219. 口は固いんだから

219. 口は固いんだから




 放課後。教室。オレは黒崎に言われて残っている。修学旅行のあの一件から2人きりになるのは初めてだ。緊張する。


 黒崎はあれからは本当に前と同じように接してくる。前に夏帆が言っていた、友達以上恋人未満の関係はキスをすると。それをしたせいで意識しているのはオレだけなんじゃないかと思うくらい普通だった。いや、それはそれで少し寂しい気もするが……。


「お待たせ。ごめんなさい、先生の話が長くて。」


「ああ。別に平気だ」


「この前のレポートを一緒に確認してほしくて。大丈夫ならこのまま提出するわ」


「分かった」


 そう言ってレポートを取り出し、お互いに目を通す。そして、間違いがないかどうかを確認していく。ふと黒崎の唇に視線がいってしまう。


 ダメだ。集中できない。あの時、触れた感触を思い出してしまう。柔らかかったな……って何を考えているんだ!オレは!


「なにかしら?」


「あーいや……なんでもない」


「そう?なんだか顔が赤い気がするけど……」


「き、気のせいじゃないか?それより、これであってるぞ」


「ええ。ありがとう」


 危なかった……。変なことを考えていたなんてバレたら引かれていたかもしれない。落ち着け、自分。冷静になれ。そして黒崎はレポートをカバンにしまうと突然オレの頬に手を当ててきた。その行動に驚いているとそのまま見つめてくる。


「ダメよ。言ったじゃない。私と神原君は大親友。あの日のことは私のワガママなの。」


「黒崎……」


「夏帆ちゃん……待ってるんじゃないの?」


「ああ。そうだった。」


「早く行ってあげなさい。安心して。私は口は固いんだから」


 そう言ってオレを送り出す。黒崎のその姿はどこか寂しそうにも見える。オレはなんとも言えない気持ちのまま教室を出る。そして、夏帆の待つ自分の部屋に帰るのだった。

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