第3話
第3話〜触らぬドラゴンに祟りなし〜
俺とニーズヘッグが大空に飛び立ってからちょうど一時間が過ぎようとしていた頃だった。
「なあなあニーズヘッグ、俺達はどこへ向かってんだ?ずっと空の上だから燃料とかも心配だし...」
「心配せずとも燃料は、この機体には不要ですよ。あと私達が向かってるのはこの森を抜けた先にある人族の街です。あと1時間もしないうちに着きますよマスター」
「ふーん...あっ! 俺そういえば服とか着てなくね。やばいよ! こんなんで街なんか行ったら速攻で捕まっちゃうよ!」
「そうですね......でもさすがに服を作ることは出来ませんのでどうしましょうか。こちらで案を作成するお時間を頂けますか?」
「どうせ一時間もあるからなぁ。全然ゆっくり考えていいよ」
ニーズヘッグは問題解決のために、奮闘していくれている。
俺も色々と考えたが、現実的では無いので、特に言わないでおいた。
そして何も起きないまま十分程が経った頃だった。
急に警告音が鳴り響く。
ビービービービー!!!
「ん!? なんだ問題でも発生したか!?」
「前方の五十メートル先に、モンスターの反応がありました」
「ほう? だが俺たちは今、空の上にいるから襲われないだろ?」
「先程の問題の解決ができるかも知れません。マスター、どうか私の指示に従ってくれませんか♡」
「くっそ、こんな時に...その声はずるいよ〜。まあいいや、どうせ問題解決しないと俺が犯罪者になるだけだし。それでどうするの?」
「了解マスター。まず急いで行きまので少しだけ早くなりますよ」
「了解いっ!!!」
いきなり速度が上がったため、その圧で口を閉じてしまう。
先程までの安全飛行とはまるで別格だった。
目に映る景色があっという間に遠ざかって行った。
「目的地上空に到着しました。地上へと降下します」
雲の下にある地面へと急降下していく。
その間、昔乗ったジェットコースターを思い出し、少し懐かしさに浸ってしまう。
そして、地面が目に入るとそこには、何匹かのモンスターが馬車のようなものを取り囲み襲っていた。
馬車の外では、何人かのフルプレートアーマーを着た人たちが、馬車を必死に守っている。
しかし、中には力及ばず、殺されている者も見える。
「少し気持ち悪くなってきた...」
「了解マスター。鎮静剤のお注射を用意しました! 今投与していますので、直に楽になります」
「ありがとうニーズヘッグ。それで、とりあえずモンスターを駆除すればいいよね」
「はい、 相手はゴブリン三体、ホブゴブリン一体です。これなら武器無しで叩き潰せます」
そして俺たちは、地上へと着地すると同時に、一番強そうなホブゴブリンを足で踏み潰す。
もちろんホブゴブリンは、ぺしゃんこになり、そのままお亡くなりになった。
すると、いきなり現れたドラゴン?に驚いたゴブリンたちは、一斉に逃げ出した。
「対象の逃亡を確認、マスター砲撃の許可を!」
「許可許可、なんでもやちゃってニーズヘッグ!」
「逃がしませんよー! これで終わりです!」
ニーズヘッグがそう言うと、口が開き超高熱のビームを口から出始め、微かに喉の奥の方が熱くなる感覚があった。
これがドラゴンのブレスを吐くいた感じなのかと、テンションが爆上がる。
ゴブリン達に直撃し、もちろんお亡くなりなった。
テッテレー!
