冬が来ても春は来ることを知らない
三日月静
冬が来ても春は来ることを知らない
雪に包まれた窓ガラスを眺める
天気予報によればもうすぐ春が来るという
僕は春が嫌いだった
春は「始まりと旅立ち」「苦い夢と紡ぐ夢」その他にもたくさんの物が詰まっている
だから僕は春が嫌いだ
春が来るなら冬のままでいて欲しい
そんなことを考えてると、彼女が古びたカセットテープをラジカセに差し込んだ
彼女は僕と真逆で春が来ることが待ち遠しいという
彼女は春に咲く桜や花見が好きだった
これを最初に聞いた時は花より団子ではないかと思ったがどうやらそういう訳では無いらしい
彼女は桜を眺めて、ただうっとりと身を任せていた
一枚一枚、散ってく桜の花びらはまるで涙のようだと彼女は言っていた
僕にはよく分からなかったけど分かった気もした
「泣いていても春は来ないよ」
彼女が僕に語りかける
「春なんか来なければいい」
僕は彼女に言った
「変わらないね、春が来なければ私とも会えないのよ?」
「それでも春は嫌いだ。春が来たら僕はここに居られなくなってしまう」
彼女は僕に目隠しをするかのように瞼(まぶた)にキスをした
「白いタキシードを纏えるのは冬だけ、ピンクのドレスを纏えるのは春だけ。悲しみ程幸せを教えてくれるものはないわ」
「私は貴方と逢えて幸せよ、貴方の春はいつ来るかしら」
END
解説
春=彼女、恋
ドレス=桜
花びら=涙
タキシード=雪
春と冬を擬人化して、「冬」は「春」の事が好きだけれど、「冬」は春になってしまったら「春」に会えなくなってしまう。それを考えてしまっている「冬」の春はいつ来るのか「春」はずっと待っている
冬が来ても春は来ることを知らない 三日月静 @hakumukagamiya
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