22.支援役ロベル 3聖女のレベルアップを支援する




「うん! 3人の相性はバッチリみたいだな!」



にこやかに笑い合う3人をながめつつ、俺は切り出す。



「ところで、旅の目的はどうする? 俺の方では、特に決めてないけど」



「はいはーーい! みんなで魔王退治! これで決まりだよね!」



「ま、魔王退治?」



大胆なサミーの発言に、俺はビックリした。口調はおどけているけど、表情はまじめだ。



「私もサミー様に賛成です」



「え? アンリも?」



「『再び魔王が世界を危機にさらすとき、ひとりの男が立ち上がる。ひとりの男は『3人』の聖女を伴い、魔王を滅ぼし世界を救う』。伝説の状況は、確実に再現されようとしています」



「私もサミーやアンリと同意見」



「トウナまで?」



「聖女は世界を救うものに使えるのがさだめ」



アンリもトウナも、表情は真剣だった。



「魔王退治……か」



はるか昔勇者に倒された魔王は、ふたたび俺たちの時代によみがえった。



確かに今の魔族は、裏で暗躍する程度にとどまっている。けれどもいずれ、人々を大々的に襲ってくる可能性は十分にある。



もし、そうなった場合。



「『3聖女』は魔王との決戦の場に立たないといけない、ってことだな」



ふむ。そういうことなら、まずは。



「よし! サミー! アンリ! トウナ! いきなりですまないけど、やりたいことができた。ちょっとついてきてくれるか?」



「はーーい!」



「わかりました」



「了解」



俺たちは、『ワンズ王国』から少しだけ離れた平地に移動した。



「まずは『支援役』として、最初にやっておきたいことがあるんだ。みんなのレベルアップを支援させてくれ!」



「レベルアップ? もしかしてお兄様が前に見せてくれた、『エンカウント操作・インスタント』ってヤツでモンスターを呼び出すの?」



「お! サミー、よく覚えてるなー」



「でしょでしょ! えへへへへぇ」



「しかも、呼び出すだけじゃないぞ? スキル『エンカウント操作・インスタント』の『瞬殺機能』ってヤツを使うんだ」



「モンスターを呼び出して瞬殺!? あなた様はそんなスキルを使えるのですか!」



「ああ。これでカンタンに大量の経験値が手に入る、ってわけだな!」



「主様マニアの私も知らないスキル。もしかして新しく身につけた?」



「そういうこと。勇者パーティーを離れたあとですぐ、たまたま使えるようになったんだ」



あ。でも待てよ。



「このスキルで瞬殺した場合、パーティーメンバーに経験値って入るのか?」



よし、ここは慎重にいこう。



「『エンカウント操作・インスタント』のヘルプ画面を表示して、っと」



『瞬殺機能』の詳細を確認してみると。




『スキル使用時・使用者に接触していた人物は、使用者と同量の経験値・スキルポイントを得られます』




ふむふむ。意外にカンタンなんだな。 



「よし、みんな! すまないけど、ちょっと俺の体に触れててくれないか?」



「オッケー!」



「クスッ、いいですよ?」



「承知」




ぎゅっ! ぎゅむっ! ぎゅう!




「えっ」



なぜか3人は。



左右から俺の両腕と。背後から俺の背中に。



ぎゅうっ! としがみついてきた。



「いや、あの……3人とも? そんなに、ガッツリじゃなくていいんだけど?」



「いーのいーのお兄様! 触り方に決まりはないんでしょ?」



「わたしも問題ないと思います。何ひとつ」



「不都合ある?」



「い、いや。それはおそらく、ないとは思うけど」



「えへへへへー! ぎゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」



「うふふふふ! ぎゅうううううううううううううっっ」



「にこにこ、ぎゅうぎゅう」



「……ま、いっか」



気を取り直して始めよう。呼び出すのはもちろん、『あの』モンスターで決まりだな!



「『エンカウント操作・インスタント』使用! 種類はプラチナメタルゴブリン、数は40,000体、瞬殺するか? はイエスで!」




ポンポンポンポンポンポンポンポンポンポン! 




プラチナ色に輝くゴブリンが大量に現れ。




バシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッ!