「今度は何の音だ?もしかしてやばいモンスターでも出たか?」
「いえ、マスターのレベルが一上がりました」
「こんなに早く上がるものなんだ。まあレベル0だったしな」
「私には経験値二倍とポイント二倍の機能が備わっておりますのでレベルなんてすぐに上がりますよ」
「色々とお得なんだな〜。その辺は後でゆっくり聞こうかな。それで次はどうするのニーズヘッグ」
「安心してくださいマスター。今助けたのは公爵家の娘が乗っている馬車です。この世界の貴族達は誇り高いのできっと私達にご恩を感じて、色々ともてなしてくれるはずです」
「なるほどね...でもドラゴンのままだけど大丈夫かな」
「では攻撃形態に移行しますか? 攻撃態勢では今の形態の防御形態よりもスピードを重視するのでマスターが丸見えになりますが」
「なるほど、なるほど...ん? 待て待て俺裸じゃん!」
「安心してください。マスターには戦闘服を着させています」
すると意識が自分の体へと戻り、視界が真っ暗闇になった。
すぐに辺りが見渡せるように変形した。
ニーズヘッグいわく、耐久面が弱くなる言っていたが、手足には装甲に覆われているし、背中の左右には剣六本と大きな槍が用意されている。
また防御形態と違ってドラゴンの姿ではなく、人型に近いので怖がらせることもない。
これならニーズヘッグと俺自身の体の両方で戦えるのでかなり強そうだ。
俺的にはドラゴン要素が少ないのであまり好みとは言い難いが、男子一般には喜ばしいものだろう。
するとニーズヘッグは次の指示を出してきた。
「ではマスター、そこにある馬車に近づいてください」
「でもあの騎士みたいな人達、めっちゃ警戒してるよ? なんなら殺意しか感じられないよ?」
「まあ、ドラゴンの姿ではないので大丈夫かと...多分」
俺はニーズヘッグを信じて馬車へと近づいて行く。
すると騎士の中でも一番偉そうな赤いマントをした騎士がこちらに恐る恐るよってくる。
一メートルほどの剣であれば届いてしまうほど近づくと、俺は一度立ち止まり、転生して初めての会話をした。
「あのー...」
「何者だ。 こちらに危害を加えるなら容赦はしない!」
「いや、待ってくれ。俺たちに敵意はない。それにあなたたちが公爵家と知っていたしな」
「そうか、ならこちらに敵意がないならいい。助けてくれたのは感謝するがこちらも被害が大きい...それにこの状況で竜騎兵とは戦いたくは無い」
「...」
(マスター、マスター! こいつ殺しましょう!)
ニーズヘッグは小声でとんでもないことを言い出した。
「ダメに決まってんだろ!」
「貴殿はさっきから誰と話している? まさかとは思うが貴様仲間を呼んでいるのか?」
「まさかそんなことは...それよりもそちらのお仲間さんが死にそうなんだが、治療はできそうか?」
「それは...貴殿には関係の無いことだ」
俺の目線の先には、片足を失い、出血多量で死にそうな騎士の姿があった。
しかし応急処置なのか足を紐で縛っているが、いずれは死ぬだろう。
誰も助けないのを見る限り、助ける手立てがないと見た。
このまま見捨てる訳にもいかないので、俺はその騎士に近づいた。
一瞬、赤マントの騎士に止められるが、俺はそれを押しのけ無理やり回復をさせた。
「もういい、そちらが信用しようがしまいが勝手だ。だけど怪我人を野放しにはできない。ニーズヘッグ、この者の回復はできるか?」
(はいマスター! 回復なら手を負傷場所に当ててくれれば可能です)
「了解......おし、手を当てたぞ! 開始してくれニーズヘッグ」
(了解マスター、治療を開始します)
すると俺の手をあてた騎士の足からは、いかにも回復魔法のような緑色の光が出ており、片足がみるみる生え変わっていった。
その光景を周りの人間は呆然と見たまま、動かなかった。
そうして十五秒程で完了した。
足から出ていた血も止まり、騎士の荒かった息は次第に落ち着いていった。
「よし、これでもう大丈夫だろうな。あとは安静にしとけば直に起きるだろう」
「我が同胞を助けてくれたのか、変わって感謝する。先程までの私の態度も詫びよう」
