第4話 父さんと歩んできた道


◇◇◇


 燃えるような髪の少女は、はじめはそれに全く興味がなかったが、今日行われるデュエルの対戦相手のことが少し気になった。


「どおせまた人違いだとは思うけど、見て見ようかしら・・・」


 少女はコロッセオに向けて来た道を戻り始めた。自分の運命に向かっているとは気づかずに・・・


◇◇◇


「馬鹿め!カッコだけつけても、所詮【能無し】だ!死んで後悔しろ!【スラッシュ】!!」


 コロッセオにたどり着いた赤毛の少女の目に飛び込んで来たのは、【戦士】の少年が渾身の【スラッシュ】を放つ瞬間だった。


「良い【スラッシュ】・・・」


 少女は相手の敗北を確信した・・・だが、現実は彼女の予想をはるかに裏切った。


「えっ!なんてはやい振り抜きなの!」


 ギャラリーは自分たちが期待した一方的な暴力が失敗したことに、ある者は失望し、またある者は激怒して相手の男を罵った。


「おい、【能無し】の剣筋、見えたか?」

「なんで【スラッシュ】がんだよ!」

「ふざけるな!きっとインチキだー!」

「そうだ!きっと何かのまちがいだ!相手は【能無し】なんだぞ!」

「そんなはずは・・・」


「えっ、能無し・・・まさか!」


「おや?これは『氷の女王アイス クイーン』が他人のデュエルを観戦とは珍しい。どういう風の吹き回しかな?」


 呆然といてデュエルを眺めている彼女に声をかけてきたのは、髪の長いイケメンの生徒だった。


 だが、赤毛の少女の意識にコロッセオの喧騒が触れることはなく、闘技場のただ1点だけしか目に入らなかった。


「勝負あり!デュエルの勝者はさかき レイ!」


「えっ、今なんて!でもでも、やっぱり、あれは!」


 少女はアリーナの階段を全力で駆け下りた。それは、これまでの時間を、想いを一気に縮めるかのように・・・


「レイちゃん?レイちゃんなの??レイちゃ―――ん!」


 飛び込んだ胸は、幼い頃とは違って分厚い筋肉で覆われており、背丈も今ではずっと少女より高くなってしまったが、少し長めに伸びた栗色のくせっ毛と優しそうな鳶色の瞳は、あの頃と変わりがなかった。


「えっ、アカネちゃん?アカネちゃんなの?会いたかった。ずっとアカネちゃんに会いたかったんだよー。」


 幼き日にくらべ、ずっと大きく、ずっと逞しくなった少年てあったが、少女の記憶のままに泣き虫だった。


「おかえり!レイちゃん。」


 万感の思いを込めて少女は告げた。


「うん。ただいま!アカネちゃん。」


 お互い離れ離れだった時間と思いは、このたった一言で満たされた・・・


◇◇◇


 10年振りに会ったアカネちゃんは、見間違えるほど、いや、この10年ずっと想い続けたアカネちゃんを見間違えるわけがないんだけど、それでもビックリするほど綺麗になってた。

 月光山で見たコマクサのように可憐で生命力に溢れてた。


「アカネちゃん、綺麗になったね・・・」


 つい、気持ちが口から零れてしまっちゃった・・・


「そ、そんなぁ。レイちゃんこそ、凄くたくましくなって、カッコいいよ・・・はぅぅ」


「おい、レイ。白露しらつゆと、いつまで抱き合ってるんだ?まあ、よく分からんが、よくやった!」


 何をよくやったのかは分からないけど、鹿島かしま先生に褒められたのは素直に嬉しい。


 でも、鹿島かしま先生から声を掛けられたので、アカネちゃんが顔を真っ赤にして腕の中から離れたのがちょっと寂しい。

 けど、そんなアカネちゃんの仕草が、昔のまんま可愛いかったから、いっか!



