イカれたメンバー紹介

俺達はホテルから移動する時、タクシーに乗って別の場所へと向かって行く。

今度は一体どこへ連れて行かれるんだろうかと思いながら車に入れられて40分。

到着した場所は南地区訓練場だった。


基本的に狩人となる人間は訓練場での生活を行い、狩人としての基礎を学ぶ。

第三階位『保級ほきゅう』の階級を持つ狩人は訓練所に教官として活動する。

言い換えてしまえば教官という立場を利用して自分の城を築く事も可能であった。


金網のフェンスで覆われた訓練場。

出入り口には検問所があった。

銃火器を装備した警備員がタクシーの前で「止まれ」と命令してくる。

タクシーの窓が開くと共に稲元潤が顔を出して、狩人免許書を渡す。

俺も警備員に免許書を彼女に渡した。


彼女はそれをとって警備に渡そうとするが、マジマジと免許書に写る俺の顔写真を見ていた。


「…何すか?」


そんなにジロジロと見て俺と顔写真を交互に見比べて、そしてクスッと笑いだした。


「キミの顔と顔写真さ、目元なんか違わない?整形した?」


イルカの鳴き声のような引き笑いをする稲元潤。

いやそれは失礼にも程があるだろ。

人の顔を見て、整形したなんてあんまり言うもんじゃないだろう。

自分の顔を見て、顔写真を確認する。

…確かに、少しだけ目元が違うような気がした。


「ひひっ…もぅ…」


稲元潤は笑いながら、さりげなく頃の胸あたりをソフトタッチしてくるので心臓に悪い。

俺の顔写真ツボってしまったのだろう、彼女は移動中ずっと笑い続けていた。

タクシーが敷地内に入ると停車する。

タクシーから降りて俺たちは、徒歩で宿舎へと歩いていく。

訓練場の宿舎は二種類あった。

一つは訓練生は使用する宿舎。

もう一つは教官が使用する宿舎である。


前者の宿舎は、百人程の訓練生の収容が可能な部屋割りととなっているが教官が住む宿舎は訓練生が使用する宿舎と同じぐらいの大きさである。



「とりあえず、私のグループのメンバーでも紹介しようかな」


稲元潤が宿舎に入る。

きわめて綺麗な内装であるのも、教官であるが故の特権だろう。

稲元潤が扉を開き、部屋の中へ入ると共に、部屋の中から香ばしい匂いが俺の鼻を擽った。

まず最初に目に入ったのは皿の上に乗っていたスペアリブだった。

骨の付いた豚肉がついたを甘辛ソースで塗りたくった料理。

分厚い肉に齧り付く銀髪で大柄な男はスペアリブに付着したソースを舌で舐めながらこちらの方を見ていた。


「稲元さん、客人ですか?」


言いながら男は指でつまむスペアリブの骨を、置いてある皿の上に置いた。

今置かれてある大盛りスペアリブよりも、スペアリブの骨がそれ以上に山盛りで出来ていた。


「おや?」


この部屋の中には台所があるらしく、台所の方から黒髪に褐色肌の女性が入ってくる。

すらりと伸びた手足。ビジネススーツを着込み、ワイシャツの上には黒いエプロンが掛けられていた。


他にも、ソファーの上にはクリーム色の髪の毛をした女性が眠っている。

目元にはアイマスクをかぶっており、すやすやと寝息を立てている。


「そこでスペアリブを食べているのが忠国ただくに伊月いつき、それで料理を作っていたのが御木本みきもとハンナちゃん、ソファーに眠っているのがむい崇々すぅすぅ、みんな私たち家族なんだ」


