第3話 父からの手紙


――――――――――――――――


レイへ


 お前がこの手紙を読む頃には、父さんはこの世にいないだろう。自分の体だ。自分がよく分かっているさ。


 だから、レイ。父さんの死で自分を責めてはいけない。決してだめだ!

 それは父さんを侮辱するのとおなじだから。


 父さんは、お前がこの山に来てから、どんどんたくましくなり、父さんの教えをどんどん吸収して強くなるのを見るのが、とても嬉しかった。


 出来ることなら、このままずっとお前の成長を見てたかった。そして、お前の見せてくれる頂の景色を。


 だからお前はこのままお前自身の剣の道を進め。お前ならきっとできる!父さんはそう信じている。


 お前がこの山で10年間毎日1万回の素振りを振り切った時、きっとお前は1つの境地に立つことができると父さんは信じてる。


 だがレイ。それはお前の剣の道のまだ半分でしかない。

 その先半分の道を父さんが教えてあげられなくて、とても残念だ。


 だからレイ。山での修行をやり終えたら、下に名前を書いた男を訪ねろ。

 あいつはバカだが、いい男だ。父さんの元相棒だ。あいつに指導を頼め。


 あいつならきっと父さんみたいに、お前を鍛えてくれる。だからあいつを信じて頼れ。


 最後に、どんな時も諦めずに、己の剣の道だけを見て真っ直ぐ進め!

 そして、ダンジョンの頂きをめざせ!


父より


追伸 あいつは寂しがり屋の飲ンベイだから、たまには父さんの代わりにあいつと酒でも飲んでやってくれ。


父の友

第一冒険者高校 教員

鹿島かしま イワオ


―――――――――――――――


「それからもう1つ、父さんから鹿島かしま先生に宛てた手紙があります。」


 もう1つの手紙を鹿島かしま先生に渡した。山での修行中に父さんが残したものだ。


 鹿島先生は、名前のとおり『いわお』のような大きな体をしており、一目で武人だと分かる雰囲気を持っている。


うっ・・・・・・くっ・・・ううっ・・・・・・


 鹿島先生は、ボロボロ涙を流しながら父さんの手紙を読んで、最後には大泣きしだした。


「レイ君、これまでよく頑張ったな!

 君のことも君の親父のことも、俺はやつの友として誇りに思う!スキルのことといい、1人で頑張った修行もそうだ!

 これからはワシがここでの後見人となる。だから、ワシのことは親父と呼びなさい。ワシも君のことをレイと呼ぼう!」


 ガッツリ肩を掴まれて・・・動けない。すごい力だ。


「そうだ、レイ。お前、この第一冒険者高校に入れ。4月からもう新学期始まってるが、まあ新入生なんてそう差がないから構わん。」


「鹿島校長!それは出来ません!勝手をしないでもらいたい。」


 ちょっと待ったー!と突然鹿島先生に怒りながら細身で背が高い男性が、ドアを開けて入ってきた。


「何故だ!新巻あらまき教頭。入学式が終わってまだ3ヶ月もたってない。そんなに差が開いてない今の時期なら問題ないではないか?

 それにレイの体つきと足の運びを見ればわがる。1年の誰よりも強いぞレイは!」


「バカも休み休みに言ってください。コイツ・・・」

「コイツぅ?コイツだとぉ?」


「ゴホン、失礼。この子はスキル無しの【能無し】ではありませんか!こんな子の入学なんて、認められません!絶対!」


「よおし決闘だ!デュエルで決めよう!

 そっちが勝ったら、レイの途中入学は認めない。

 だがこっちが勝ったらレイの入学に寮と奨学金を付けてもらう。どうだ、これでいいか?」


「何故そちらはそんなに褒賞が多いのですか?不公平ですよ。」


「親もいない、後ろ盾の『ホーム』もない。そんな親友の子供に生きるための道筋を与えてやるのが親代わりってもんだろう?

