20.【勇者side その④】勇者グレイ 過去の栄光をくすぐられる




ボク、勇者グレイは。冒険者ギルドの片すみで。



「クソ! 『影のレンジャー5人衆』は何をやっているんだ!? 相手はあの役立たずの無能へっぽこロベルだぞ!? あんなヤツをつかまえるのに、時間がかかりすぎだろうが!」



あふれ出すイライラをぶちまけていた。



「ダマされたんじゃないでしょうね? 金だけとられてトンズラとか」



「メイファさん、さすがにそれはありませんわ。評判がキズつくだけで、メリットがありませんもの」



「キャロラインの言う通りだ。しかし、いくらなんでも遅すぎる! クソザコのロベル1人つかまえられない、無能集団だったのではあるまいな!?」



と、そのときだ。




「おい! ビッグ・ニュースだ!」




近くの冒険者集団の会話が、ボクの耳に入ってきた。




「あの『影のレンジャー5人衆』が、『ワンズ王国』につかまったらしいぜ!」




「なっ!?」



「へっ!?」



「いっ!?」




ボクは飛び上がりそうになった。メイファもキャロラインも顔が引きつっている。




「『ワンズ王国』兵の軍事基地に、縛られて放り込まれてた、って話だ!」



「何だそりゃ? じゃあ、誰がつかまえたのかはわからない、ってことか?」



「連中の精神が安定したら、取り調べを進めるそうだ。今は『暴君龍がー! 不死鳥がー!』とか、意味不明なことしか言えないらしいぜ」




ボクの手がプルプルふるえる。



「どういうことだ!? まさかロベルが返り討ちに……いや! ヤツにそんなマネができるわけがない! それにしても使えん連中だ! いくら金を払ったと思っている!?」




ボクがイライラしていると。




「ニュースといえば! 『光の聖女』プリンセス・アンリが、20年ぶりに姿を見せたらしいじゃねえか!」



「ああ! あのロベル・モリス様が、助け出したって話だぜ!」




「は!?」



ボクはあんぐりと口を開けてしまった。コイツら何言ってるんだ!?




「しかも救出時には、SS級指名手配者『暗黒魔導士・シャガール』を倒したらしい!」



「スゲエエエエエエエエ! どんだけツエーんだよ!」



「『エルフの里』は英雄をもてなすために、大がかりな準備を進めてるそうだ!」



「『大聖堂事件』解決の方でも、王国からメチャクチャほうびが出るらしいじゃねえか!」



「ああ! 勲章授与もあるそうだ!」



「当然だよなあ! そんなスゲー人、聞いたこともないぜ!」



「『影のレンジャー5人衆』をつかまえたのも、ロベル・モリス様なんじゃねーか?」



「おー! それはあるかもなー!」




「ウソ……よね?」



「ウソ……ですわよね?」




メイファとキャロラインの顔から、血の気がひいていく。




「それに引き換え、勇者パーティーっていうのは何やってんだ?」




ピシッ!




「ロベル・モリス様をパーティーから追い出すなんて、バカだろ?」




ピシピシッ!




「脳ミソ腐ってるんじゃねーか? それとも空っぽか?」




ピシピシピシッ!




「ここ最近、成果をなーーーんも出してねーしな!」




ピシピシピシピシッ!




「真の勇者様って、ロベル・モリス様なんじゃねーの?」




ビキッ!!




「おっ……おまっ……おま……おまえ……おま……おまえ……おまえらっ……!」



ボクが手をふるわせながら、聖剣を引っつかんだとき。




「おーし! そろそろ行こうぜ!」



「いやー! 会ってみてぇなあ! ロベル・モリス様に!」



「なんちゃって勇者の顔は見たくもねーけどなー!」



「ハハハハハハハ!」




冒険者たちはボクに気づかず、ギルドを出て行ってしまった。



「ぐごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!? ぐごごごごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



ボクは吠えに吠えた。 



「なぜだ!? なぜだなぜだなぜだ!? ロベルはどれだけイカサマ野郎なんだ!? どんなイカサマをすれば、ここまでのウソっぱち情報を流せる!? むぎいいいいいいいいいいいいいいいいい!」



「グレイ! そんなことよりヤバイわよ! 『影のレンジャー5人衆』、取り調べでアタシたちのことしゃべったらどーすんの!?」




……はっ!?




……いや! だが! しかし!



「し、ししし心配は無用だ! ボボボボボクは勇者だぞ!? あんな連中がボクらのことで何を言おうが、信用されるはずがないだろう!?」



「け、けど! さきほどの話が真実なら! 連中、今は精神異常状態みたいですわ! 連中の取り調べ前に身を隠して、ほとぼりが冷めるのを待つ方が安全ですわよ!」



「む、無理だ! そんな金はない!」



そうだ。だって。



「『影のレンジャー5人衆』への依頼料に、ほとんど消えてしまったんだ!」



「はぁぁぁぁぁあ!? グレイ、アンタ何考えてんのよ!」



「いくらなんでも払いすぎですわ!」



「う、うるさい! キミらだって止めなかっただろ! そんなこと言ってるヒマがあるなら、Sランク・モンスターの1匹や2匹倒してきたまえ! そうすれば金が手に入る!」



「そ、そんなのムリに決まってるでしょ! ってゆーか、アンタにだってできないでしょーが! この前スケルトンにやられそうになって、ビービーわめいてたのはどこのどいつよ!」