どんどん消し飛ぶ。4万体でもおかまいなしだ。




『4,000,000,000の経験値を手に入れました』



『4,000,000,000のスキルポイントを手に入れました』



『プラチナメタル・ブレスレットを3コ手に入れました』





「おーし! プラチナメタル・ブレスレットも人数分ドロップしたぞ!」




『レベルアップ! ロベル・モリスのレベルが1,844になりました』



『レベルアップ! 『太陽の聖女』サミーのレベルが99になりました』



『レベルアップ! 『光の聖女』アンリのレベルが99になりました』



『レベルアップ! 『月の聖女』トウナのレベルが99になりました』




……あれ?



「3人のレベルはもっと上がると思ったけど? こんなもんか?」




『おめでとうございます! 『太陽の聖女』サミーはレベルMAXになりました!』



『おめでとうございます! 『光の聖女』アンリはレベルMAXになりました!』



『おめでとうございます! 『月の聖女』トウナはレベルMAXになりました!』




……あれぇ?



「レベル99が最大? 俺、レベル2,000が見えたんだけど――」



「お兄様スゴーーーーーーイ!」



サミーが歓声を上げた。



「スゴイよお兄様! まさか一瞬で最高レベルになるなんて思わなかった! あたしビックリしちゃった! もうスゴすぎ! スゴすぎてスゴイ以外の言葉が出てこないぐらいスゴーーーーーイ!」



「感動しました! あなた様の力が、まさかこれほどのものとは! 伝説のモンスター、プラチナメタル・ゴブリンを呼び出せるなんて! わたしの予想をはるかに上回っておりました!」



「離れ技をカンタンにやってのける。さすがとしか言いようがない」



アンリもトウナも喜んでいるが。俺は納得がいかない。



「い、いや、うーーーーーーむ!? もっとレベル上がると思ってたんだけどなぁ」



「もう、お兄様! 冒険者のレベル、フツーは99が最高でしょ?」



……えっ!? 



「マジで!? そうなの!?」



「ええ、サミー様の言う通りです。それに文献によりますと。かつての勇者様はレベル66で魔族四天王を、レベル77で魔王を倒したそうですよ?」



「……ホントに?」



「私達のレベルは、すでに過去の勇者を上回った。主様の圧倒的支援のおかげで」



「け、けどさ! それなら、どうして俺は――」



「あーーーーーっ!」



いきなりサミーが叫び、空のかなたを指さした。



「お兄様! あっちの方から、なんかいっぱい飛んでくるよ!」



俺は視線を向ける。飛行物体? 野鳥か? いや、ちがう!



「モンスターか!」



「これは……規模が大きいですね」



「編成がわからない。ここからじゃ遠すぎる」



「まかせてくれ! 俺が確認する!」 



よし! ここは支援スキルの出番だな!



「視力強化スキル『ワイド・サイト・アイ』発動!」



視力が大幅強化された目で、遠方を確認すると。



「レッサー・デーモンの群れだな。でも、それだけじゃない。地上にもスカル・ナイトの集団がいる」



「あんなところまで見えちゃうんだ! お兄様のスキルってすごい! お兄様もすごい!」



「さすがですね、あなた様。エルフの視力をはるかに超えたレベルです」



「主様の索敵は超一流」



「ちょっと待った! 報告はまだ終わりじゃない。数がケタ違いだ」



「ケタ違い? お兄様、いったいどのぐらいなの?」



俺は答える。




「空中と地上。あわせて合計、5,000体」




「ご、5,000体!? もしかして、魔族が本格的に攻めてきたってこと!?」



「進軍の方角的に、おそらく狙いは『ワンズ王国』です!」



「進軍速度もすごく速い」



「なるほどな。スピード特化タイプのモンスターを、大量に集めたってわけか」



「主様。ここで私たちが退いたら、王国が壊滅する」



ならば。



「やることはひとつだな。この場で相手になってやるさ」



心は決まっていた。



『ワンズ王国』の人たちが危ないんだ! 『支援役』が支援しないでどうする!




「『支援役』ロベル・モリスは、ここに宣言する!」



俺はこぶしを握ると、天に向かって突き上げる。



「『ワンズ王国』の完全防衛を、全力で支援する、と!」




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