少女漫画のヒロインに転生した男子高校生は恋愛フラグをへし折りたい

よこすかなみ

1 わたしのために争わないで!

「どけ!!」

 昼休みの、生徒一人いない学校の裏庭。

 頭上から、男の声が降ってきた──否、声だけではなく、男が降ってきた。

 木の上から。

「うわ!」

 男は、俺を押し倒す形で着地に失敗した。

「いてて……」

 見るからに不良──ツンツンとした赤髪、着崩した制服、ネックレス。おまけに高身長。

 攻撃的なつり目で、ギロリと俺を睨みつけた。

「人が昼寝している真下にいるんじゃねぇよ」

 低音ボイスが俺を脅すが、俺は心の中でツッコミを入れてしまう。

 ……木の上で昼寝なんて、いつの時代の少女漫画だよ!?

 言い返したところで、女の俺とガタイのいい長身の彼では、力の差は歴然としているので黙っておく。

「……あ? なんとか言えよ」

 何か言ったら、怒りがヒートアップしそうな気配がビンビンであるくせに──赤髪の不良は、俺にガンつけたまま、ぐいっと顔を近づけてきた。くそ、整った顔立ちをしてやがるぜ。イケメンは滅びろ──

 ……ん? 

「お前、どっかで会ったことないか?」

 高身長、赤髪、つり目──まただ、デジャヴだ。今日これで何回目だ?

 絶対に、こいつはどこかで見た覚えがある。

 俺の問いに、赤髪の不良はあからさまに不愉快そうな顔をした。

「はぁ? お前みてぇな芋くせぇ女、知らねぇよ」

「い、芋くさい!?」

 初対面で失礼すぎる言い草。さすがの俺もカチンときた。

「木の上で寝てるほうがダセェだろうが! 昭和の少女漫画かよ!」

「んだとぉ!?」

 鼻と鼻が擦れそうなくらいの距離でガン飛ばし合う。戦いが始まったら、どちらが勝つかは一目瞭然だろう──そんな最中だというのに、俺の中で、デジャヴがよぎっていた。

 ……少女漫画?

 自分で口走っといてなんだが、これ、かなりのキーワードな気がする──


「……カツアゲするのは、あんまり感心しないよ──鬼塚」


 一触即発の空気を切り裂いたのは──不良ほど大きくはないが、またしても長身の男子生徒だった。サラリとしたアクアブルーの髪、ピシッと整った制服、伸びた背筋。不良生徒と正反対のいで立ちの男子が、俺たちの横に立っていた。

「伊集院、テメェ、何しにきた」

 赤髪の不良──もとい、鬼塚の矛先が、俺から水色ヘアの彼に向く。

 伊集院と呼ばれた真面目そうな男子は、特に身じろぎもせず、慣れている様子で鬼塚の視線を受け流した。

「……何しにって、校内パトロール。お前みたいな不良生徒から、普通の生徒を守んなきゃ」

「はっ! 生徒会長様はご苦労なこって」

 二人は睨み合っている。すぐにでも喧嘩が始まりそうな雰囲気だ。

 ──というより、もう始まってる?

「とにかく、一般生徒を不良の悪事に巻き込むなよ」

 伊集院が、俺の右手を掴んで引き寄せようとする。

「はぁ!? んなことしてねぇよ! こいつが喧嘩売ってきたんだよ!」

 鬼塚が、俺の左手を掴んで引き寄せようとする。

「やめろ!」

 俺の声は届かない。

 両側から引っ張られる力に抵抗するが、びくともしない。


「お前ら! 俺のために、争うな!」


 ──あぁ、どうして、こんなことになっちゃったんだ!?


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