレイは着き、その両脇に控えている守衛にそれぞれ顔を向け、スレイは言う。

「ダズ、デーズ。王の守護、いつもありがとう。感謝する。私の王への謁見の本日の予定は聞いていると思うが、どうか?」

 ダズとデーズと呼ばれた甲冑を着こみ槍を構えた二足歩行の大型爬虫類の守衛は、自分たちよりもはるかに小さいスレイに深く一礼をすると、その大きな扉をそれぞれ手前に引き、開けた。

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