「んなっ!?」



「そうですわそうですわ! 自分を棚に上げて、エラそうに言うのはやめてほしいですわ!」



「ななななな、なんだと!?」



「なによ!」



「なんですの!」



ボクらがバチバチと、火花を散らし出したときだった。




「もしや! そこにいるのは『勇者』グレイ殿ではないか?」




ひとりの女剣士がボクに声をかけてきた。銀色の胸当てと肩当てを身につけている。



「ん? キミは? どこかで会った気はするんだが」



「私は『ツーター村』の剣士シルヴィ。『勇者』グレイ殿には以前、我が村がモンスターに襲われたときに、手助けいただいた」



「ああ……そんなこともあったな」



ロベルやトウナがいた頃の話だ。シルヴィから『ツーター村』の救援依頼を受けたボクらが! 『世界の支援』の力とともに! モンスターを蹴散らしたことが! あったな。面倒な依頼だった。



「そういえば、あの依頼は……そうだ!」



思い出したぞ! あの依頼、ロベルとトウナが勝手に受けやがったんだ! どうしてあいつらは、たいした金にならない面倒ごとを引き受けるんだ!? 思い出したらイライラしてきたじゃないか!



「ここで『勇者』グレイ殿にお会いできるとは、私は運がいい! 実は、我が『ツーター村』の近くにモンスターが巣をつくっている。退治するため、仲間を探しているところなのだが」



「ふーん。それで?」



「私と共に、来てはいただけないだろうか?」



「すまないな。ボクは忙しいんでね」



「勝手なのは理解している。だが! 私は!」



シルヴィが、熱い視線をボクらに向ける。



「もう一度だけでいい! あなたたち『勇者』パーティーと共に戦いたいのだ!」



「そ、そ、そうなのか? ボクら『勇者』パーティーと?」



「うむ! 『勇者』グレイ殿の聖剣『ビリーヴ・ブレード』のきらめきが、忘れようにも忘れられなくてな! ダガーの光の輝きは、今でも夢に出てくるぐらいだ!」



「そ、そうかそうか! まあ当然だろうな! ハハハハハハハハ!」



シルヴィの話ぶりに、失われかけたプライドがよみがえってくる。



「それに武道家メイファ殿の、美しくも切れ味鋭い足技!」



「そ、そうかしら……? ヘヘへ」



「魔導師キャロライン殿の、強大な魔力から生み出される魔術の数々!」



「あ、あら。お上手ですわね……ホホホ」



メイファもキャロラインも、まんざらでもなさそうだ。



「ん? しかし、ロベル・モリス殿と『月の聖女』殿がいない――」



「よしわかった! ボクらにまかせておきたまえ!」



ひさびさに晴れやかな気分だ! やはり見る目があるヤツは違うのだ! 真の勇者はこのボクだ! 役立たずのロベルなど、問題ではない! たまには愚民のため、一肌脱いでやってもいいだろう!



「このボクが本気を出せば、モンスターなどは相手にならん! 勇者の力をバッチリと目に焼き付けるがいいさ! ハハハハハハハハ!」



「そうよね! この前はたまたま調子が悪かっただけ! 真のメイファ様の実力、見せてあげるわ! アハハハハハハハ!」



「このワタクシの魔法も、忘れてもらっては困りますわよ? 楽しみにしておきなさいな! ホホホホホホホホ!」



「ありがたい! 『ワンズ王国』からの報酬は、あなた方にもお渡しするつもりだ」



「なに!?」



「報酬ですって!?」



「うむ。我が村の近くには、『ワンズ王国』管理の鉱山がある。希少な資源が採れるという話だ」



「モンスターの巣の消滅が鉱山を守ることにもつながる、というわけですのね?」



「その通り。倒したモンスターの数に応じ、報酬が出るとの話をいただいている」



「素晴らしい! 素晴らしいぞシルヴィ!」



勇者の名声は上がる! 金も手に入る! トドメに『ワンズ王国』にも恩を売れる!



勇者であるこのボクが! ダメ押しで王国の信用を勝ち取れば! 『影のレンジャー5人衆』が何をどう白状しようが! 実績ある勇者と闇組織、どっちの証言が受け入れられるかは100パーセント確定じゃないか!



カンペキだ! まさにパーフェクト・ストーリー! 天はボクを見捨てていなかった! 



「さっそく行きましょうよ! 華麗な足技、見せてあげるわ!」



「腕が鳴りますわね! ホホホホホ!」



「よし! 行くぞシルヴィ! いざモンスターどもの巣へ! 『世界の支援』は勇者パーティーと共にある! 恐れるものなど何もない!」



フハハハハ! ロベルよ! 今のうちに、せいぜい調子に乗っているがいい!



最後に笑うのはこのボク、勇者グレイ様だからな!



「ハハハハハ! ハーッハハハハハハハハ!」




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