移動して発見
『死骸地』に入る。
周囲は緑色の霧で満たされていた。
中は元々は市街であり、様々な建物が建てられているが、多くが崩壊している。
食品や、人間の遺体が腐敗していて、ガスマスクが無ければ腐臭に悩まされていただろう。
『九条ちゃん』
百槻与一は手で霧を払いながら俺を呼んでくる。
俺は彼の方を見てみると。
『抹茶多くない?』
とボケた事を言った。
この霧は化物の死骸から発生したガスであり、長時間滞在し続けると命の危機に関わる。
『やめろ、抹茶が食えなくなる』
そんな事を言いながら俺は狩猟奇具を取り出してそれを握り締めた。
既に、百槻与一も感付いているらしい、狩猟奇具を握り締めて、後ろを振り向くと同時にトリガーを引き抜く。
『九条ちゃん、上空ッ!』
俺は腰に挿しておいた『崩月』を引き抜くと同時、空に向けて散弾を放つ。
空を切って此方へとやって来ていたのは、鋭い甲殻に蚯蚓の様な胴体。しなり、細くて、長い、触手を胴体から生やして旋回させている『雲切』と呼ばれる化物だ。
「ぴゅゅゅ」
字面にするには難しい奇声を発しながら地面に倒れる『雲切』。
散弾銃は狙いがブレてても拡散する様に弾丸が散らばる為に、多少射撃が下手でも化物には当てやすい。
しかし、こんなにも痩せ細った肉体であるのに、胴体はおろか、翅を弾き飛ばす事すら困難だ。
やはり、狩猟奇具での攻撃が最適なのだろう。
『よいしょっと』
狩猟奇具『喰代』の回転刃で『雲切』の兜と胴体の付け根を切断する。
この雲切はひょろくて、闘級も四級程ではあるが、奴の回転する翅は硬く、人間の皮膚や肉を容易に切り刻む事が出来る。
『四級か、名前なんだっけ?切雲?』
『雲切だ…先に進もう』
俺は言いながら、腰に装着したガンベルトから弾薬を引き抜いて込め直す。
何があるか分からない。だから、弾薬も出来るだけ補充しておく。
『九条ちゃん、化物の何を狩るつもりなの?』
百槻が肩に『喰代』を抱えながらそう言って来る。
『【赤捨羅】って言う…カニだ』
『カニィ?弱そうだなぁ…九条ちゃん、俺のこの狩猟奇具、何が材料か知ってる?』
…ガスマスクで口元が覆われているが、その目だけで厭らしい笑みを浮かべているのが分かる。
『…さあな』
知ってるけど、知らないふりをしておく。
『これはね、【
長い。
その台詞を聞かなくても、既に原作をプレイしているからその情報は知っている。
『あ、九条ちゃん足元』
そう言われて俺は『崩月』を引き抜くと同時に足を止める。
地面から顔を出しているのは、『土喰い』と呼ばれる化物だ。
玉子のようなぷっくりとした体に蜂の様な鋭い足、頭部には拳程の大きさをする犬歯が生えている。
こいつは『空母戦蟲』の幼体とも言われていて、地中で生息している。
自らのテリトリーに近づいた生物を、穴から這い出て噛み千切り、捕食する。
四級なので、あまり強くは無いが、地中に隠れている為、知らずにテリトリーに近づいてしまえば足を食われて機動力を失われてしまう為、『白塗』よりも凶悪な化物だ。
斬機壱式を起動して『土喰い』の頭部に刀身を突き刺した。
『油断ならないな…此処は』
周囲を見渡す。
緑色の瘴気に包まれていて、遠方は三メートル先からは見え辛くなっている。
『九条ちゃん、一人にならない様に俺がお手々でも握っててあげよっか?』
相変わらず、百槻は軽口を叩いて来るので、俺は無視して、化物の体液が付着した刀身を振るって払う。
『お?』
百槻与一が何かを発見した様な声が聞こえて来た。
『なんだ?何かあったの』
か、と。
俺が百槻与一に何を発見したのか聞こうと振り向いた瞬間。
俺の傍に居た百槻与一が吹き飛んでいく。
『は?』
するすると、白くて光沢を帯びた太い縄が、百槻与一を突いた。
百槻与一はその勢いによって吹き飛ばされたのだ。
『百槻ッ!』
俺が叫ぶと同時に、百槻与一が、近くに建てられた建物の壁に叩きつけられる。
『九条ちゃんッ!気を付け、ろッ!!』
百槻与一がそう叫ぶと同時、俺は百槻から自分の心配に移り警戒態勢に入る。
先程の一撃を受けておきながら、俺の方を心配していると言う事は、大したダメージではないとみる。
だとすれば、百槻与一の復帰は早い、その間、俺が死なぬ様にしなければならない。
白いソレは、触手の様に見える。烏賊の足の様な触手…それを見て、俺はある化物の情報を引き出した。
『(銀乱袖薙)ッ』
緑色の霧の奥。
十六本の触手を唸らせる化物の姿が、影となった輪郭だけであるが、確認出来た。
そうだ、十中八九、それは『銀乱袖薙』だろう。
この死骸地で確認出来る二級相当の化物の内の一体だ。
形状は烏賊に、二十本の触手を生やしている化物だ。
その化物の特性は、その腕、触手による攻撃だ。
伸縮自在にして柔軟性のある触手は、素早く振れば肉を切る。
触手を伸ばして周囲を薙ぎ払う攻撃、触手を縮めて一瞬にして伸ばす衝きの攻撃。
そして、体の近くに、短い四本の触手がある。
あれを亜音速で振るう事で、物質の両断を可能にする、『銀乱袖薙』にとっての防御の触手。
弱点はある。奴の背中の部分。長い胴体には四本の触手が届かない。
長い触手の方が攻撃してくるが、気を付ければどうにでもなる。
しかし有難い…本当は『赫捨羅』を狙っていたのだが、此方の『銀乱袖薙』も良い固有性能を持つ狩猟奇具になる。
早速、俺は迎撃準備に入ろうとして散弾銃を構える。
接近する際に此方へと飛んでくる触手は、散弾銃『崩月』を使って制止させる。
背後に回って背中を攻撃し続ければこちらに勝利がある。
『ッ、九条ちゃんッ!!!』
百槻与一が大声を張り上げた。
その声を耳で聞くが、俺は振り向かない。
その一瞬を突いて、化物が俺を攻撃してくる可能性があるからだ。
『百槻、大丈夫か?悪いが、戦闘態勢だ、行けるか?』
『九条ちゃん、無理だッ!!』
その声を聞いて俺は百槻の方を振り向いた。
無理って、まさか、百槻、お前、怪我でもしたのか。
そう思って、俺は思わず百槻の方を振り向いた。
その時だった。目の前に、三メートルほどの背丈を持つ、赤い甲殻に覆われた化物が立っていた。
『最悪だぜ、これはッ!』
百槻与一が叫ぶ。
俺も同じ感想を思い浮かべた。
赤い甲殻に、大鎌の様に鋭く、太い、鋭利で歪曲の鋏を生やしている化物。
まさか、『赫捨羅』も共に出て来るとは思わなかった。
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