「紫陽花」

 ~♪

 スマホから流れる目覚ましの音を無視して布団をかぶる。大体五回程目覚ましが繰り返されてから僕は起き上がった。目覚ましを止めてから少しスマホを見ると、彼女からのメッセージを見つける。前日の夜に『明日何時?』と送ったメッセージへの返信だろう。

『10時頃で!!』

 僕はそのまま時計の針に目を向ける。――やべっ。少し焦り気味にいつもとは少し違う日常を繰り返して家を出た。


「ここら辺か」

 彼女の家の周辺までは思ったよりもスムーズに行けた。正確な場所が分からないのでそれぞれの表札を見て回った。


「おーーい。こっちだよーー」

 彼女の声だ。声がする方を向いて彼女だと確認してからそっちに走った。

「おはよ流依くん」

「ん、おはよ……でさ、なんとなくここまで来たけどさ、結局今日、何するの?」

 そう。僕は今日何のために呼び出されたかも知らない。

「うーーん、そうだなぁ……散歩?」

「え、雨だけど」

。でしょ?」

 やっぱり彼女は読めない。ただそのために僕を呼んだのか。とも考えると、もっと分からなかった。


 雨が降る中、なんでもない会話をしながらただただ歩いていた。特別なことは何もない。ただただ、分からないまま歩いた。


「ねぇねぇ! みてこれ! 紫陽花!」

 彼女は紫陽花をみて嬉しそうに僕に語りかけた。「紫陽花。好きなの?」そう尋ねると彼女は、

「そう! 一番好きな花なんだよね」

「なんで?」

「そうだなぁ……梅雨に咲くから。かな。紫陽花ってさ、他の花と違って雨が降ってる梅雨に咲くでしょ? 綺麗なのに、強くて。あと、いろんな色になれるでしょ? そんなかんじかなぁ」

 この時の彼女は、これまででに見せてきた表情の中で、最も真剣で、楽しそうな目をしていて、輝いて見えた。

「だから私は雨が好き。流依は? 雨、好き?」

「僕は、雨は嫌いだな。濡れるし、じめじめしてるし、どんよりしてて生ぬるい空気で過ごさなきゃならないし。…………でも、紫陽花は好きかも」

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