5年ぶりの両片思い
アイスバー
五年ぶりの再会 —— 加藤大揮
僕、
その人はとても可愛くて、それでいて、だれにでも気軽に話しかけてくれるすごく優しい人だった。僕が少し頭が良かったのもあってか、たまに勉強のことを聞かれて教えると、輝かしい笑顔とともに「ありがとう」と言ってくれた。そんな彼女を見て好きにならないほうがおかしいかもしれない。ただその時の自分は、自分に全く自信がなく、もしこの気持ちを伝えて、逆にその後避けられてしまったらこの先やっていけないかも、という思いから結局この気持ちに決着をつけれずに中学を卒業した。卒業式後に勇気を出して一枚だけ一緒に写真を撮ってもらった。その写真は今でも大切にとってある。
僕は地元の進学校に入学し、バスケ部に入り、勉学と部活動に励んだ。恋愛面にはあまり興味が
部活は厳しく勉強も大変だったが、自分と同じアニメが趣味の友達も何人かでき、普通に楽しい高校生活を送った。そうしているうちにあっという間に高校生活も終わり、僕は地元のそこそこ頭のいい大学に入学した。
そして今、
「明日の成人式何時に行くー?」
「そうやなー、てかお前場所違うやろ」
「そうやったそうやった」
僕は大学の帰りに友人の
「てか大揮、明日あの人に会えるんやろー。何とか話して来いよな」
「いや、もう無理やって」
「でも諦めきれないんやろ、ズドーンって行ってドカーンってしてグハッってさせてこい」
「チョットナニイッテルノカワカンナインデスケド……」
彼には僕の中学の時の片思いのことを話した(てか、実際にはこいつの彼女が無理やり話させてきた)ので、たまに気分程度にからかわれる。
「お二人さん、何やら面白い話をしてますな」
後ろから聞きなれた声が聞こえた。
「明日の話をちょっとな」
「てことは成人式かな?そういえばりゅう君、明日何時集合にする?」
「八時半ぐらいでいいんじゃないか」
「オッケー。じゃあその時間にいつものカフェで。ちなみに服のご所望は?」
「ひーちゃんなら何でも似合うと思うぞ」
「りゅう君は優しいねー」
「……頼むから二人の世界に入るのは俺のいないときにしてくれ……」
見ていて微笑ましいが、このままだと自分が気まずくなってしまうので口を挟むことにした。
三人で話していると気づいたら二人と別れる駅に着いていた。別れ際に陽菜から「明日は自分から行くより待ってたほうがいいよー。てか待っててあげて」とよくわからないことを言われた。それについて聞いても、少しニヤニヤしながら「ただのアドバイスだよー」としか答えてくれなかった。
ちなみに帰りの電車の中で視線を感じたが、敵意的なものではなさそうだったので別に気にしなかった。
「さあ、困った」
僕は今、何を着ていこうかと真剣に悩んでいる。さっき「これでいいだろう」という感じの服を選んだが、横を通った妹にダサいと指摘された。というわけで服を選びなおしているわけだが、普段あまり外に出ないせいか全く決まらない。結局普段誰も入れないオタク全開の部屋に妹を呼び出して選んでもらった。
そして、財布、ラノベなど必要なものをリュックに詰めて家を出た。
成人式の会場は自分の通っていた中学校の近くにある文化会館で行われるため、行きも帰りも歩きである。道中、多分同級生であったであろう人を見かけるが、友達が少なかったせいか、時の流れのせいか、それが誰か思い出せなかった。
会場に着いて、壁にもたれて休んでいると前から懐かしい声が聞こえた。
「よー大揮、久々やなー」
「この声は貴人やな。てか……えっ……」
「んっ、どうした大揮」
「いや、お前……本当に貴人か?」
「いやー、高校入ってから剣道を始めてな、それでこうなった」
「剣道でこうもなるか……」
そのあと高校の時のことや、今の大学のことを話していると式が始まる時間となった。
「退屈やったな」
成人式といっても自分の会場では市長や他何人かの言葉を聞いて終わった。
その後、中学の時のクラスごとで何かすることになった。
というわけで、クラスのメンバーでカラオケに来ている。
「そういえばあの子への思いは吹っ切れたのか?」
何人かが歌い終わったとき、貴人にそんなことを聞かれた。
「いやもう5年も会ってないんだぞ」
「なるほど吹っ切れてないんだな」
貴人が斜め前をちらっと見て、ニヤニヤしながら言ってくる。
僕もつられて斜め前を見ると、そこには笑いながらにこやかに歌っている彼女がいた。こうやってはっきりと見ると改めて彼女の可愛さを実感する。成長はしているが、五年前と変わらない美しい容姿に長くてきれいな黒髪が目立つ。それに彼女が笑うとさらに可愛くて心を撃ち抜かれる。
僕は改めて彼女が好きだと実感した。
「あーそーだよ、吹っ切れてねぇーよ」
「そうかそうか。じゃあ試しに告ってみたら」
「いやいや俺じゃ彼女には全く釣り合わないって」
「まあそうだよなー」
「・・・・・・少しぐらい否定してくれよ」
僕はそう言って小さくため息をついてもう一度彼女の方を向いた。すると一瞬目が合った気がした、が、すぐにそらされてしまった。貴人との会話を聞かれて引かれてしまったのかと少し悲しくなった。
夜の八時を回ったところで解散となった。周りには二次会に行こうとしている人、お酒を飲んで少し休んでいる人などいろいろな人がいた。
「こう見るとなんか懐かしいな」
「せやな、まあ俺はあまりかかわってなかったけど」
「そんな悲しいこと言うなよ。ほいでだいき、この後どうする?」
「そーだな……疲れたし素直に帰るわ」
「そうか、じゃあ俺寄る場所あるから」
「じゃあここでお別れやな。次会えるのはいつになるのか……」
「そのうちまたすぐ会えるやろ」
「まあそうやな」
そう言って貴人と別れた。僕も家のほうを向いて帰ろうとすると、不意に昨日の陽菜の言葉を思い出した。
『明日は自分から行くより待ってたほうがいいよー。てか待っててあげて』
(まあ自分から行こうと思うことはなかったけど気になるし少しだけ待ってみるか……)
僕はそう思ってカラオケ店の壁にもたれてスマホをいじり始めた。
別に期待はしていない。していないのだが、ふとスマホから顔を上げて周りを見渡すとこちらをチラチラ見ている人がいた。ふいに目が合って顔をそらしてしまう。今度は横目で今目が合ったほうを向くと、こちらに向かって歩いてくる人が見えた。僕は急に緊張してきてスマホに目を落とす。そしてそれから数秒後……
「えっと……あの……大揮くん」
かわいらしい声が自分の前から聞こえてくる。
「ハ、ハイ、ナンデショウアヤササン」
(やってしまった……)
来ることはわかっていたのだが、話しかけられると緊張度が急激に増し、返答の声が裏返ってしまった。だが彼女が気にしている様子はなく、言葉を続ける。
「確か同じ大学だよね。偶然だね。こんな偶然なかなかないからよかったら連絡先交換しない?」
彼女は緊張しているのか少し早口で言ってきた。
僕は告白じゃなかったのかと残念に思いつつ、そして、同じ大学だということに驚きつつ「はい、喜んで」と嬉しすぎて叫びたそうになるのを抑えながら返事をし、自分のメッセージアプリのバーコードを差し出した。
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