みどりの匂い(扉)

家までの帰り道、ある場所だけタケノコの匂いが立ち込める。そこはちょうどお寿司屋さんをすぎたあたり。

毎日毎日飽きもせず、小さい頃住んでいた家の裏山でタケノコを掘っていたことを思い出す。今思うと何かしらの罪になるのではないか、と不安になるが当時は掘ればタケノコが出てくるということが嬉しすぎて、何も考えていなかったし、ただただ何も知らなかった。


母はわたしが掘り出してきたタケノコを良いのかなあ、と少し訝しげな表情を浮かべつつタケノコご飯にしたり、煮物にしてくれたりした。大人になって料理をするようになって、タケノコを調理していた母を尊敬した。わたしはたとえどんなに立派なタケノコをお裾分けでもらったとしても、美味しく調理することはできないだろう。きっと恐る恐る実家か料理上手な友人宅に持っていく。


他の課員が残るなか、そそくさと本日も退勤をした。課長はどことなく不機嫌そうだった。今頃何か言われているだろうか、そんな考えもよぎった。しかしもはや、そういうことをいちいち考えることが面倒くさかった。


いつもの帰り道、みどりの匂いを大きく吸い込む。タケノコを一心不乱に掘っていたあの頃を思い出す。ちょっとだけ強気になった。


そんな今日の1曲。

GReeeeNで『扉』


家に帰ると元気になります。

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