11. 事実じゃないです

11. 事実じゃないです




 今日は不当な約束だが、白石と出かけることになっている。この前みたいな駅前集合とかではない。オレは約束の時間になったので白石の家に行く。


「おはようございます先輩!」


「おっおう……おはよう」


「この前も思ったんですけど、先輩私の私服姿好きなんですか?」


 そういって白石はくるっと一回転してみせた。今日の白石の服装は白のブラウスに紺色のロングスカートという清楚な感じだった。悔しいが正直とても似合っている。


 そんなことを思っていると、白石が顔を近づけてきた。そして耳元でささやく。


「可愛いですか? 嬉しいです……」


 白石の声が耳から脳へと伝わり全身を駆け巡る。顔が赤くなるのを感じる。オレは急いで目をそらす。


「顔赤くなってますよ先輩?」


「うるさい! 早く行くぞ」


「あー待ってくださいよ~」


 オレたちは電車に乗って繁華街の方へ向かう。その途中でオレは白石に質問した。


「ところでどこに行こうとしているんだ?」


「えっ? それはですね……内緒です」


 そう言って白石は人差し指を口に当てて微笑む。


 まぁ行き先なんてどこでもいいのだが。それにしてもなんだか今日はやけにはしゃいでいる気がする。こんな風に楽しそうな白石を見るのは初めてかもな……。


 そうこうしているうちに目的地に着いたようだ。


「着きましたよ先輩! さぁ入りましょう」


 そこは最近できたばかりのカフェだった。店内に入るとおしゃれな雰囲気で、女性客が多い印象だ。白石に連れられて窓際の席に着く。


「ここ。友達がお洒落な場所だから先輩とデートで行ってみたらって教えてくれたんですよ」


「ん?お前……友達にオレとのことなんだって言ってんだ?」


「え?彼氏ですけど?」


「お前……友達に嘘つくなよ。変な誤解されるだろうが」


「でも事実じゃないですか」


「事実じゃねぇし。オレはお前と付き合ってないだろ。」


 こいつは何を言っているんだ。まったく理解できない。しかも何かを言えば変な屁理屈で返してくるし……。


「とりあえず注文しましょう!何がいいかなぁ……」


 メニューを見てどれを食べようか悩んでいる白石の横顔を見ているとなぜか憎めないオレがいるのだった。

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