No.29&30【短編】堕天使スタンプラリー

鉄生 裕

前編

『堕天使スタンプラリー』


【ルール説明】

①タンプラリーの参加者は堕天使にのみとする。

②間界に隠されたスタンプを七つ集めると、以下のどちらかを選ぶことが出来る。

③一度だけ熾天使に挑めるor一つだけ願い事を叶えられる。

(※願い事については、叶えることが不可能な願い事もあります。

その場合は、別の願い事にするか熾天使に挑むかを改めて決めていただきます。)

④熾天使に挑んだ場合の生死については、一切責任を負わない。




人間界に堕とされた堕天使たちの最後の望み、

それが『堕天使スタンプラリー』だ。


見事にスタンプを七つ集めた堕天使の大半は、

『天使』に戻るという願いを叶え、天界へと帰って行った。


ちなみに、天使には全部で九つの階級があり、

その中で『天使』は一番下の階級だった。


スタンプラリーを七つ集めただけでは、

それ以上の階級を望むことはできなかったが、

それでも、堕天使にとっては天界に帰れるだけで十分だった。




だが、なかには熾天使に挑もうとする物好きもいた。


『天使』に戻れたところで、

それ以上の階級に上がることはなかなか厳しい。


しかし、もし熾天使に勝つことが出来れば、

『天上位階級』と呼ばれる九つの階級の中でも、

より上位の階級を与えられると約束されていたからだ。




今まで熾天使に挑んだ堕天使は二十名程だったが、

彼らのほとんどは、熾天使に殺された。


誰も、熾天使に勝つことはできなかったのだ。


なぜなら、熾天使は【少し先の未来を見る】という

能力を持っていたからだ。




そんな熾天使に今、まさに挑もうとしている

堕天使の兄弟がいた。


そもそも、なぜ彼らが堕天使となったのか。


その原因は、彼らの母にあった。


ある日、天界から人間界の様子を眺めていた彼らの母は、

偶然にも幼い少女が一人の男に襲われそうになっているところを目撃した。


その様子を見過ごすことのできなかった母は、男を殺した。


しかし、天界にはいくつかのルールがあり、

そのうちの一つに、

『いかなる理由があろうと、人間界の事象に干渉してはならない』

というルールがあった。


ルールを破った母は処刑され、

彼女の二人の息子は、人間界に堕とされた。


さらに、天使たちは人間界の時間を巻き戻し、

男を生き返らせるどころか、

またしても男に少女をレイプさせた。


母の死は、無駄死にだった。




堕天使になった兄弟は、

『母を殺した天界の者たちを一人残らず殺す』

ために、五年という年月をかけて七つのスタンプを集めた。







「おやおや、私に挑戦するのは弟の方かい?」


熾天使は兄弟に尋ねた。


「お前なんか、俺で十分だ。

お兄ちゃんと戦ったら、お前なんか瞬殺だ。

それじゃあ面白くないだろ?」


弟がそう言うと、熾天使はゲラゲラと笑った。


「ずいぶんと生意気な餓鬼だ。

すぐにその生意気な鼻をへし折ってやろう。

では、さっそく始めるとするか」


それを聞いた審判がゴングを鳴らすと、

会場のボルテージが一気に上がった。




弟は熾天使にゆっくりと近づき、

熾天使はそんな弟の様子をじっと見ていた。


「何を企んでいるかは知らないが、

お前は私に触れることすらできないだろう。

未来の見える私は、お前の攻撃を全て予測し避けることが出来る。

お前は私に一撃も入れることすらできず、私に倒されるのだ。

どれどれ、それではさっそく未来を見てみるとしよう」


熾天使はこれから起こるであろう少し先の未来を見た。


「なるほど、お前の腹の中には爆弾が仕込まれているんだな。

しかも、天界を吹き飛ばすほどの威力の爆弾を」


未来を見た熾天使がそう言うと、会場が一斉に静まり返った。


「観客たちよ、安心したまえ。

その爆弾は、此奴を殺すことで止まる仕組みになっている。

私が此奴を殺せば、一件落着じゃ」


熾天使は手に持っていた槍を力強く握りしめると、

その槍を弟の腹目掛けて突き刺そうとした。


その瞬間、リングの外で試合を見ていた兄が、

「おい!本当にそれでいいのか!?」

熾天使に向かってそう叫んだ。


すると、槍を持っていた熾天使の腕がピタリと止まると同時に、

彼はリングの外にいる兄を睨みつけた。


「外野が口出しをするとは、マナーがなっていないな。

そんな事を言って、どうせ私を混乱させたいだけであろう。

でも、まぁいい。もう一度だけ未来を見てみようではないか」


そう言うと、熾天使はまたしても少し先の未来を見た。


だが、先程とはどこか様子が違った。


熾天使の顔からは笑みが消え、額からは大量の汗が噴き出したのだ。

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