第29話 戦闘隊の任務

 翌朝から早速、私とリゼットは初めて戦闘隊としての活動を開始する事になった。

 

「.......という事なんだが、なんか質問有るか?」


 私とリゼットに戦闘隊の活動を説明していた隊長。

 昨日のリゼットとの会話がまだ頭にいっぱい残り過ぎて、隊長のその説明内容が全てスルーしていた。


「えっ、あの~、すみません! ちょっとボケ~っとしてて......重要なとこだけでいいので、もう1回お願いします」


 私がそう言うと、すごく怪訝そうな顔付きで睨んで来た隊長。


 リゼットにだったら、そんな顔しないで、にこやかに何度でも丁寧に話すくせして!


 大体、リゼットが隊長を好きだなんて言うから、ついつい、2人の様子を観察する事にも気を取られ過ぎて、隊長の話を聞き逃してしまったんじゃない!

 元はといえば、私のせいじゃないんだから!


「お前な~、耳の穴ほじって、しっかり聞いとけ!」


「耳の穴なんて、ほじらなくてもちゃんと聴こえてます!」


 私がそう言うと、隊長は、ますますカチンと来たような様子。

 でも、その私達のやりとりに、リゼットがハラハラしているのが視界に入ったせいか、それ以上は、私に対して怒らなかった隊長。


 「戦闘隊のミッションはというと......」


 ミッション!

 なんか、かっこいい響きだ!

 タイトルにそんな言葉の入った地球原作のアクション映画のシリーズものを見た事が有る!


 戦闘隊である現状や迷彩服に、思わずトキメキを覚えてしまったりするのも、きっと、その影響も少なからず有るのだと思う......


 地球のアクション映画のような感じで、私もミッションを成し遂げられるようになるかな~!


「ティアナ、ちゃんと聞いてたか? 言ってみろ!」


 えっ、今度は、リゼットとの会話の件じゃなくて、『ミッション』なんていうカッコイイ響きに聞き惚れて、その映画の余韻に夢中になり過ぎて、ちゃんと内容を聞けてなかった~!


 マズイっ!


 二度も連続で聞き逃したりなんかしていたから、リゼットを前にしていても、さすがに隊長から雷が落ちそう!


「戦闘隊のミッションは......」


 今はただ、とにかくこの言葉を使いたくてウズウズしてしまうの!


 何か言わなきゃ!


 隊長にどやされる前に。


「戦闘隊のミッションは、居住地まで向かう途中、私達が毎日していたような事です」


 きっとそうに違いない!

 だって、あの道中では、隊長もアーロンもやけに慣れている感が有ったもの!


「まあ、つまりはそういう事なんだが......細かくあげてみろ!」


 えっ、それで合っていたんだ!

 なんだ、そんな事なら、私、言えるから任せて!


「獲物を狩ったり、野営したりする事!」


「分かっているじゃないか!」

 

 だって、あの時、それくらいしかしてなかったもの。

 でも、戦闘隊っていうからには戦うのでは......?


「あと、戦う事!」


 そういう事が無かったら、戦闘隊なんて、ただの名前負けになる。


「それは、出来る事なら極力避ける! 我々は平和主義者だからな!」


「えっ?」


 平和主義者って.......?


 平和主義者ばかりの集まりだったら、戦闘隊なんて集団はそもそも無くてもいいはずなのに。

 そうじゃないから、戦闘隊が存在しているんじゃないの?

 

「やむを得ない時だけだ、戦うのは」


「やむを得ない時っていうのは、例えば、どんな時ですか?」


 狙ってた女に、他のグループの隊員が手を出した時とかだろうか?

 ここで言うと、リゼットを巡ってという可能性かな?


「そうだな、例えば、野営の時に、他のグループと遭遇した時の縄張り争いとか、同じ獲物を狙っていて、同時に仕留めた時とか」


「えっ、そんな事程度で、同じ隊員同士で争うんですか?」


 思ったより、単純というか、幼稚っぽく思える理由だった!


「野営の時は、突然の風雨や野獣の襲来に備えて、快適な場所を陣取った方が良いからな。獲物を得られないのは死活問題になるし」


 単純なように見えるけど、そんなでも、生きていくうえで、かなり重要度が高かったみたい!


 でも、こっちのグループには隊長がいるわけだし、頭脳明晰なアーロンもいたら、もう鬼に金棒って感じがするけど。


「このグループで、争い事に負けた時って有るんですか?」


 百戦錬磨なイメージだけど、どうなんだろ?


「まあ覚悟が出来ている時は負けないが、不意打ちをされた時には、負ける事も有るよな、アーロン?」


 アーロンに確認を求めてる。

 隊長の記憶力より、アーロンの方が確実そうだもんね~!


「そうですね~。敵もなかなかでして、隊長が寝ている時や、僕が用を足している時を狙って攻めて来ますから」


「けど、これからは、ティアナがいるから、怖いもの無しだな~!」


 隊長が豪快に笑った。


「えっ、敵のグループの人を殺してしまうんですか?」


「お前、何、物騒な事を言ってるんだ! 威嚇する程度で十分だよ! お前の腕前なら、衣類の端っことか狙い撃ち出来るだろう?」


「そんな難しい要求されても......」


 心臓付近を狙うのは慣れてしまったものの、衣類の端っこって......


「そう言われてみれば、いくら百発百中のティアナとはいえ、衣類の端っこを狙うには、確かに慣れが必要だな~。おい、エリック、お前がターゲットになって、ティアナに練習させてやってくれよ」


「いきなり僕が実験台ですか? いくらなんでも、そんな危険な役回りはゴメンですよ」


 エリックが願い下げのように手を振って言った。


「大丈夫だって、ティアナの腕を信用しろよ! なあ、ティアナ?」


 隊長は、簡単に言うけど、そんな急に言われても......

 エリックを狙うなんて......


 エリックはイヤな奴だから、心臓を狙うのは簡単そうだけど!

 そうじゃなくて、衣類の端っこでしょう?


 それは、自信が無い。


「隊長は、ちゃんと私のそばにいて下さい」


 もしも、本当にそういうペアという能力が発揮されるというなら、是非にそうしてもらわないと!

 そうじゃないと、私は、エリックにかすりもしなくなるか、際どい所を打ってしまいそうだから。

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