36.【勇者side その⑧】ただの男グレイ 壊れかける



ボク、勇者グレイは。究極最強最終必殺奥義『ゼット・エンド・クラッシュ』の反動がおさまったあとで。



「うがああああああああああ! はなせええええええええええ! はなせええええええええええええええええええええ! うごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



『ワンズ王国』兵に左右を固められ、ずるずる引きずられていた。



「アタシを誰だと思ってるのよ! 大陸最強の武道家メイファ様よ! これまでアタシが、どれだけ世界のために働いてきたと思ってるのよ!」



「ワタクシは天才魔導師のキャロラインですわ! 無礼にもほどがありますわよ! 今すぐにあやまるなら許します! すぐにワタクシを解放なさい!」



メイファも、キャロラインも。結局逃げきれず、無事につかまったみたいだ。



「離しなさい! 離しなさいってば! 離せ! 離せ! 離せぇぇぇぇ!」



「ワタクシの言うことを聞きなさい! 聞くのです! うぅぅ……聞いてよぉぉ! お願い、解放してぇぇぇぇ!」



ざまぁだ! 超ざまぁだ!



あんな女どもはどうなろうが知らん! しかし!



「ボクだけはとっとと解放するんだああああああああ! ボクは勇者グレイなんだああああああああ! ボクは世界の宝だぞおおおおおおお! ボクは無罪だあああああああ!」



「だまらんか!」



王国兵たちが次々に叫ぶ。



「何が無罪だ!」



「どう考えても有罪だろうが!」



「『ワンズ王国』管理の鉱山を破壊するとは! とんでもない連中だ!」



「それ以外にも! この『なんちゃって勇者パーティー』には、許しがたい余罪がある!」



「ああ! 闇組織『影のレンジャー5人衆』に、ロベル・モリス様の暴行を依頼したそうじゃないか!」




ピシッ!




「ち、違う! ボクはそんな依頼なんてしてない!」



「ウソをつくな!」



「ボ、ボボボボボクは勇者グレイだぞ! ボクは勇者なんだぞ! 誰かをボコボコにしようなんてアイデアが、勇者の頭に出てくると思うのか!? 信じてくれ! 信じてくれえ! 信じてくれええええ!」



食い下がるボクに。



「そそそそそうよ! アタシ、勇者パーティーのひとりなのよ! こんな正義感あふれる人間が、意味のない暴力を許すわけないでしょ!」



「そそそそそうですわ! ワタクシとて勇者パーティーの一員! これほどまでに心の清らかな人間が、暴行とか拷問なんてマネを思いつくはずがありません!」



メイファとキャロラインも乗っかるが。



「ごまかしてもムダだ! 正気を取り戻した『影のレンジャー5人衆』が自白したのだ! お前らから依頼を受けた、とな!」



ぬぐっ!?



「ウ、ウソだ! デタラメだ! キミたちは勇者よりも、そんな得体の知れない連中の言葉を信じるのかぁ!?」



「当たり前だろうが! 鉱山爆破犯の言うことなど、誰が信じられるか!」



「なっ!? ななな、なっ……!?」



「とっとと牢屋にブチ込んでやる! 追って厳しい刑が申し渡されるだろう! せいぜい覚悟しておくんだな!」




……そんな。




「そんな……そんなぁ……このボクが……牢屋に?」




この大陸の英雄、勇者グレイが? 牢屋に? 




「離して! 離して! 離してよおおおおおおおおお! あやまるからぁ! ごめんなさいするからああああああああああああ! イヤだあああああああああああああああああああ!」



メイファの絶叫と。



「イヤぁ……こんなのヤだぁ……ヒック……グスッ……」



キャロラインのすすり泣きが聞こえる。



ぼう然とするボクの耳に、王国兵たちの声が響く。




「まったく。こいつ、本当に勇者なのか?」



「そんなわけがない。勇者ならその証に、聖剣を持ってるはずだろ? どこにもないじゃないか」



「こんなヤツに使えるはずがない。聖剣なんてのは、持つべきお方が持たないと意味がないに決まってるさ」



「この世界で1番聖剣が似合うお方といえば、やっぱりロベル・モリス様だろうな」




ピシピシッ!




