猫目線
@kusamra1995
第一章 1
山に囲まれた町にも、日は隔てなく顔を出す。今朝も空は鮮やかな水色で、これが緑と調和して映えるのだ。
少女は空と山のあいだの辺りを視線で辿りながら、ふらふらと歩いている。
地味な色の制服に身を包んだ彼女はここいらの高校の生徒らしい。不規則に反り返った頭髪は決まった調子で揺れている。肩に掛けられた学生鞄は口を開けたまま、こちらも揺れている。
道路の対岸で集団登校をする小学生の黄色い列が一瞬視界を塞いだが、相変わらず目は空を泳いでいた。
そのうち、山を辿る視線は稜線をぐるりと一周して元に戻った。彼女が360度の自転を終える間に、太陽も2,3度は傾いただろうか。彼女は大きくあくびをすると、また周り始めた。
半周くらいが過ぎた頃、塀の向こうから小学生の男子が一人、慌てた様子で飛び出してきた。列に間に合わなかったのだろう、今にも泣きそうな顔で脇目も振らず、彼女の脇を全速力で駆け抜けていく。
かく汗のことなど考えもせず、彼はただひたすらに小学校を目指している。坂道を物ともしていない。
彼女は、替えの衣服を持ち歩いているはずもない彼の、今日のこれからのことを思って大きなため息をついた。そして来た道を振り返り、緩めの傾斜が下っているのを確認すると、「疲れた」と一言ついた。二度目のため息が混じっていた。
彼女は意を決したように角を曲がった。途端に、それまでずっと立て付けの悪かった瞼がしゃきっと開いた。朝からの疲れが取れたらしく、足取りは軽快なスキップに変わった。鞄のファスナーを閉じて真正面に跳んでいく。お日様は陽気。空気は、八方の山の緑がくっきり見える程に澄んでいる。
彼女は今日、高校をさぼった。
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