第20話 光明
オフィーリアは自室で一人、物思いにふけっていた。
王宮に行ってから五日が経とうとしている。あれから何の動きもなかった。バシェルを通して近衛騎士団のメイナードに連絡をとってみたが、未だ犯人は分からずじまい。イルマの方も寝込んだままという話だ。
自分の置かれた状況は分かった。でも死なない為には、これからどうすればよいのだろうか。オフィーリアの頭の中はそれを考えることでいっぱいだった。
「オフィーリア様。少々よろしいでしょうか?」
扉の向こうからカークウッドの声が聞こえた。返事をして中へと入れる。彼の後ろには見知らぬメイドが付き添っていた。短く切りそろえられたダークブラウンの髪に、明るい茶色の瞳が印象的な女性だ。
「? その
不思議に思いながらオフィーリアは訊いた。もし新人ならカークウッドの時のようにバシェルが紹介するはずだ。
「オフィーリア様は以前、私を雇いたいと仰いましたね。その気持ちは今も変わっておられませんか?」
だが、返って来た答えは予期しないものだった。オフィーリアの思考が一瞬止まる。
「え? 貴方はもう雇っているんじゃ……?」
きょとんとした表情で言うオフィーリアを見て、カークウッドはため息をついた。
「今日は察しの悪い方の貴女ですか? それとも皇女殿下は鳥頭でいらっしゃる?」
「なっ!? ちょっとそれどういう意味よ?」
カークウッドの馬鹿にしたような物言いに、オフィーリアが抗議の声を上げる。
「そのままの意味です。私を『雇えないか』と訊いたくせにもう忘れたのですか?」
「え? え? ちょっと待って。それって……」
オフィーリアはここ最近の記憶をひっくり返した。すると一つだけ思い当たることがあった。庭師に襲われた翌日のこと。カークウッドの正体を確かめるために彼女の部屋に呼んだあの時。
オフィーリアがカークウッドに「雇えるか」と訊いたのはその一回きりだ。
「思い出したか? お前に雇われてやると言っているんだ」
カークウッドの雰囲気が変わった。それは今まで二回ほど見た、カークウッドではない別の誰か――暗殺者〝
「急に……どうして?」
――お金の他に魅力的な提案があるのでしたら考えますが?
〝人形師〟は自分が寝返るだけの価値があるものを示せと言っていたはずだ。
――あたしが雇ったら、貴方を退屈させないわ
オフィーリアはそれに対し一つ提案をし、〝人形師〟は興味を持った。
――どういうふうに俺を退屈させないんだ?
――どうせしばらくはお前に手を出さない。その間に俺をどうやって退屈させないのか考えておけ。
だが、その答えをオフィーリアはまだ示せていない。なのになぜ。
そんな疑問が表情に出たのだろう。〝人形師〟はオフィーリアを見て苦笑を浮かべた。
「不思議か? 咄嗟に食い付かず、そう思えるだけの余裕はあるのだな」〝人形師〟は面白がるように言う。「お前のおかげで依頼人に見切りを付けるだけの十分な理由ができた……それだけだ」
自分を殺しに来た暗殺者が、今度は味方になってくれると言っている。どうすれば死なずに済むかと考えていたオフィーリアにとって、それはひと筋の光明に見えた。
「もう一度訊く。まだ俺を雇う気はあるか?」
「も、もちろん!」
オフィーリアは即答した。
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