「まあ、あんなおっかないモンスターに襲われ、しかもいきなり現れた俺に警戒しない方がおかしい話だ」
「そう言ってもらえると助かる。それで貴殿は何者なのだ。貴殿のような竜騎兵は我が国にいなかったはずだが...」
「たまたま通りかかった田舎者だよ。この鎧はあっちの遺跡みたいな場所で入手したんだけど、俺もよく分からんのだ。あと今は街が近くにあるらしくて、そっち向かっているんだよ」
「田舎者...遺跡...まあ、詳しい話は街で聞くとしよう。せっかくだ、我々が街まで案内しよう」
「ああ、それはありがたい。その前に馬車の中にいる公爵家とやら無事なのか?」
「姫様なら気絶して横になられている。だから安心してくれ」
「そうか、じゃあ、あとは......前方のモンスターは俺がやった方がいいか?」
「そうだな、貴殿には助けられてばかりだがこればかりは任せたいのが本音だ。言い忘れていたが、私は王国騎士団団長エルラ・アルラシェフだ。改めてよろしく頼む」
「俺は...」
その時、俺はまだ名前が決まってないことに気づいた。
もちろん日本人の名前では怪しまれるだろう。
しかし、焦って頭が真っ白になってしまった。
必死に俺は怪しまれない名前を考えたが出てこなかった。
そんな俺を見かねたニーズヘッグがいい名前をつけてくれた。
(マスター、ヨグ・ランスロットはいかがでしょう? 適当にかっこいいやつを選びました)
「えっ、あ、俺は...ヨグ・ランスロットだ。こちらもからもよろしく頼む」
そう言って笑顔でお互い握手を交わす。
その後は俺とニーズヘッグが現れるモンスター(ゴブリン)を撃退しつつ、何とか街へと着くことができた。
「やっほーーーい! 街だーーーーー!!」
長い森を抜けた先に、大きな街が存在していた。
街というか、外見は砦のようで、奥にそびえる一番大きな城を中心に街が展開していた。
そして俺は一目見た瞬間、あの街には異世界の醍醐味が沢山あるだろうと確信した。
俺は心を踊らせて再び歩き出す。
すると街の入口付近に立っていた門番?らしき人達が大慌てで動き回っていた。
「あの門番みたいな人達は何をしているんだ?」
「今日は古都で各地域の領土から集まった貴族達でパーティーをする予定になっているだ。だから変なことが起きないように門番達も大忙しなんだろう。さて、私達も中へ入ろう。ヨグ殿のことは私から説明するから安心してくれ」
門の前へと立つと、門番の一人が大きな角笛を吹いた。
すると大きな門がゆっくりと開き、中からは重装甲で重そうな鎧を着た奴らが二十人程ずらりと並んでいた。
そして、その中心に一人だけ、貴族のような格好をした男がいた。
こちらへと近づき、一礼する。
彼だけは鎧などのものを身に着けておらず、また帯剣もしていなかった。
おそらく、案内に徹しているからだろう。
「よくぞおいでなさいました、公爵家ヴァレンタイン・ランジェ様と剣聖様。この度は古都騎士団副師長である私、ガンマ・イレインがご案内させていただきます」
「予定よりもかなり遅れてしまったが大丈夫だろうか」
「いえいえ問題ございません。パーティーの開催は夜でございます。それよりもお伺いしていた人数よりも少ないのですが」
「ああ、先程ゴブリン達に奇襲をくらってしまって、数人程やられてしまった。その時に助けてくれたのが、そこの竜騎兵のヨグ殿だ。一応、客人として彼の入国許可を願いたい」
「竜騎兵!? どどどこの国の竜騎兵ですかな!? 確か王国側にはこのような竜騎兵はいなかったと思ったのですが...」
「彼は野良の竜騎兵だ。それから詳しい話は中でもいいだろうか?姫様が気絶されていて横にしてやりたいのだ」
「かしこまりました。直ちに準備致します。それでは皆様どうぞ、中へお入りください」
どうやら無事に中へと入れそうだった。
そもそも竜騎兵とはいったいなんなのだろうか。
とりあえず古都へ入れたので一件落着と言ったところだ。
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古都へと入ると、騎士団から宿へと案内すると言われ、着いて行っていた。
大通りにの道沿いを騎士団と移動している途中、前方からやって来る馬車に目を奪われてしまう。
その馬車は荷台の部分が大きな牢屋のようになっており、前横には紫色の布のようなものが被されていた。
決していい趣味ではないが、異世界なら普通なのかもしれないと自分に言い聞かせ、その場を過ぎようとする。
そして丁度横を通り過ぎた時だった。
長いようで短い時間に囚われるのは惹かれ合う何かがあるからだ。
感覚としては一分程あったが、実際は三十秒程でしかない。
だがそんな中に俺は一人の子どもに目を奪われてしまう。
馬車の後ろ部分には布はなく、中の様子が見れたのだがそこにいたのは鎖で繋がれた、綺麗な赤目の子ども。
顔はフードなどで見えなかったが、目だけは綺麗に赤く輝いていたためかはっきりとわかった。
すると、その子はこちらに見られていると気づいたようで、急いで顔を隠すように下を向いたのだった。
「あっ、ちょっと!!」
俺は呼び止めようとしたが、馬車はそのまま行ってしまう。
横にいたアルラさんに何かあったのかと尋ねられたが、俺は何もないと言ってその場を終えた。
「綺麗な目だったなー......」
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古都の内側〜高級宿〜
騎士団に案内されたのはお城の中にある宿だった。
どうやら今回パーティーに参加する貴族達が寝泊まりする場所のようだ。
しかし俺は騎士団から別の部屋へと案内されていた。
「俺達はどこへ向かっているのやら...それにしても狭い」
(マスターここからは非戦闘形態になった方が良さそうです。この姿では目立ちますし何よりも警戒されますので)
ニーズヘッグはそう言うと物凄い輝きを放ちそのまま一本の槍へと変化する。
スーツは着せられたままなので完全に武装を解いたわけではなかった。
「ニーズヘッグ!? どうやったらこんなにも小さくなるんだよ」
(私達竜兵装は特殊な金属で作られますので、魔力を使えばどんな形にもなれます。それに他の竜兵装にも形状変化はできます。なので騎士団の方達にも目立つことも怪しまれることもないでしょう)
「さすがニーズヘッグだな。ああ、あと聞きたいことがあるんだが他にもニーズヘッグみたいな奴がいるのか?」
(私のように高性能の竜兵装はなかなかありませんが竜兵装自体は国家間のパワーバランスを揺るがすものなので、国によって管理されているはずです)
「じゃ、じゃあそれを着てこの国に来てしまった俺はどうなんの?」
(多分ですが野良の竜兵装を着た人間がいると噂になれば、もちろん権力者達がスカウトしに来るもでしょう。ですが私は失われた機体ですので、詐取されることはないはずです。もちろん法律上ですが。これは世界の冒険者法という法律で、ダンジョンや遺跡などで発見したお宝は、見つけた人の物になると法律で決まってます)
「なるほどな...でも、変な国に捕まったりしないといいけど...」
(それはないので大丈夫ですよ。もし勝手にマスターと私を自国の物にしようとする者がいれば、私達が森をさまよっていた時点で管理ができておらず、その国は近辺の国々の信用を失います。あと、そもそもそんな国は私が滅ぼします。私がマスターを守りますから!)
「俺...一生ニーズヘッグについて行くよ」
(マスターにそう言って貰えて嬉しいです♡)
そんな話をしているとどうやら部屋へと着いたようだった。
中はベットと机だけで特段、変わったものはなかった。
「入国許可証の準備ができるまで、外出しないようお願いします」
「わかりました!」
「もし何か困ったことがございましたらドアの前にいる騎士団の者にお申し付けください」
「了解しました。まあ、特になさそうですけどね」
ドアが閉まり俺とニーズヘッグだけになる。
最初は緊張もあって気を張っていたが、それが一気に解放され、疲れが押し寄せてきた。
俺はベッドに横になると直ぐに意識が飛んだ。
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