 それとも、なにか?まさか新巻教頭先生のご自慢の生徒は【能無し】に負けるとでも?」


「くっ!よし、分かった。その条件を飲もう。」


◇◇◇


 燃えるような赤い髪の女の子が、練武場から出てくると、校内の色んな場所がザワついていた。


「おい、聞いたか!デュエルだ!」

「誰と誰だよ」

「なんでもぉ、外部の人間ってウワサよ」

「すげーガタイのデカい奴だったぞ!」


「ねえ、ガタイがデカいってどんな人?」


 赤毛の子に急に話しかけられて、男の子ばびっくりしたが、これがチャンスと赤毛の美少女の質問に前のめりで答えた。


「ああ、それがさあ、身長は180センチくらいなんだが、筋肉の付き方がすごいんだ!校長の筋肉をもっと削ぎ落として鍛えたみたいな・・・」

「あっそう。ありがとう。」


 彼女はもう、話には無関心そうに離れていった。


「やっぱり彼じゃない・・・」


◇◇◇


「これよりデュエルを行う。両者宣誓せんせい!」


「1年 小田切おだぎり トシガズ!我が勝利はその【能無し】の追放を望む!

 いくら体がデカくてもコケ脅しにもならないからな!この【能無し】が!」


 どうやらこの大きな建造物はダンジョンの1部なんだそうだ。デュエル専用の決闘場で『コロッセオ』と呼ばれるそうなんだが・・・


「あのでかいのが、【能無し】なのか?」

「【能無し】がどうして一高なんかに」

「1年の小田切おだぎりは【戦士】持ちだ!スラッシュで切り殺されろ!」

「無様だぜ!ビビって動けないみたいだぜ、あの【能無し】!」


 すごい数のギャラリーだな。


さかき、デュエルの口上を言いなさい。」


 おっと、忘れてた。


「『渡り』のさかき レイだ!我が勝利は一高の入学と寮と奨学金を望む。」


「「「ふざけるなー!」」」

「「『渡り』は出てけー!!」」

「「【能無し】!出てけー!」」


「念の為、に説明する。このコロッセオ内での一切の怪我や死亡も、ダンジョンの力でリセットされる。」


 うん、何回聞いても驚くよ。


「では、両者の宣誓はコロッセオが聞き届けた!己の可能性を示せ!

 デュエル開始!」


 俺は背中に背負った斬月丸ざんげつまるを抜き放ち、いつものとおりゆっくり息を吸い込みながら深く深く感謝して、刀を大上段に構えて目を閉じた・・・


「馬鹿め!カッコだけつけても、所詮【能無し】だ!死んで後悔しろ!【スラッシュ】!!」


 相手の“怯え”がた。【スラッシュ】の斬撃が俺の『絶殺領域ぜっさつりょういき』に触れた瞬間!


「おい、【能無し】の剣筋、見えたか?」

「なんで【スラッシュ】がんだよ!」

「ふざけるな!きっとインチキだー!」

「そうだ!きっと何かのまちがいだ!相手は【能無し】なんだぞ!」

「そんなはずは・・・」


 俺はゆっくりと息を吐き出し、斬月丸ざんげつまるを肩の鞘に戻した。


「ふざけるなぁぁー!【能無しーぃ!】」


 相手の男が剣を振り上げて突進してきた。俺は腰を更に深く落として、肩口のつかに右手を添えた。


 相手の体が絶殺領域ぜっさつりょういきに触れた刹那せつな!鞘から飛び出した斬月丸ざんげつまるが音を斬った!


「なん・・だと・・・」


 相手の体が2つにズレて倒れた・・・


「勝負あり!デュエルの勝者はさかき レイ!」


 勝利と言っても、何も感じなかった。何百の観客がいても、みんな僕を口汚く罵るばかり。

 一体【能無し】の何がそんなに悪いのかなあ、父さん。


 父さんと2人で挑んだ命懸けの修行の果の勝利が、こんなに虚しいものだったら、僕は一体何を・・・・・・・・・


「レイちゃん?レイちゃんなの??レイちゃ―――ん!」


 恋しくて、何度も涙を流しながら思い描いた茜色の髪が、突然僕の胸に飛び込んできた・・・



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