37.決着



「いにしえの勇者たちよ! 僕に力を! キャッチ・リング!」




 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!




 出現した5つの光のリングが、ツカサに飛ぶ!



「あっ!? きゃあ!?」



 リングはツカサの首と両手首、両足首に取りつくと。



「きゃ、きゃああああああぁぁ!?」



 そのままツカサを、十字ハリツケの形に固定した。



「は、離せ! 離しなさい! 離しなさいってば!」



 ツカサはジタバタもがいているが。


 リングの拘束は、ビクともしない。



「ど、どうなってんのよ!? だってアンタ、もう『力』は使えないはずでしょうが!?」



「僕の『いにしえの勇者パーティー』の力。使用タイムリミットは……」



 わめくツカサに、僕は告げる。



「本当は『10時』だ。『8時』じゃない」



「んな……っ!?」



 目をむくツカサに、僕は続ける。



「『絶望の崖』で、タイムリミットをアピールしたのも。『力』の温存をアピールして、この玉座の間に直接テレポートしなかったのも。ついさっき、『力』が消えたと大げさにアピールしたのも。全部、貴様を釣り出すためだ」



 僕は肩をすくめる。



「まんまと乗ってくれた。よっぽど、相手の弱みに付け込むのが好きなんだな?」



「ぐっ……ぐ……が……!」



 怒りの表情でモゴモゴ言う、ツカサを尻目に。



「さっきは助かったよ。魔王の半身――『闇のクリスタル』の解呪時間を、稼いでくれて」



 僕は、みんなにウインクした。



「ツカサの前で、『解呪のキス』を仮面に使おうとしたら。怪しすぎてバレたはずだ。解呪前に力を取り戻される可能性も、高かったしな」



 だけど。



「みんなは、僕の意図を察してくれた。だからツカサを質問責めにして、気をそらしてくれたんだろ?」



「だってマモルくん、ずっと仮面を握りしめてたから」



 ナヅキが微笑んだ。



「バレない方法で『解呪』しようとしてるのは、すぐにわかったわ」



「僕が『力』を失う演技で、ツカサを釣り出そうとしたときも。乗ってくれて助かったよ」



「乗ったというか、焦ったわよ!」



 ユウリが、手をぶんぶんと振る。



「でも、ジョウカーと戦う前。マモルから聞いてた『力』のタイムリミットまでは、ほとんど時間がなかったじゃない? なのにマモルは、焦ってなかったしね」



 ニヤリと、ユウリは笑う。



「何か策があるって、信じてたわ」



「それに、お兄ちゃんは言ってた。これから何が起こったとしても、僕を信じてくれって」



 ハルカの瞳には、信頼の光が宿っている。



「信じられたよ。これは目的を果たすための、布石なんだって」



「そちらの愚かな王様には。相手を信じる気持ちなど、理解できないのでしょうけどね……」



 アイが冷ややかに、ツカサを見つめると。




「ち、違う! 違うんです!」




 いきなり、ツカサが大声をあげた。



「ア、アタシは魔王じゃありません! 人間です! ただの旅の賢者、ツカサなんです!」



 ツカサは、口調を丁寧語に戻し。


 早口でまくし立てる。



「勇者パーティーには、おどされて参加しただけで! 悪事を働いてるのはわかってましたけど、抜けるに抜けられなくて!」



 ツカサの口は止まらない。



「さっきのも、全部作り話です! デタラメです! ウソっぱちなんです! 頭の中に浮かんだお話を、出来心で口に出しただけなんですよ!」



 ……コイツ。


 往生際が悪いにも、ほどがある。



「これまでした悪いことは、一生かけてつぐないます! だから、このリングを外して――」



「ウソだな。貴様は人間じゃない」



 僕は断言した。



「ど、どうしてそんなことが言えるんですか!?」



「貴様は、『絶望の崖』で言ったな。転移魔法を使えると」



「使えますよ! でも! そんなの、アタシじゃなくても使えるはず――」



「使えないよ」



「……え?」



 固まるツカサに、僕は告げる。



「転移魔法は、いにしえの時代に失われたロスト・マジックだ。『力』がある僕を除けば、この世界に使える『人間』はいない。使えるのはナヅキたち『死神』や、『魔族』ぐらいって話だ」



