第19話 それぞれの能力

「薬が抜けて、具合が悪いとか有りませんか?」


 私や隊長達よりガッツリと眠って起きて、そんな様子になんて、どう見ても見えないスッキリした様子の2人なのに、アーロンが形式的に尋ねた。


「「大丈夫です」」


 ウェイドとリゼットが、ほぼ同時に答えた。


「ウェイドやリゼットの意識も回復した事だし、まだまだ先は長いから、歩き出すぞ!」


 アーロンと違って、どすの効いた声の隊長に名前を呼ばれ、一瞬ビクッとなった2人。


 きっと、この2人、その前のナンバー呼びされていた事も、名前呼びに移行した経緯も、何1つ覚えてないんだろうな......


 そういう、面白い思い出が私にだけは有るっていうの、何となく悪くないかも!


 2人より、それだけでも優位に立っていられているような感じで。

 でも、そんな余裕で構えていられるのも、今だけだったりして。


 ......なんて漠然と思っていた事が、満更外れてなかった!


 薬の効力のせいだったのかも知れないけど......


 あんな見るも無残なダメ人間風になっていたウェイドとリゼットが、目覚めてからは、今までの分を挽回すべく、見違えるほどの人材になっていた!


 まず、ウェイド。

 見掛け倒しになっても仕方ないようなパーフェクトな容姿の持ち主だけど、意外にも、瞬発力に恵まれ、目にも止まらぬ速さで動けている!

 きっと逃げ足だけは、あちらの世界の誰にも負けないかも知れない!


「ウェイド、お前の遺伝子に獣系のそれ入っているんじゃないのか?」


 と隊長に言わしめたほど!


 確かに、獣系のしなやかな動きだけど、ルックスからは、獣なんて全く連想させられない。


 むしろ、隊長の方が、よっぽど獣っぽい!

 ......なんて、口が裂けても言えないけどね。


 そして、リゼット。

 美少女である見た目通りの癒し路線なんだけど、彼女のハンドパワーって、ハンパ無くて、どんな傷跡でもみるみるうちに治癒して、キレイな状態に戻してくれるの!

 こんな役に立つ素晴らしい超能力のようなものを目にしたのは初めてで、信じられなくて、しばらくの間、目を見張ってしまった!


「リゼットのこの能力って、生まれつきなの?」


「ううん、初めてなんだけど。何だか、不思議なんだけど、私に治せそうな気がしてきたの。今、手をかざしてみたくて、そしたら、こんな事になって......私も驚いたわ!」


 リゼットの言葉には、多分、嘘は無さそう。


 ウェイドにしても、自分で自分の俊敏な動きが信じられないような顔しているし。


 きっと、2人とも、まさか自分達にそんな能力が備わっていたとは、夢にも思わなかったのかも知れない。

 もしかしたら、たまたま、そんな能力を発動するような機会が、今まで無かっただけで気付けなかったのかも?


 私のあの百発百中のような銃の腕前にしたって......

 元の世界のまま安穏な感じで暮らしていたら、おそらく一生かかったって、気付く事が無く終わっていた能力なのかも知れないし......


 何だか、そう考えると不思議!


 ここで、こんなサバイバル風の生活する事によって、今まで自分達ですら気付けなかった未知の能力に、こうして気付かされる事になるなんて!


 隊長が言っていたのは、この事だったのかな?


 居住地に着く前に、適性を確かめるっていうのは......

 こういう土壇場の状況に置かれないと、発動しない特殊能力っていうのが、私達、には備わっている事を知っていたんだよね、きっと。

 

 それにしても、リゼットの能力、いいな~!

 戦闘隊の人々が負傷しても、リゼットの能力が有ったら、すぐに完治出来るのかも知れないし。


 戦闘隊......


 戦闘隊には救助班もいるって、アーロンが言っていたから、リゼットにその能力があるなら、それを優先させて、ハーレムなんかに配属されなくて済みそう!


 リゼットが、戦闘隊の救助班に配属になったら、一緒に行動出来るから隊長もウェイドも喜ぶんだろうな~!

 まあ、私も銃の腕前を買われて、戦闘隊に配属される可能性大なら、リゼットが一緒にいてくれた方が、断然心強いし。


 あれっ、だったら、このメンバーそのまま、変わらないって事?


 このメンバーはクセ者って気がしていたけど......

 特に、隊長とアーロンに関しては、今でもそう思っているけど......


 でも、2人の言動って、その時は、カチンと来たり、意味不明に感じる事も、ちゃんと後から納得出来る事が多いんだよね。

 だから、もちろん、2人の事は、キライとかじゃないよ、全然!

 

 このメンバーで行動する事も慣れたせいか、何だかんだ言っても、今では、少しずつ信頼関係も育まれているような気がしているし。


 慣れって、スゴイな......


 だから、全く別の知らない人だらけの所に配属されるくらいなら、あちらの世界では、このままのメンバーで行動していきたいような気持ちにさせられている。


 まあ、どうなるか、まだ誰にも分からないけどね.....


 なんか、これからの事を考えるとドキドキしてくる!

 審査が有るって事だけど、上手く行くかな......?

 

 こんな感覚、元居た世界では感じた事が無かった......

 こっちに来て、こんな期待と不安の入り混じった気持ちにさせられるなんて、思ってもいなかった!


 親や友達と別れて、1人絶望に駆られたまま、どうなるか分からない恐怖に怯えながら暮らす事になると思っていた。


 今のところ、そんな事は全く無いとは言い切れないけど、でも、何とか、普通と違う変わった時間を過ごせている。


 それどころか、むしろ......

 よく分からないけど、私、もしかしたら、思っていたよりずっと、この状況を楽しめているような気がしないでもない。


 気のせいかな......?


 だって、ついこの前まで絶望の淵にいたはずなのに、あんなに別れを泣いて惜しんでいたはずだったのに......

 急に、こんな状況に置かれて、容易くすぐに溶け込めるような柔軟性って、意外にも私に有ったんだね。

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