08.暴露 【勇者side③】

「偉大なるホープ・キャッスルの王よ!」



 オレ、勇者ダイトは今。


 サリィ、シャル姉、ツカサを従え。


 ホープタウンの中心にある城、『ホープ・キャッスル』の玉座の間で。



「どうかオレたち、勇者パーティーの頼みを聞いてくれ!」



 国王たちと、謁見の真っ最中だった。



 正面には、国王。


 左には、大臣。


 右には、フレデリカ姫。



 旅の途中にこの城で、何度か顔を合わせたメンツだ。



(さて、と。ここからが、オレたちの話術の見せどころだぜぇ……!)



 クソッタレ魔王・ジョウカーの『ゲーム』。


 すなわち、『ハンター・ハルカ』の殺害に乗り。


 ツカサの『転移魔法』で、真っ先に向かったのがここだった。



 このお人好しの国王を丸め込み、状況を有利に運ぶ。


 すでに、プランは組み立て済みだ。



「王よ! ただちに魔族に寝返った人間、ハンター・ハルカの捕獲を頼む!」 



 サリィが声高に訴え。



「聞いてください、王様ぁ。ハンター・ハルカは人間を裏切ったばかりか、シャルちゃんたちにヘンな呪いまでかけたんですよぉ!」



 シャル姉が、首輪を見せつける。



 もちろん首輪の犯人は、魔王ジョウカーだ。


 サリィやシャル姉の言ってることは、全部ウソっぱちなわけだが。


 それを証明できるヤツは、この場に誰もいない。



 ハンター・ハルカにありったけの罪をひっ被せ、印象を悪くするのが狙いだった。



「オレたち勇者パーティーに呪いをかけ、命を奪おうとするなど! 許しがたき暴挙だ! ただちに、ホープ・キャッスルの優秀な兵士たちを投入し! ハンター・ハルカを捕らえてくれ!」



 オレは熱を込め、国王に頼んだ。



「ふぅむ……」



 国王は厳しい表情で、宙をにらんでいる。



(おっしゃ! うまくだませそうだぜぇ……)



 オレは、心の中でほくそ笑んだ。



 このバカ王様をだまして戦力を出させ、人海戦術でハンター・ハルカを生け捕りにする。


 それから捕らえられたハンター・ハルカを、オレたちの手でブチ殺す。


 首輪の呪いは魔王に解かれ、オレはめでたく自由の身ってわけだ!



(くくくくくく……カンペキだ! まさにカンペキなプランだ!)



 ハンター・ハルカをブチ殺すにしても。


 そもそも今、ヤツがどこにいるかがわからない。


 それをオレたち4人で探し回るのは、あまりにも効率が悪すぎる。



 なら、人海戦術を取ればいい!


 それだけの話だ!



(くぅ~! やっぱりオレって天才だよな! ダテに勇者はやってないぜ!)



 などと、自画自賛していたときだった。




「まずは呪いの解呪を、マモル・フジタニ殿に頼むがいい」




「……へ?」



 予想外の国王の言葉に、オレは間抜けな声を出してしまった。



 マモル・フジタニ……だと!?


 まさか!?


 あの解呪師、国王と知り合いだったのか!?



「マモル殿は、非常に優秀な解呪師とのこと。そなたらの呪いも、必ずや解いていただけるはずだ」



「ま、待った! 待った待った待った!」



 オレはぶんぶんと、手を振り回して叫ぶ。



「王様! それはムリ! できないんだ!」



「……ほう」



 国王は鋭い目つきで、オレを見据えた。



「なぜ、無理なのだ?」



「そっ……それはっ……!」



 オレが答えあぐねていると。




「あなたたちが……殺そうとしたから?」




「いっ!?」



 冷ややかな声に、オレは固まった。


 まさかの暴露だった。



 ぎぎぎ、と。


 顔を、声のした方へ向けると。



「ボク、知ってるよ」



 フレデリカ姫が。


 ものすごい目つきで、オレをにらみつけていた。



「マモルおにーさん、言ってたから。勇者パーティーに、殺されかけたって。とってもとっても、つらそうな顔をしてた」



「は……? え……へ?」



 オレの口から、間抜けな声がもれた。


 だって。



「マモルが……言ってた?」



 意味がわからない。


 まったくもって、意味不明だ。



「ボクを助けてくれた、マモルおにーさん。そのマモルおにーさんを殺そうとしたなんて……ぜったいにぜったいに、許せない!」



 姫は、何やら怒り狂っているが。


 オレの耳には、まったく入ってこなかった。



 マモルが……生きてる?


 でもマモルは、オレたちが殺したはずじゃ……?


 けど、フレデリカ姫とは話をしてて……?



「どういう……ことだ?」



「わけがわからないん……だけど……?」



 サリィやシャル姉も、混乱している。



「そんな馬鹿な……!? ただの人間が、あの状況で生き延びられるわけが……?」



 ここまで黙っていたツカサも、これには驚きの表情を浮かべている。


 オレたちの誰にとっても、完全に予想外の展開だった。



「答えよ、勇者ダイト」



 眉間にしわを寄せ、国王がオレを問い詰める。



「お主らは本当に、マモル殿を殺そうとしたのか? 我が娘、フレデリカの恩人、マモル・フジタニ殿を!」



「だっ……だからっ……」



「答えぬか!」



「で……で、デタラメだ!」



 思わず。


 反射的に、オレは叫んでいた。



「オ、オレは勇者だ! どうして意味のない殺人を、勇者であるオレがするんだよ!? ぜんぶ、コイツのデタラメだ!」



 叫びながらオレは、フレデリカ姫に指を突きつけた。


 サリィとシャル姉が続く。



「そ、そうだ! こんな子供の言うことを、国王のアンタが信じるのか!?」



「大聖女であるシャルちゃんよりも、ガキの作り話の夢物語を――」




「だまれい!」




 大臣が吠えた。



「うおっ!?」



「ひっ!?」



「きゃっ!?」



 その気迫に、オレたちはひるんでしまう。



「我らが姫さまに対して何たる侮辱! もはや姫さまがお許しになられても、このワシは絶対に許さん!」



「我も大臣と同じ気持ちだ、勇者ダイト……いや。お主は、勇者などではないな」



 国王の目が細まった。



「この者どもを捕らえよ! 尋問を行い、真実を白日のもとにさらすのだ!」



 朗々とした、国王の声が響くと。



「捕まえろ!」



「逃がすな!」



「犯罪者を逃がすな!」



「姫さまを愚弄した連中を逃がすな!」



 すぐに兵士たちが、次々と部屋になだれ込んでくる!


 ヤバいぐらいの殺気だ!



「こ、こんなはずじゃ……こんなはずじゃあ……!?」



 ぐ……ぐぐっ……!



「く、くく、クソッタレがああああぁぁ!」



 オレは真っ先に、玉座の間から逃げ出した。


 サリィにシャル姉、ツカサも追いかけてくる。



「だが、まずいぞダイト! これではどうやって、ハンター・ハルカを探し出せばいいんだ!?」



「もうやだよぉ! どうしてシャルちゃんがこんな目にあわないといけないのよぉ!」



「なぜ、あの解呪師は生き延びている……? なぜ……?」



「グダグダ言ってないで、とっとと走れってんだよぉ! この役立たずどもがよおおおおおおぉぉ!」



 オレは、天に向かって絶叫しながら。


 ヘロヘロになりつつ、ホープ・キャッスルを逃げ出すのだった。




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