「な……!?」



「つまり。転移魔法が使える、ということ自体が。人外の証明なんだよ」



「そんな……そんなはずは……!?」



 ツカサがうろたえている。



「だ、だって! あの勇者……じゃない! ダイトさんたちといるときに、何度も使ったのに!?」



「どうせ。何で使えるか聞かれたときに、適当なこと言ったんだろ? で、連中は深く考えず、鵜呑みにしたんだろうな」



 もしくは。



「人外と理解した上で、仲間にした可能性もあるか。残虐なもの同士、気が合っても不思議じゃない」



「う……そ……?」



 ツカサは絶句するが。



「そ、そうです! 思い出しました! たまたま見つけた古文書に使い方が――」



「昨日」



 食い下がるツカサを無視し。


 僕は続ける。



「フューチャ村で出会った魔族に、村を滅ぼしたのが『魔王』だと聞かされてから」



 そして。



「今日、『力』の期限を知らされてから。僕がターゲットに絞ったのは、ジョウカーと貴様だった」



 だって。



「貴様が『封印の塔』で、僕を殺そうとしたときの言葉。ずっと引っかかってたからな」



 そうだ。


 今でも、よく覚えている。




『ま、運が悪かったということで。愚かな人間の末路なんて、だいたいこんなものですよ……ふふっ』




「『愚かな人間の末路』と、貴様は言った。妙だと思った。まるで自分が、人間じゃないみたいだ」



 それに。



「フューチャ村で出会った魔族の、最期の言葉も。あとから考えると、貴様を連想させるものだった」



 そうだ。


 ヤツは最期、確かにこう言っていた。




『魔王……さま……まお……う…………カ……さ……さま……』




 だから。



「ハルカを助けたあとの、当初のプランは。ジョウカーを倒したあと、全力で貴様を探すことだった」



 でも。



「結果的に、探す必要はなかったけどな。ハルカの死に立ち会おうとしたのが、貴様の運の尽きだ」



「そ、そんなの! そんなのは、ただのこじつけです!」



「ひとつひとつはな。ただし」



 僕は続ける。



「たとえ、かすかな違和感でも。それが複数、積み上がるなら。仮説を立てるには十分だ」



「いい加減にしてください! そんな当てずっぽうで!」



 ツカサは声を荒げながら、僕をにらみつけてきた。



「だいたい! 村を滅ぼしたのが魔王、なんていうのは! ガンザのデタラメかもしれないじゃないですか! そんなデタラメを信じるなんて――」




「どうして名前を知ってる?」




「……え?」



「僕は、フューチャ村で出会った『魔族』、としか言ってない。ガンザなんて名前は、僕も1回ぐらいしか聞いた覚えがない」



「……あ!?」



「どうして、当時勇者パーティーにいた貴様が。出会ったこともない魔族の名前を、正確に言い当てられるんだ?」



「あ……あ……ぎ……ぐ……!?」



 口をパクパクさせる、ツカサへ向け。


 僕は告げる。



「僕の『力』は、人間を殺すと消える。いくら貴様が怪しくても、確証がなければ手は出せない。本当に人間の可能性も、あったしな」



 それに。



「人外だとわかっても。村を焼いたと自白させずに仕留めたんじゃ、真相は闇の中だ」



 かといって。



「痛めつけて、ムリヤリ口を割らせても。偽りの自白の可能性は消えない」



 とはいえ。



「『力』のタイムリミットまでに釣り出して。油断させて自白させるのは、大きな賭けだった」



 でも。



「その賭けに、僕は勝った」



 これで決着だ。



「チェックメイトだ、魔王ツカサ。僕たちの復讐、果たさせてもらう」


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