13.支援役ロベル 『光の聖女』を救出する
「ここだな」
ダンジョンをカンタンに突破した俺は、最深部に踏み込んだ。
「ふぉっふぉっふぉっ……」
研究室みたいな部屋の中に、ローブを身につけた老人がいた。
「アンリ姫をさらったのは、あんたか?」
「いかにも、その通りじゃよ」
感覚でわかった。こいつは魔族じゃなくて人間だ。それに。
「あんまり強くはないな。これなら俺1人でも何とかなりそうだ」
部屋の中央には黒い十字架がある。アンリ姫は、あの中か。
「ふぉっふぉっ。若いクセに、なかなかたいした男じゃな。ここまで来られる人間がいるとは、思いもせんかった」
「それはどうかと思うぞ? はっきり言って楽勝だったし」
「そんなに強がらんでいいんじゃよ? このダンジョンは、ワシの魔力を結集して作り上げたものじゃからな。侵入者撃退用ガーディアンの軍団に、数えきれないほどのトラップ。加えて複雑な道すじの迷路ときておる」
「はあ」
「そこを突破できたことだけは、ほめてやろう。じゃが、かわいそうにのぉ」
「かわいそう?」
「それだけの激戦を切り抜けてきたのじゃ。おヌシには体力も魔法力も、ほとんど残っておらんのじゃろう? ここでワシに、なぶり殺されるのが結末というわけじゃ。ふぉっふぉっ」
……ん?
「いや。あり余るほど残ってるけど?」
「ふぉっふぉっ。強がらんでもいいんじゃよ?」
「事実なんだけどな」
「ふぉっ! ふぉっふぉっふぉっ! ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっ!」
老人が笑い出した。
「口の減らん若造じゃな! ならば! 語ってみるがよい! 力を残したまま! どのような手段で! ここまでたどり着けたのか、をな!」
「ガーディアンは、全部一撃で破壊した。外で倒してきたスノー・ドラゴンよりも、だいぶ弱かったんじゃないかな」
「……ふぉっ?」
「トラップは、支援スキル『トラップ・キラー』で全部ぶっ壊した」
「ふぉ? ふぉっ?」
「迷路は、支援スキル『オートマッピング』で構造をつかんだ」
「ふぉふぉふぉ? ふぉっ?」
「それだけ。カンタンだろ?」
「は、ハッタリはやめてくれんかのう? おヌシみたいな若造に、そんな高度なマネができるはずがない。だいたい、スノー・ドラゴンをひとりで倒したじゃと? そんな人間、聞いたこともないわ! これぞハッタリの証拠じゃよ!」
「まあ。どう思おうが、あんたの勝手だけどね」
うーん。何か、考え方がこの間の魔族と似てるな。どいつもこいつも、自分の力を過信しすぎじゃないか?
「ま。どうでもいいさ。俺の目的は、アンリ姫を助けることだからな」
「ふぉっ! できるものならやってみるがいい。『光の聖女』は十字架の中じゃ」
「ああ。知ってる」
「助けられるものなら、助けてみるがよかろう? ワシはいっさい手を出さん。いや、手を出す必要がない! なぜならば!」
老人はクワッ! と目を見開いた。
「このダーク・クリスタルの十字架は、ワシの強大な魔力を圧縮して作り上げたものじゃ! おヌシごときの力で、壊すのは無理じゃよ! あきらめるなら今のうちじゃぞ! ふぉふぉ! ふぉふぉふぉふぉ! ふぉーーーーーーっふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ!」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
「ふぉっふぉっ……ふぉっ?」
「支援スキル『ショック・アブソーバ』で衝撃吸収力アップ! 対象は『ダーククリスタルの十字架』!」
俺の宣言で、十字架の衝撃吸収度が上がる。ただ、1回だけじゃ不十分だろうな。
「しょ、衝撃吸収じゃと!?」
「ああ。必要な手順だ」
「ど、ど、どどどどういうつもりじゃ? おヌシ、なぜ十字架の衝撃吸収力を上げる?」
「全力で壊したら、中のアンリ姫が危ないだろ?」
「ふぉ!? おおおおおおおおおヌシ何を言っておるのじゃ? ままままままさか、キサマは手加減して壊すとでもいうのか――」
「ちょっとだまってて。『超高速詠唱』で、スキル使用スピードアップ!」
からの。
「『ショック・アブソーバ』で衝撃吸収力アップ! 対象は『ダーククリスタルの十字架』!」
更に。
「『ショック・アブソーバ』で衝撃吸収力アップ! 対象は『ダーククリスタルの十字架』!」
更に。
「『ショック・アブソーバ』で衝撃吸収力アップ! 対象は『ダーククリスタルの十字架』!」
もひとつ。
「『ショック・アブソーバ』で衝撃吸収力アップ! 対象は『ダーククリスタルの十字架』!」
よし。こんなもんか。
「拘束物破壊スキル『プリズン・ブレイク』発動! 対象は『ダーククリスタルの十字架』!」
バキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
十字架はカンタンに砕け散った。現れたアンリ姫が、どさっと地面に崩れ落ちる。
「ぶふぉーーーーーーーーーーーーーっ!? ぶぉふぉふぉふぉ、ぶふぉおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!?」
何やらわめく老人はスルーして、アンリ姫の様子を確かめる。
「……よかった、気絶してるだけだな。でも、ペンダントに光がない」
サミーのときと同じだ。コイツが奪ったわけか。そういうことなら。
「返してもらうぞ。アンリ姫のエネルギーも、ペンダントの魔力もな」
「おおお、おヌシは何者なのじゃ!? 歴史に名を残す、伝説の大魔導士じゃとでもいうのか!?」
「違う。ただの『支援役』だ。あんたを倒せる程度のな」
「バババ、バカにするでないわ! このワシが、こんな若造ごときのちっぽけな魔力に負けるはずがないんじゃ! ワシは100年以上の時を生きる、暗黒魔導士・シャガール様じゃぞ! おびえよ! 恐れよ! ひざまずけえええええええええ!」
「聞いたことないな」
「ほざくでないわあああああぁぁぁぁぁ! 最上級エルフ『光の聖女』のエネルギーを我がものとし、ワシは世界の支配者となって永遠を生きるのじゃ! このワシの計画が、こんな若造につぶされるはずがない! つぶされるはずがないんじゃああああぁぁぁぁ!」
……はあ。何言ってんだか。
「言うほどたいしたことないよ、あんた」
「な、なんじゃと!?」
「あんた、アンリ姫が消耗したスキを狙ってつかまえたんだろ? つまり、まともに戦ったら勝つ自信がない、って思ったわけだ」
「うぐっ!?」
「図星みたいだな。もともとの魔力がどの程度だったかは知らないけど、トップレベルじゃなかったのは想像できる。そんなセコセコしたやり方で、世界の支配者になる? ムリに決まってるだろ?」
「ぬぬぬ……ぬぬぬぐぎぎ……!」
「それにさ。あんたみたいな自分のことしか考えてないヤツが、アンリ姫の清らかなエネルギーや『光のペンダント』の魔力を使いこなす? できるわけないよ。ちょっと考えれば、カンタンにわかりそうなもんだけどな?」
「だ……だ……だまれ! だまれだまれ! この若造ごときがああああああああああああああああああああああ! 調子に乗るでないわぁぁぁぁぁ!」
老人は俺に向け、何やら魔法を唱えはじめるが。
俺にはわかった。
「力の差は圧倒的だ。支援スキルを使うまでもない」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇい! 『フレアー・ランス』!」
老人から放たれた巨大な炎のヤリが、俺に飛んでくるが。
ピキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
プラチナメタル・ブレスレットのバリアで、炎のヤリは粉々に砕け散った。
「な、なぜじゃっ……!? なぜ黒コゲにならんっ……!?」
スキだらけの老人に向かい、俺はスキルを発動する!
「魔力強奪スキル『マジック・スティール』発動! 対象は『光の聖女』アンリ姫と『光のペンダント』の魔力! さらにエネルギー強奪スキル『エナジー・スティール』発動! 対象は『光の聖女』アンリ姫のエネルギー! 奪い取った力はあるべき場所に戻れ!」
バシュウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!
老人から飛び出した白い光が、アンリ姫のもとに飛んでいく。同時に。
「ぐああああああああああああああああああ!? か、体が!? 体が崩れるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
老人の体は、みるみる干からびていく。
「なぜじゃあああああああああ!? ワシは、ワシは、えいえんを、えいえんを……いき……て……」
声が消えたあと。そこにはローブと骨が残っているだけだった。
「……とっくに寿命が尽きてた、ってことか」
長寿なエルフのエネルギーを取り込んで、命をつなぎ止めていたんだろうな。
「悪いけど、同情はできないよ。生まれ変わったら、もっとまともな目標を持って生きてくれ」
「ロベル様」
いつの間にか俺の横に、目覚めたアンリ姫が立っていた。
「待っておりました。この瞬間を……!」
アンリ姫の笑顔は、まるで光のように。
きらきらきらきらと、輝いているのだった。
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