後宮の検屍女官

小野はるか/角川文庫 キャラクター文芸

「死体が、赤子を産んでいる……!」

 遠雷とどろく曇天のもと、ひとつのひつぎを囲んでいた男たちがきようがくの悲鳴をあげた。ほうほうのていで、職務をわすれて逃げ出すものまでいる。

 がらん、と棺のふたを抱えていた男がそれを落下させる音がきこえたが、だれも𠮟しつせきしない。それどころではなかった。

「なぜだ! 棺に納めたのは、たしかにきさきひとりだけであったのに!」

「そうだ、赤子は妃の腹の中、まだななつきで、生まれてくることなくまかられた……まちがいなどない!」

 暴かれた棺のなか、無残な姿をさらして眠るのは高貴なる女性の遺体。この帝国を治める皇帝が囲う、後宮のひとりであった女性だ。


 腐敗の進んだ妃の遺体、そのかんには、納棺のさいには存在しなかった赤子が生まれ落ちていた。

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