16:監視生活?
ロザムンデとテーア、お互いを紹介する。
テーアの素性を聞きロザムンデは顔を一瞬だけ顰めた。きっと私の側に居るのが相応しくないとでも思ったのだろう。
「テーアはこの三ヶ月の間、私の生活を支えてくれたのよ。仲良くして頂戴ね。
それからテーア。貴女の方が若いけれどここでは先輩よ。ロザムンデに色々と教えてあげて頂戴ね」
「はいわかりました!」
「畏まりました」
表向きは仲良くしてくれそうだが、裏はどうかなと考える。
プライドの高そうなロザムンデがテーアを、修道院上がりの孤児など取るに足らぬと決めつけて無視してくれると、抱き込みも無くなり助かるのだけどね。
こんな遠方で孤立する様な仕事を請けた事を考えれば、ロザムンデがライヘンベルガー王国に陶酔している事は明らかだ。
ならば彼女は自分を殺してでもテーアを抱き込んでくるだろう。
その阻止については色々と考えてみたが、私には二人きりにさせない以外に思いつかなかった。こんなのは畑と一緒で、四六時中見張れないなら意味は無し。
しかし急に引きこむような事はしないだろうから、もう少しは猶予はあると思ってよいだろう。
それまでに何か考え付けば良いのだけどね……
ライヘンベルガー王国とは違って、こちらではお茶会や夜会は皆無だ。
街の方に行くには跳ね橋があるから面倒だし、かといって城の中に懇意にしている人もいない。屋敷を訪ねてくるのは三日に一度の商人エルミーラと、稀にフラッとくる宰相のラースだけ。
あら私ってとても優秀な監視対象じゃないかしら?
さぞかし監視が楽よね~と笑っていたらロザムンデに不思議そうに見られていた。
ありゃ失敗。
そう言えばフラッとと言えば、
「ねえロザムンデ。ちょっとお願いしたいことがあるのだけど?」
「何でしょうかレティーツィア様」
「屋敷の外に畑があるのだけど、私って嫌われているらしくてね。苗を植えても踏まれて荒らされたりするのよね。
それを何とか出来ないかしら?」
「罠を仕掛けるのはどうでしょうか?」
「罠? 怪我をさせては駄目よ」
獣を獲るような罠を仕掛けて、相手を怪我を、最悪の場合は死亡までさせてしまうと逆に立場が悪くなるだろう。
「鳴子か、逆さ吊り、後は落とし穴がよろしいかと思います」
落とし穴は聞くまでもない。穴を深くすると足を怪我しそうなので却下だ。
鳴子は木と棒が吊り下げられていて、ローブに引っかかると音が鳴る。それを聞いて走っていけば相手が捕まる、または威嚇になり逃げていくだろうと言う。
逆さ吊りはロープで仕掛けを作って置き、それを踏むと足を引っかけて文字通り逆さ吊りにする。捕らえられて一石二鳥。
「害はないのね?」
「きっと騒ぐでしょうから、せいぜい頭に血がのぼるくらいでしょう」
「だったら逆さ吊りにしてやろうかしら?」
ドレスの裾を抑えながら泣きわめくリブッサの姿を想像してほくそ笑む。
しかしそれをやると、今度こそ屋敷から強制退去させられそうだな~と思って寸前で思い止まった。
「逆さ吊りは無しで、鳴子にします」
「畏まりました。設置しておきましょう」
あれ以来、畑は休ませていたのでしばらく害はないだろう。
今度の作物が育つ頃に誰が引っ掛かるかしらね?
ダニエルが帰ってから一週間ほど経つと、やっとマイファルト王国から書状が返って来た。時期を考えればどうやら私の読み通りだったようで、ライヘンベルガー王国が裏で返答を保留していたのだろう。
その書状を宰相のラースが屋敷に持って来てくれたので、私も読むことが出来た。
帰って来た書状の内容は、
『イスターツ帝国の皇帝ヘクトール様とライヘンベルガー王国第三王女レティーツィア様が婚姻を結ばれたことは確かに確認できた。
イスターツ帝国と我が国には過去に国交は無いが、他ならぬライヘンベルガー王国の王女たっての頼みであるから、我が国も前向きに検討させて頂く事に決まった。
つきましては~』
その先は、私には関係のない、使者のやり取りの日程やら、場所の相談などが書かれていた。ざっとだけ目を通し手紙を畳んだ。
私は手紙を読み終えてホッと胸を撫で下ろした。どうやらダニエルは上手く私を信じてくれたようだ。
「皇妃様のお陰で上手く行きそうです。ありがとうございます」
手紙を返すとラースが深々と頭を下げてお礼を言って来た。
見知らぬ侍女が私の後ろに控えているから、どうやら察した様でお礼以外に余計な事は何も言わなかった。
「いいえ。私はイスターツ帝国の皇妃として当然のことをしたまでです。
これで内乱が終わって
普段の私なら絶対に言わない事。
ラースもそれには気付いたようだが、「ええそうですね」と笑顔を見せて同意した。後は我らがまとめて見せますと、ラースは忙しそうに立ち上がり屋敷を出て行った。
下手に話すよりはと、さっさと逃げを決め込んだのだろう。
ラースが居なくなるとロザムンデが、
「あれがこの国の宰相閣下でいらっしゃいますか?」
「そうよ。ラースと言うの」
「レティーツィア様がご尽力されたと言うのに、そのお礼もないなんて……」
「あらちゃんとお礼は言っていたわよ」
「口だけではないですか! 態度で示さぬお礼など何の価値もありません!」
「貴女は私に、皇妃として普通の事をしただけでお金を貰えというのかしら?」
「い、いえそう言うつもりではございません。しかしレティーツィア様は尊敬されるべき行いをされたはずです。なのにこのような屋敷に閉じ込めたままと言うのは……」
なるほど、もっと生活が良くなってもおかしくないと言いたいらしいわね。
「ねえロザムンデは先の戦争でライヘンベルガー王国が何をしたか知っている?」
「え? 我が国はどちらの軍に正義があるか分からず、静観したはずです」
「それだけ?」
「はい。他に何かございましたか?」
「民衆が戦火から逃れる為に、山を越えてライヘンベルガー王国に避難したことは聞いていないのかしら。ライヘンベルガー王国は逃げてきた民衆を槍で突き返したのよ」
「ああそれは存じております。
しかしあれには仕方がない事情があります。
あれほどの数の民衆を受け入れれば、今度はライヘンベルガー王国の民が飢えたでしょう。こちらの民衆にとっては非情でしたが、国内においては英断であったと考えます」
「では聞くわ、その民衆を槍で突き返した国の王女を貴女は国のトップの女性として認められる?」
「それは……
しかし和平としてレティーツィア様がこちらに嫁がれたのです。その条約が結ばれたのなら過去の話は水に流すべきではないでしょうか?」
それを聞いて、私はこの人が嫌いだとハッキリ解った。
「ロザムンデそれはね、加害者側の言葉よ」
反論があるかと思ったがロザムンデは何も言わなかった。
二週間ほど掛かって芽が出た頃に、ついに畑に設置した鳴子が鳴った。
気付いて走った時にはもう人の後姿しか見えなかったが、畑には大きな人型のへこみが見えた。どうやら犯人はまぬけにも鳴子に足を引っかけて転んだ様だ。
ざまーみろと言いたかったが、苗は犯人のボディプレスを喰らった様な状態で駄目にしたから、お互い痛み分けで終わったらしい。
やはり畑は費用面から止めた方がいいみたいね……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます