鶴の怨返し
みたらし先輩
第1話:消えた幼馴染
消えた幼馴染:1
今日もいつもと変わらぬ、
「それじゃまた明日」
「うん」
――君がスキだ。その短い言葉が、どうやっても声に出せない。
ランドセルを背負った少年には、その一言がとてつもなく重たいモノであり、大切な言葉だったからだ。
そんな彼も、あと二ヶ月もすれば幼馴染と同じ中学校に進学する。
両親からの入学祝いはなかった。替わりに「何が欲しい?」と父親に聞かれ、少年は声を固くして答えた。
「時間が欲しいんだ」
真っ直ぐな
彼が欲しかったのは、幼馴染と過ごす、かけがえのない時間なのだ――。
近所ではすでに恋人同士という認識をされていたが、少年は
いつもの待ち合わせ場所で、いつも通りの日常を送り、いつも通りの別れの時間を迎える。
少しだけ遅くなったが、幼馴染から入学祝いが渡された。季節的にも遅い、
桜が散った直後の春は、風向きの悪い日は肌寒いことが多い。――という理由で、少年は毎日毎日、欠かすことなくその手袋を着用していた。その姿を見れば、両親も口を
それなのに、幼馴染は姿を消した――。手袋を少年に渡した、一二日後のことである。
× ×
それからというもの少年は
家出の可能性も絶対に無いとは言い切れない、誰にだって人に話せない悩みがある――そう自分に言い聞かせ、必死に走り続けた。事情を知らない通行人たちから
もしかしたら
もう靴もボロボロだった。三日三晩、毎日欠かさず幼馴染を探し続ける少年の靴は、まるで戦地の兵隊かのように汚れ、どこを
毎日毎日、捜索に明け暮れる息子を心配し、父親が呼び止める。
「きっともうすぐ帰ってくるだろ。後は警察に任せなさい、お前は充分に頑張った」
少女が消えた日を
非情にも、時間だけが残酷に過ぎていく。ついには学校から連絡が入り、午後から少年の姿が見当たらないとのことだ。
母親はパートを切り上げ、父親も勤務先の工場を定時で退勤する。
二人は駅前で落ち合い、息子の身に何かあったのではと
「まさかアイツ、学校を抜け出してまでして――」
「学校に黙って出ていくなんておかしいでしょ、あの子の身にも何かあったのよ」
人混みの中、どうすればいいのか判らない両親が
どんなに遅くても夜中の一時には帰ってきていた息子ではあったが、もしかしたら――最悪の結末を迎える可能性が
大切な人を
少年が警察に保護されたのは、翌朝の雨の日だった。
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