家族。

血の繋がりはなさそうだが。


「この子、霧島の代わりかぁ」


大柄な男、名前は確か忠国伊月と言っていたか。

俺の方に手を伸ばして握手を求める。

…唾液とスペアリブのソースで汚れた手でだ。


「おやおや初対面に対してなんとも躾のなってないシェイクハンドだろうか」


ポケットから消毒用ペーパータオルを取り出して、それを忠国伊月の方に渡す御木本ハンナ。


「さて、先ほど自己紹介をして貰ったけれど…改めて、私の名前は御木本ハンナ、階級は『仁級』だよ、同じ班となった以上仲良くしようじゃないか」


柔和な笑みを浮かべて俺は彼女は白い手袋を装着した手を出してくる。

俺は普通な感性を持っている彼女の手を握り締めて握手を交えた。


「んあッ」


…恥ずかしそうに喘ぎだす御木本ハンナ。


「んっ…ふっ、す、すまない…私は全身の皮膚が敏感なんだ…、性感帯と言っても差し支えない」


顔を火照らせながら彼女はそう言った。

前言撤回だ、こいつも十分変態だった。


「それで、彼女が六ちゃん、基本的に夜間にしか行動しないから、夜中になれば会えるかもね」


眠る六と言う少女を見て、俺は咳払いをする。

メンバーの紹介は終わった、次は俺の紹介になる。


「俺の名前は九条千徳、これからよろしく頼む」


なんとも癖が強いメンバーばかりだ。

俺はこのメンバーを相手にしなければならないのか。


「…稲元さん、それで、俺はこれから何をすればいいんだ?」


彼らとチームを組んで何か仕事でもするのだろうか。

俺の言葉に対して彼女は首を横に振った。


「別に、何もしなくてもいいよ?」


…何もしなくていい。

その言葉は優しいが。

結局のところ何もするなと言うことか?


「キミはあくまでも霧島ちゃんを苦しめる為に存在するの、逆を言えば、キミがどうにかなったら、このお話はぜーんぶ、無駄になっちゃう、だから、キミは安全な場所で飼ってあげる…大丈夫、ちゃんといい子にしてあげたら可愛がってあげるから」


舌なめずりをして、稲元潤が俺を見詰めていた。


「だって、私が君と仲良くなればなるほどに霧島ちゃんは曇っていくんだから…」


うふふ、と厭らしい笑みを浮かべる稲元潤。


「それじゃあ、九条くんの部屋にでも案内してあげて?ハンナちゃん」


「分かりました、では、九条、こちらにどうぞ?」


そう言って、俺の眠る部屋へと案内してくれる御木本ハンナ。

俺は後ろにつきながら彼女の後姿を見ていた。


全身が敏感なのかだからこんなにも肌に密着するような服を着ているのか…。

俺はそんなことを思いながら彼女のヒップラインをぼーっと見ていた。


…いやいや、何を現実逃避してるのだろうか。

俺が活躍する場が無くても、なんとかしなければならない。

俺はこの世界で全力で生きると決めたのだ、ならば、なんとかして状況を打破しよう。


「あの、俺の狩猟奇具、返して欲しいんですけど」


御木本ハンナに言う。

だが彼女は俺の方を振り向く事なく。


「駄目だよ。君が暴れる可能性があるだろ?」


もっともな事を言う。

しかし食い下がる。


「暴れる事なんて出来るわけないだろ、どんな形であれ仲間になったんだ手を返すような真似はしない。…何よりも」


俺は右腕を挙げた。

手首を拘束する手錠。


この手錠は俺を管理するとともに爆破する機能が備えてある。

手を返すような真似をしながら手を失ってしまうのだ。

早々と彼らに叛逆なんて出来ないだろう。


「俺の狩猟奇具は一つだけ、もう片方のはパートナーのなんだよ、俺が捕まった時に、多分、稲元さんが申請書も一緒に盗んだと思う、それを見れば明白だ」


俺はそう嘘を吐いた。

しかし嘘だとしてもなかなかに真実がある。

狩猟奇具には申請書がある。

申請書には名前が記載されていない。

だから俺とでも百槻与一でも書いても良いのだ。


更に俺はダメ押しで、手錠を握りしめながら語りかける。


「時間こそ短いがそいつは俺とパートナーとして一緒に居たんだ、だだからこそ俺はそいつを裏切りたくない…最後までどうか円満で終わらせたいと思っている。俺はまだ、誰かに裏切られた、なんて気持ちは分からないけど…稲元さんの話を聞いてなんとなくその感情を理解できるよ…心が苦しい、悲しい、ショックを感じる、稲元さんの気持ちを汲んで、そう思える…だから俺はその加害者にはなりたくないんだ。だから、お願いします」


懇願する。

すると御木本は俺の方を振り向いて目を合わせた。


「…分かった、じゃあ、聞いてみるよ」


それで十分だった。俺はありがとうと、感謝の言葉を告げる。




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