「当然さ! 魔族幹部を倒して『大聖堂』を救い! 『太陽の聖女』様の魔力を守り!」



『SS級指名手配『暗黒魔導士シャガール』を倒し! 『光の聖女』様を助け出した!」 



「いやいや! まったく素晴らしい力をお持ちだ!」



「素晴らしすぎて言葉がないよ!」 




……うそだ。




「『影のレンジャー5人衆』を捕らえたのも、ロベル様にちがいない!」



「ああ、まちがいないな! 『影のレンジャー5人衆』が見た暴君龍と不死鳥は、ロベル様の召喚モンスターらしいぞ!」



「知っているとも! 『ワンズ王国』を襲ったモンスター群相手に、ロベル様が呼び出したそうじゃないか!」



「伝説のSSSランク・モンスターって、人間に従うものなんだなぁ」



「ロベル様だからできるのさ! どんな不可能も可能にしてしまうお方なんだよ! ロベル様は!」




……うそだ。




「しかも、王国を救っていただいたあとだ! 気さくにも、俺たちとの会談の場まで設けてくださった! 俺、感激しちゃったよ!」



「俺もだよ! ロベル様のカリスマ性あふれる演説! 今でも耳に焼き付いてるさ!」



「カッコよかったよなぁ……! 俺、一生忘れないだろうなぁ……!」




……うそだ。




「そういえば『月の聖女』様も、今はロベル様のところにいるんだろ?」



「ああ! ロベル様は今、3聖女様たちといっしょに旅を続けていらっしゃるそうだ!」



「目的は打倒魔王らしいぞ!」



「あのお方ならきっと! いや、まちがいなく! 魔王を倒して世界を救うだろうな!」



「ロベル様は大陸の誇りだよ!」



「世界でいちばんの英雄さ!」




……なぜだ。




なぜだ。なぜだ!? なぜだなぜだ!? なぜだなぜだなぜだ!? なぜロベルが!?


どうしてロベルが!? 役立たずロベルが!? 無能ロベルが!? 



どうしてロベルがどうしてロベルがどうしてどうしてロベルがロベルがどうして


どうしてどうしてロベルがロベルがロベルロベルロベルロベルロベルドウシテ


ドウシテロベルロベルロベル!?



ロベルろべるロベルろべるロベルろべるロベルろべるロベルろべるロベルろべるロベルろべるロベルろべるロベルろべるロベルろべるロベルろべるロベルろべるロベルろべるロベルろべる!?




「……で、だ」



「その偉大なお方をパーティーから追い出したのが、こいつらってわけか」



「とんだバカ野郎の集まりだな」



「信じられんよ、まったく」



「理解不能だ」




ピシピシピシッ!




「何も言い返せないわ……」



「ワタクシたち、どこで道をまちがえてしまったのでしょう……」




ぐちゃぐちゃになった脳内に、メイファとキャロラインのなげきが響く。




「決まってるわ……。モンスターの巣でグレイが逃げたとき、追いかけちゃったのが失敗よ……」



「違います……。そもそもシルヴィの依頼を、あのタイミングで受けたこと自体が失敗ですわ……」



「違うわ……。そもそもロベルの確保を、『影のレンジャー5人衆』に依頼したのが失敗よ……」



「違います……。そもそもロベルたちを放っておかずに、わざわざ痛い目に合わせようと考えたのが失敗だったんですわ……」



「違うわ……。そもそも『月の聖女サマ』がグレイを見捨てたタイミングで、アタシたちも見放さなかったのが失敗よ……」



「違います……。そもそもロベルを追い出したこと自体が、致命的な失敗だったんですわ……」



「違うわ……。そもそも勇者パーティーに参加したこと事態が、究極の失敗よ……」



「違います……。そもそもこの男がどうしようもないクズだと見抜けなかった――」




ビキーーーーーーン!




「うるさあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい! うるさいうるさいうるさいうるさい! うるさいんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



ボクはブチ切れた。


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