再就職先は盗賊でメスガキが先輩でした

@kuroreba

第1話 出会い

「おい、おっさん起きろ」


頭に軽くコツンと蹴られた感覚で目を覚ます、ぼくは草原にいた。


「あ…あれ…?」


「ここの場所ってあたしのお気に入りなんだよね、休憩料金はもらっとかないと、ねえ?」


どうやら可愛らしいメスガキにぼくはカツアゲをされている様だ。


そういえぼくは残念な事に数日前から無職になってしまったので新たな職を探し歩いていたが本日はお日柄も良く寝心地が良さそうな草原に通り掛かりこれ幸い…と横になりウトウトしていた事を思い出した。


この辺りは確かに盗賊が出るという噂は聞いていたが、まさかこんな真っ昼間からとは予想外であった。

天気が良いから草原の上で気持ちよく寝ていただけなのに何て災難だろう。

メスガキに財布の中に入っていた3シルバーをしぶしぶ渡す、しかしそれでも不満そうな表情で文句を言ってくる。


「たったこれだけかよ、しょぼいな。おっさん普段何してる人?ギルドとかに所属してんの?」


「いえ…ギルドは最近やめたんです…無職です…」


「雑魚すぎじゃん、んじゃあたしは次の獲物探すから!ばいばいー!」


ぼくの財布をさっと掠め取るとメスガキは上機嫌に背中を見せ去ろうとする。

しかし財布を取られるのは非常に困る。

近所の武器屋で貯めたポイントカードが入っているのだ…それも後2ポイントで目標の100ポイントが溜まる。

あれが全て溜まるとプレミアムな剣が手に入るのだ…絶対に諦める訳にはいかない…。


──プレミアムな剣が手に入れば就職に有利、ぼくはそれをもって人生をやり直すと誓っていたのであった。


「待って!カード類だけは返して下さい!!」


こうなれば恥も外聞もない、去ろうとする後ろ姿をガシッと掴みかかる。

離してなるものか、親にしがみつくコアラの赤ちゃんの如く覚悟を決める。


「なんだおっさん!離せ!こっちは忙しいんだ!」


予想外の必死な抵抗に少し困惑した表情を見せる少女。

…ここだ…ここが勝機!!たたみかける!


「お金はいいんで!カード類だけはお願いしますほんと!!!!」


ぼくの親が聞けば情けなくて涙を流す様な押し問答を繰り返す事となった。


──しかし終わりの時は早くに訪れる。


何しろ相手は武を生業に生活費を稼ぐ盗賊だ、基本スペックが違ったのであろう。


「…ふ、ふふ~ん!女の子にあっさり負けて恥ずかしくないの?今どんな気持ち~?悔しいか~?」


肩で息をしつつも煽り散らしてくる勝者であった。


「…負け、た」


敗者のおっさんであった。

こんな自分よりも一回り小さいメスガキに負け、見下ろされ笑われている。

そんな現状が非常に惨めで恥ずかしく早くこの場から立ち去ってしまいたい衝動に駆られた。


「しかし中々の粘りはあったな…よし!お前うちの盗賊団入れ!!!!」


「…え?」


こうして超スピードでぼくのプレミアムな再就職先は見つかり序章にて目的を達したのであった。

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