「レイ。ここが今日からお前が住むことになる一魂寮いっこんりょうだ。」


 鹿島かしま先生に連れてこられた寮は、一体築何年経ってんだと思えるくらいアレな二階建ての小さな寮だった。


「どうだ?ボロいだろ?」


「ほっほっほ」

「ちょっとー!イワオ兄。ボロイはないんじゃない?」


 賑やかな声のする方を見てみたら、寮の玄関にダルマさんのような白髪の男性と、ちょっと僕には刺激の強いスタイルの女性がエプロン姿で立っていた。


「ははは!だってワシとダイゴがここに住んでた頃から、この寮はボロかったからな。いまじゃあ、ちょっとした歴史的価値があるぞ!たぶんだがな」


 どんだけボロいの?この寮・・・


「ほっほっほつ、君がさかき レイ

君だね?話はついさっき鹿島かしま君からきいたよ。」


「レイ。こちらはこの一魂寮いっこんりょうの管理人をやっておられる安藤あんどう ミツオ大先生だ。俺とダイゴの先生でもある。」


さかき レイです。よろしくお願いします。」


「イワオ兄!もしかしてこの人、ダイゴ兄の・・・」


「そうだ、ダイゴとワカバの一人息子だ。」


 鹿島先生が父さんと母さんの名をだしたら、いきなりエプロン姿の魅力的な女性に抱きしめられた!


「良く無事だったね!お姉ちゃん、歓迎するよ!君を心から歓迎するよ!」


 何故か泣かれてしまった・・・


「レイ。このお転婆てんば娘は安藤あんどう ナギサだ。安藤大先生の一人娘で、この寮の手伝いもしてもらっているが、現役のB級冒険者だ。」


「ナギサはダイゴ君とワカバ君によく懐いていたからね。ほっほっほっ」


 ナギサさんに抱きつかれたまま、何故か居心地が悪くて困ってると、寮の玄関からもう一人の男性が出てきた。


「師匠!来てたのですか?」


「おう!叢雲むらくも。いいところに来た。紹介する。今日からこの一魂寮いっこんりょうに住むことになったさかき レイだ。」


「今日から?新入生ですか?今頃?」


 僕より背が高くて、Tシャツが今にも破れそうな美しい筋肉を持った先輩だった。


さかき レイです。よろしくお願いします!」


「おう!3年の叢雲むらくもタクミ

だ!」


 叢雲むらくも先輩の大胸大凶筋がバンバンと動いて僕に挨拶してくる。やるな!



 こうして僕の一高生活が始まった。



 草木も寝静まる午前3時。僕は毎日この時間に起きる。もう既に習慣化してるから、目覚ましも要らない。


 素早く父さんが使ってた道着に着替え、顔を洗うと静かに寮の外にでた。手には斬月丸ざんげつまるを持って。


 軽く柔軟をしてから、ゆっくりと素振りを始める。


『この一撃は、絶対無二の一撃なり!

 されば、全霊を込めて一撃せよ!』


 一振一振に全霊を込めて振り下ろす。

 絶対無二を一撃を。


 日課の一万回を終える頃には、日がすっかり登っており、ナギサさんの作ってくれてる朝食のいい匂いがしてきた。


「見事な素振りだ!レイ。一朝一夕にして出来るものではないな。」


 いつの間にかタクミさんが隣で鍛錬していた。気づかなかった。


「おはようございます。タクミさん。気づかなくて、すみません。」


「ああ、おはよう!レイ。いいさ。それよりも、素晴らしい集中だ。それだけ集中しなければ、良い鍛錬にはならないからな。」


「はい。父さんからも、同じ事を教えられました。」


 タクミさんは、大きなダンベルを置いて、汗を拭きながら話した。


「お前の事は、昨晩安藤あんどう大先生からきいた。親父さんが道半ばで亡くなった事も、お前に【スキル】がない事も。」


「・・・」


 未だにスキルがない事に触れられると、心がズキリとする。


「だがそれが何だァ!お前の血肉には親父さんの教えが生きている!【スキル】がなくてもお前には10年間もひとつの事をひたむきに努力し続けただけの心力がある!それはもう【スキル】とは関係ないお前の才能だ!」


 タクミさんの話に、涙が止まらないよ・・・


「レイ!俺はそんな努力をし続けられるお前を、この一魂寮いっこんりょう

の仲間として迎えられて誇りに思うぞ!

 これからは堂々と胸を張って歩け!お前にはお前の生き様を誇りに思うオレが付いているのだから!」


 父さん。ついに父さん以外に僕の努力を認めてくれる仲間が出来たよ。

 

 父さんと歩いてきた道に間違いなんてなかったんだ!父さん、ありがとう・・・



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