第26話 襲撃再び Ⅱ
「風の魔術が付与されているマジックアイテムか……魔力は魔晶石頼りか? そのマジックアイテムは魔力の消費も大きいだろう? あと何回使えるかな」
ユスフが口の端を吊り上げて笑う。
核に複数の術式を刻むことは可能だが、後から追加することもその場で組み直すこともできない。応用力に欠けるのだ。
そして魔術の発動に必要な魔力は魔術師なら己が用意し、それ以外の者は魔晶石と呼ばれる魔力の込められた結晶を利用する。後者の場合、当然のことながら魔晶石の魔力が尽きれば魔術は発動できない。新たに補充しない限りは。
「手の内を知られてるってのはやっかいッスね」
小声でスケアクロウが言う。口調から使える回数が少ないのが分かった。カークウッドはユスフから視線を反らすことなく訊いた。
「魔力が尽きるとその脚はどうなりますか?」
「普通の義足とブーツになるッス。近接戦は問題ないッスけど、さっきみたいに魔術での援護はできなくなるッス」
「あと何回使えますか?」
「さっきみたいな大技は二回が限度ッス」
「……そうですか。魔術師は私が無力化できます。ですが、その為には手の届く範囲まで近づかないといけません。使い切ってもいいですから、相手の注意を引いてください」
「了解ッス」
ユスフに聞こえないように会話を交わし、二人は目で合図をする。
先に動いたのはカークウッドだった。足元など凍っていないかのような足取りで、ユスフへと迫る。
「〝貫けよ――〟」
ユスフが呪文を唱え終わる前にカークウッドが視界から消えた。床が凍っていることを利用してスライディングでユスフの横をすり抜ける。
ユスフとスケアクロウが一直線に並んだ。スケアクロウは弧を描くように右脚を振り抜く。刹那、風が小さな竜巻となってユスフへ向かって来た。
「〝
咄嗟に呪文を切り替えて魔術を発動する。ユスフの前に光の壁が現れ竜巻を弾く。弾かれた竜巻はそのまま霧散した。
ユスフの背後にカークウッドが立ち上がる。
「〝爆ぜよ
背後に気配を感じ、ユスフが呪文を唱えた。魔術師を中心に空気が爆ぜる。
風圧でカークウッドが飛ばされた。しかし器用に空中で姿勢を整え、そのまま着地する。
「大丈夫ッスか!」
カークウッドが視線をスケアクロウに向けた。それを受けたスケアクロウが距離を詰めた。ユスフの前にはまだ光の壁があった。
スケアクロウは左脚を軸に右回転をして、そのまま後ろ蹴りを放った。燐光を纏った義足が一直線に光の壁に激突する。足裏から風が生まれ、光の壁を打ち抜いた。
風の衝撃を受けユスフが吹き飛ばされる。光の壁によって減衰したとはいえ大人一人を吹き飛ばすには十分な威力だった。
ユスフの吹き飛んだ先にはカークウッドが待ちかまえている。飛んできたユスフを左手でいなして床へと叩きつけた。背中を強打して咳き込んだユスフの腹部に、カークウッドは膝を乗せ体重をかける。
「ぐはっ」
「これで
「な、何……をする気……だ」
腹部に圧力をかけられてユスフは話しにくそうだった。表情に怯えはなかったが疑問は強く感じているようだ。
「構成式は人によってその形が違います。魔術師とそうでない者は特に」
「こ、構成式? 何の……話だ」
「ああ。貴方は〝式視の魔眼〟を知らないのでしたね。なら構成式もご存じないですね」カークウッドの魔眼がユスフを見つめる。「ですが長々と説明する気もありません。要はもう魔術が使えなくなる……それだけです」
そう言ってカークウッドは心臓のある辺りへと右手を伸ばした。キンッ――という硬質な何かが割れるような音が響く。
「こほっ」
ユスフが咳き込んだ。肺から空気が抜けると同時に、魔力も体から抜けていく。同時に星気体に刻んだ術式を感じることができなくなった。魔術師が驚いた顔になるのを見て、カークウッドが離れた。
「くっ。術式が……消えた? 貴様何をした!?」
「消えた訳ではありません。まだ星気体に刻まれたままでしょう。でもそれをもう認識することも使うこともできない。魔力も感じないでしょう?」
言われてユスフはいままで当然のように感じていた魔力の存在を認識できないことに気づく。上半身を起こし、頭を垂れ、両手のひらをじっと見つめる。
「なぜ……」
「構成式の一部を壊しました。魔力を感じ使うための部分をね。殺しても良かったのですが、引き渡す約束なので」
そう言ってカークウッドは近寄ってくる近衛騎士を見た。
「お見事ッス。しかしあれッスね。カークウッドさん実は強いんッスか?」
「?」
スケアクロウの言葉にカークウッドはきょとんとした表情になる。彼の魔眼と右手にあった炎は消えていた。
「吹っ飛んできたコイツを、あっさり打ち落としたじゃないッスか。しかも腕一本で」
「ああ」カークウッドが得心した表情になる。「あれはコツがあるんですよ。それに正面切っての戦いが得意でないのは本当です。私では最初の二人組を倒すのにああも鮮やかとはいきません」
「できないとは言わないんッスね」スケアクロウが苦笑する。
「褒めてるんですよ。貴方を。それよりもこいつらの処理を任せてもいいですか?」
「それは構わないッスけど……どこか行くんッスか?」
「ええ。もう一つだけ片付けないといけないことがありますので」
カークウッドの視線は窓の外。帝都の中心へと向いていた。
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