その3
王歴二一○○年 六月八日
ナトリを襲撃して一週間ほど経った。ミヤギ州の南部も完全掌握し、革命軍としては十分な戦果を挙げていたが、彼らに勝利の余韻を喜ぶ余裕はなかった。
現在、ユウヤとカツヤ、それに革命軍戦闘部隊の隊長たちは、イズミ行政区にある大学施設の会議室で重々しい話し合いを行っていた。
「……正直に言いますと、フクシマ侵攻が芳しくありません」
宝田が口を開く。革命軍の面々が気にしていたのは、まさにそこだった。
「そうだな。もし第七の国王が第一の国王や第六の国王に救援要請を出したら俺たちに勝ち目はない。なんとか第七王国の一級持ち貴族二人は撃破、一人は戦闘不能に追い込むことが出来たが……、それでも防衛線を敷かれると、時間的に余裕のない俺の方たちが完全に不利だ」
開戦からすでに結構な時間が経ってしまっている現状、いつ他の王国が連合王国協定に基づいて救援に来てもおかしくない。しかし、現国王は一切救援要請を出さないことにカツヤは不信感を覚えていた。
「なぜ国王は救援要請を出さない……? 自国の八割近くが敵に占領されているんだぞ、普通出すだろ」
「救援を出せば後々内政へ干渉される危険性もありますので、恐らくその点を気にしているのでしょう。しかし、他の加盟国が手を出してこないのは幸運です。一番厄介なのは第二王国がニイガタから聖戦を仕掛けてくることでしたが……、どうやら奴らは第四と第五に手を焼いているようです。無駄に戦火を広げないためにも、こちらへ軍を派遣するつもりは無いでしょう」
カツヤの疑問に部隊長の一人がタブレットを持ちながら起立して答える。第四王国は旧九州地方を、第五王国は旧中国四国地方をそれぞれ支配している。この二国は第二王国で革命が起きて以降、第二王国の現国王と激しく対立しており、第四王国から支援を受けた第五王国と第二王国による国境付近での小競り合いが何度も行われている。旧関西方面に気を取られている以上、こちらに攻めてくる可能性はほとんどなく、ニイガタに第二王国が兵を展開しているのはあくまでも牽制だろうと、ここにいる革命軍の大多数は考えていた。
「幸運に幸運が重なっている状況か。クッソ、だからといって余裕はこれっぽっちもねぇな」
カツヤの言っていることは正しかった。ここで第七王国の国王が諦めて救援要請を出せば、長期戦を想定していなかった革命軍は物資も兵力も足りず、すぐに鎮圧されてしまう。
「だがらこそ解せねぇ。奴らはすでに戦闘向きの一級を二人も失っているんだぞ。今残っている一級の内一人は長期の戦闘不能で、もう一人は非戦闘系だ。国王自身も非戦闘系だし、防戦なんてやっている余裕はないはずなのに、なぜ……」
王国軍はこの革命において、防衛線を敷くばかりで積極的な攻撃に打って出てこない。事実、ナトリを鎮圧してからの一週間、王国軍は一度もフクシマ州から出てこなかった。
「確かに不自然な戦法を彼らはとっていますが……、それとは別に、考えなければいけない問題があります」
宝田が立ち上がり、会議室にあったプロジェクターを起動する。スクリーンにはナトリ基地の地下で見つかった、あるものが映し出されていた。
「ナトリ基地で見つかった、この超大型生物兵器、基地の資料によると「巨人兵」と命名されているそうですが、情報部隊の調査によると人間の肉体を人工的に培養し、さらには複数の人間の脳みそを頭部に無理やり詰め込んでいる模様です。DNA検査の結果では、行方不明になっていた強化の儀参加者のものと一致しています。残された研究資料から、武器としての使用を念頭に置いていたようですが、どうやらまだ未完成のようですね」
カツヤも含め、会議室にいた者は全員絶句した。スクリーンに映っているこの不気味な巨人が、元は自分たちと同じ人間だったなど信じたくはなかった。
「非人道的実験の証拠が見つかっちまったってことか。つくづく救えねぇな、この国は」
カツヤが胸糞悪そうに吐き捨てる。
「この巨人兵を元の人間に戻せるかどうかの調査も含めて、今後の計画について再度練り直す必要性があるな……。今日のところは一旦解散とする。俺と宝田でも作戦を考えるが、他の面々からの提案も期待する。以上だ」
会議の参加者は腰を上げると、のそのそと部屋から出て行った。皆、あまりのことにげっそりとしている。
「カツヤ、大丈夫?」
会議室に残っていたカツヤに、ユウヤは心配して声をかける。
「あぁ、心配ない」
カツヤはそう一言返事をすると、会議室の出口へ向かう。ユウヤもカツヤについて行った。
「……正直、強化の儀で行方不明者が出ていることを知った時からこういう可能性も考慮してたが、それでも実際に見ちまうとダメだな」
カツヤがまっすぐと廊下の先を見つめながら独白する。その足取りはいつもより重かった。
「僕も、第七王国がここまでひどい状況だなんて思わなかった。僕の見ていたものなんて所詮、仮初の平和でしかなかったんだ」
ユウヤは第七王国を、多少の不満はあれど平和な国だと思っていた。だからこそ、そんな上っ面の部分だけしか知らなかった自分自身に嫌悪を覚えた。
「お前は別に悪かねぇよ。すべての元凶は、全部第七王国の国王にある。なんとしてでも、俺たちはアイツを殺さなきゃならねぇ」
カツヤの目には、憤怒の色が見えていた。
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