第03話 農具小屋

俺たちは朝倉がゴブリンを消し炭にした現場から少し離れた場所で休憩していた。


「朝倉、さっき採ってきたこれ食ってしばらくしたらどうするか考えようぜ」


「そっすね。あ、先輩のど乾いたんでちょっと水ください」


「おう」


朝倉が両手をお椀のようにしてこちらに差し出した。

俺はその上へ手を伸ばして水やりスキルを発動させた。

俺の手から水が溢れて、朝倉の両手が満たされた。


「ぷはー、美味いっすね先輩汁は」


「おいキモイ事言うんじゃねーよ」


「いやでも普通の水より美味いっすよこれ。なんかミネラルウォーター的な感じっすかね?」


「しらん……自分の手から水が出てくるの怖……」


「できれば麦茶とかが良いんすけど」


「厚かましすぎだろ」


「お茶とかジュースとか出せないんすか?」


「うーん、ちょっと試したけど無理っぽいな。レベル上がったりしたら出来るようになったりしてな」


「そっすね、あ、食べた果物に種あったから埋めて水やりましょうよ」


「いいぞ」


種を地面に植え、俺は再び水やりスキルを発動させた。手から水が出るこの光景、シュールすぎる。


「よしよし、大きく育つんだぞ」


「先輩、もっとジャバーッとやりましょうよ」


「んな勢いよくやったら種が流れてくかも知れねーだろうが。手でちょっと掘った穴だぞ」


うん……?

勢い……か、ちょっと色々試してみるか。場合によってはとんでもない事が出来るかもしれないし。


「お、シャワーみたいな感じになりましたね。あ、今度は霧みたいな……ってか先輩器用っすね」


「ああ、まあな、しかし何も無い所から水が出てくるの、バグってるよな。なんか俺の体から水分抽出してるとか空気中の水分を集めたとかでもなさそうだし」


「何なんすかねーこのスキルってヤツ」


「分からんな。農業スキルとは名ばかりで、他にも変な能力とかありそうだわ」


「身を守る術は多い方が良いっすよ」


「まぁそうだな。さて、とりあえず食い物と水だけは一応確保できたが、どうする?なんかもうちょっとしたら暗くなりそうな感じするんだが」


「うーん、先輩なんか無いっすか家作るみたいなスキル」


「そんなもんあるわけ……あったわ」


「なんであんですか」


「こっちが訊きてえよ。農具小屋召喚スキルがある」


「は?」


「俺は農具小屋を作召喚できるらしい」


「いや意味わかんないっすけど」


「安心しろ、俺も分からん」


「便利すぎませんか農民スキル」


「なんかこのスキル新しく生えてきたんだよな。水やりが上手になったからか?」


「いやそういう問題なんすかね」


「んじゃ早速農具小屋召喚してみるか」


「よろしくっす」


「…………」


「どうしたんすか先輩」


「収納する農具を持っていないから農具小屋召喚できないらしい」


「なんすかそれ」


「いやわからん。なんかそういう事らしい」


「……ふーん、じゃあ収納する物があればいいんすね」


そう言うと、朝倉は近くの木の枝を折って俺に渡した。枝は細かく枝分かれしていて、葉が付いている。


「先輩、これ箒っす」


「は?木の枝だろ」


「いえ、これは箒っす。もう一度農具小屋作成を試してもらって良いっすか」


「おう……なんか出来るっぽいわ」


「よかったっすね。これで一安心っす」


「……朝倉、お前適応力高過ぎじゃね?」


「ふふん、まぁアタシ勇者なんで」


「勇者は関係ないだろ勇者は。んじゃ農具小屋召喚してみるか。いざ」


俺は頭の中で農具小屋召喚を唱えた。すると地面に光が浮かび、辺りを照らした。更に光量は増し、眩しさが我慢できなくなり目を閉じると、次に目を開けた瞬間にはもう光は止み、そこには農具小屋が建っていた。正しくは、召喚されていた、と言うべきなのかもしれない。


「いや意味わかんねぇ……」


「農民なら農具小屋くらいは召喚できないとっすね」


「俺の知ってる農民は農具小屋を召喚したりしねーよ」


「アタシの知ってる農民は農具小屋を召喚したり何も無い空中から水を生みだしたり出来るんですけど」


「俺だって別に好きで農具小屋召喚したりできるようになった訳じゃねーよ」


「あっ、先輩これ意外と広いですね。アタシたち二人で寝転がる事くらいは一応できそうっすよ」


「えっ、一緒に寝る気なのお前?」


「逆に一緒に寝ないんすか?」


「えっ、いや……流石にアレというか……もう一つ農具小屋召喚しようか?」


「出来るんすか?」


「……いや、出来ないけど。スキルのレベルが足りないらしい」


「じゃあダメじゃないっすか」


「…………」


「…………」


「えっ、いやお前が良いならいいんだけどさ」


「いいっすよ」


「お、おう……ふつつか者ですけど、どうぞよろしく……優しくするからな?」


「なんすか先輩いきなりかしこまって。その言い方だと何かえっちな事でもするみたいじゃないっすか」


「えっ、しないの?」


「えっ、あっ……?あっ?!」


「しないの?」


「え、いや……流石にアレというか、そのですね……先輩……あの、もう一つ農具小屋召喚してほしいっすけど」


「できないんだけど?」


「あっ、そ……そうでしたね、えへへ……」


「まぁお前にエロい事するかは置いておいて、もう少しこの辺りを見て回ろうぜ。食料を集めたりどのくらい安全か確認しておきてーわ」


「なんか雑に扱われた気がするっすけど、しょうがないですね。行きましょう」


「ああ、俺がお前の事を守る。いざとなったら俺が水やりするからな」


「んふふっ……先輩、不意打ちで笑わせてくるの止めてもらって良いっすか?勇者斬りしますよ?」


「やめてくれ。それじゃあ護衛は任せたぞ」


「任されたっす」


そう言って、俺たちは農具小屋を後にしたのだった。

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