いつだって救ってくれるのは

空っぽの無能

第1話

 私は幸せな家庭に生まれた。暴力もほとんどなく、経済的に安定していても余計なしがらみはほとんどないそんな家庭に生まれた。親は真面目すぎる人達だったので心を患ってしまう時も度々あったが、何度もあることは慣れるものだ。


私の親は何をねだっても買い与えてくれることは無かったが、お小遣いはあったので貯めればそれなりのものは買えた。私は長男であったが、長男だからという贔屓も長男を理由にした我慢もどちらもない家庭であったことは幸せだった。兄妹仲は良く、地域でも仲良し兄妹で知られていた。それは私の小さな誇りになった。


高校を卒業して一人暮らしになった。全く知らない地域、全く知らない人。私はすぐに孤立し、寂しさに襲われる毎日だった。「家族にこんなことで頼るわけにはいかない。もう少し自分で頑張らないと」と思う度に自分が磨り減っていく気がした。


ある時、本当に潰れそうになっていた時、味覚も希薄になり日々の楽しさも失われ空虚な毎日を送っていたとき。母親からご飯の仕送りが届いた。毎月生活費を送ってくれている分とは別にだ。


ただ、食欲も失せていてどうしようかと箱を開けた。


手紙が入っていた。


懐かしく感じる母親の筆跡。兄妹からのメッセージ。父親の不器用な心配。そこには久しぶりの家族の温かみが詰まっていた。


私は思わず泣いてしまった。無性に実家に帰りたくなった。でもそれは気楽にできることでもないから諦めた。


その日の夕飯は母親からの仕送りご飯。およそ1ヶ月ぶりにご飯の味がした。口に合った母の味。


もう少しだけ頑張れそうだ。

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いつだって救ってくれるのは 空っぽの無能 @honedachi

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