第2話
彼女の仲間を名乗るひとから、彼女について、聞いた。
困難な任務に向かうために、彼女は自ら目を閉じたこと。光のない場所での任務で、帰ってこれる保証もないこと。そして、彼女は適応力がとても高く、帰ってこれなくても平気で生きていけること。
わけがわからなかった。
でも、彼女について、思い当たる節はいくつもあった。目を閉じてるのに、まるで見えているかのように動く。赤信号で止まる。読み書きができる。
こういうのも、適応力、なんだろうか。目が見えなければ、目以外のものを利用し、目以外の何かを感じる。そういう力。
「おはよ」
「おはよう」
彼女。小走りに駆けてくる。転びそうな気配もない。目を閉じているのに。
いま、たぶん。
自分は、どうしようもなく悲しい顔をしてるんじゃないかと、ちょっと思った。
彼女に悟られないように、なるべく明るい声を出す。
「おっ。楽しそうだね?」
よかった。彼女には伝わってない。
「目が見えないのに、こういうのは分かるのか?」
「分かるよ」
人間には、光を感じる器官がある。彼女はそう言っていた。自分には、そんなものを感じたことはない。光は目を通してしか見たことがないし、そもそも感じるという状態そのものが、分からない。
「手。手繋いで」
「はいはい」
彼女は、手を繋がなくてもひとりで普通に歩ける。でも、目が開かないことを理由に手を繋いでくる。束の間の、本当に少しだけの、やさしい時間。
「治療、うまくいくといいな」
彼女は、自分の目を、治療しないといけないものだと言った。嘘、ということになる。それでもいい。彼女が、隣にいるなら。
「うん」
嘘をつくときの彼女の声は、きまって、こんな感じ。しょぼくれているというか、そんな感じの声。だから分かりやすい。
「手。暖かいなあ」
彼女。話題をそらした。声は元に戻る。
「そうか?」
彼女の手は、冷たくも暖かくもなかった。適応している。こちらの温度に。
「ねえ」
「ん」
「わたしが帰ってこなかったら。わたしのことは忘れてね」
しょぼくれた、ちいさな声だった。
彼女は、嘘をついている。
忘れてほしくない。
待っていてほしい。
でも、それを隠して、忘れてほしいなんて言っている。ちいさな、しょぼくれた、嘘とはっきり分かるような声で。
「あ。ごめんなに。聞いてなかった。治療の話か?」
ごまかすのが、せいいっぱいだった。
「ううん。なんでもない」
彼女の声。
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