11.支援役ロベル 『光の聖女』の支援を誓う

『助けて……助けてください……』




「えっ?」



少女の声が、いきなり頭に流れ込んできた。



「何だ? 何が起きた?」



念のため、あたりを見回すが。



「誰もいないな。空耳だったか?」




『届いてください……わたしの心……』




「……違うな。空耳なんかじゃない」



心当たりがない声だ。でも。



「声には焦りも不安も、絶望も感じる」




『助けてください……どうか、わたしを……』




まただ。状況はわからないけど。



「『支援役』として、放っておくわけにはいかないな」



とりあえず、トウナの手紙はあと回しだ。申し訳ないけど、現状に集中させてもらおう。



「トウナ、ごめん! あとで必ず読むから許して!」



トウナにあやまりながら、俺は手紙をしまった。




「さて、と」



例によって、ここは慎重にいこう。



「といっても、この状況でやれることは限られてるか」



俺はステータス画面から、支援スキル一覧を開いた。1,000個のスキルがズラーーっと並んでいる。



「ここはスキルの出番だな。どうにかして、こちらから問い返せないか?」



いくら1,000個を使えても、まだまだ覚えたての身だ。効果をつかめてないスキルは山のようにある。



「これは違う、これもダメそう、これはちょっと違うかな」



片っ端からスキルの効果をながめていくと。



「おっ」



ひとつ、目にとまったスキルがあった。




『レゾナンス・ハート(任意の相手と精神共鳴・成功率はレベル依存)』




「もしかしたら、これが使えるんじゃないか?」




『届いてください……わたしの声……』




おっ、来たぞ! 今だ!



「『レゾナンス・ハート』発動! 対象は『今の声のヌシ』!」



あいまいな表現だけど。それしか言いようがないんだから仕方がない。



「聞こえている! こちらの声が聞こえたら、返事をしてくれないか!」




『えっ……! あ、はい! 聞こえます! 聞こえています!』




「よし! うまくいったぞ!」



うん、何とかなるもんだ! 支援スキルさまさま、ってところだな!




『よかった……! これまで20年間、誰にも声が届きませんでした。素晴らしいチカラをお持ちなのですね』



「に、20年間? 俺が生まれる前からだぞ?」



「お恥ずかしい話ですが……」



「でも、そのわりに声が若いけど?」



『エルフですので。今は100歳を超えたぐらいです』



なるほどな。人間にたとえるなら、俺より少し下ってところか。



「俺の名前はロベル・モリス。キミは何者だ? 今はどんな状況なんだ?」



『順にお答えいたします、ロベル様』



「さ、様?」



うーむ。ちょっと恥ずかしいけど……まあいいか。



『わたしの名前はアンリ。この大陸で、『光の聖女』と呼ばれている者です』



「『光の聖女』だって? もしかして『大陸3大聖女』の、エルフのお姫様?」



『その通りです』




この大陸に存在する、強大な力を持った3人の聖女の通り名『大陸3大聖女』。



1人は。俺の幼なじみにしてパーティーを組む予定の、『太陽の聖女』サミー。



1人は。俺に謎の手紙を渡した勇者パーティー所属の、『月の聖女』トウナ。



そして最後の1人は。エルフ族のプリンセス、『光の聖女』アンリ。




「ここのところ、やたら聖女と縁があるな。俺」




あまり詳しくは知らないが。彼女の容姿は大陸の宝とか、プリンセス・オブ・プリンセスと呼ばれるほど美しいらしい。



プラチナを思わせる銀髪に、最高級エメラルドのような緑の瞳。この評判通りなら、きっとサミーやトウナに勝るとも劣らない、ものすごいレベルの美少女なんだろう。




「それで、アンリ姫。今の状況は?」



『情けないお話ですが……。邪悪なものにとらわれ、エネルギーを吸い取られ続けているのです』



「何だって……?」



そういえば。確かに『光の聖女』は、もう何十年も人前に姿を見せてない、というウワサだったが。



「敵につかまってた、ってわけか。邪悪なものってことは、相手は魔族か?」



『わかりません』



「わからない?」



『20年前のことです。修行に出ていたわたしは、高位魔族と交戦しました。どうにか倒したのですが、消耗したスキをつかれ、何者かの魔法で気を失い……』



「なるほどな……。ずいぶんとセコいマネをするヤツだ」



『気がついたとき。わたしはダーク・クリスタルで作られた、十字架に封じ込められていました。それから20年間、わたしはこの十字架にとらわれ続けてきたのです』



「もちろん場所もわからない、よな?」



『はい……。外の様子は何も……』



「そうか……他に何かわかることは?」



『吸われたエネルギーが、近くの何者かに取り込まれる感覚ぐらいしか……』



「そいつがアンリ姫をさらった犯人、ってわけだな」



『申し訳ありません……お役に立てず……』



アンリ姫の声が小さくなっていく。



「い、いやいや! あやまることじゃないよ! こっちこそ、質問攻めにしちゃってごめん」



『クスッ、ロベル様はやさしいですね』



「やさしい? そんなことないと思うけど」



『少しお話をしただけでわかりましたよ? 他人に気を使える人だなぁ、って。きっと、女の子にはモテモテなんでしょうね?』



モ、モテモテ? 



「いやいやぜんぜん! そういうのに縁がないんだ、俺!」



『クスッ、本当ですか?』



「モテたことなんて、生まれてから1回もないからな! エラそうに言うことじゃないけど!」



『気づいていないだけでは?』



「いやいやいやいや! まちがいないから!」



『クスクスッ』



アンリ姫が笑った。が。



『最期にロベル様みたいな、やさしい方とお話できてよかったです』



「えっ? 最期?」



『これでもう、思い残すことはなくなりました』



「ちょ、ちょっと待った! どういうことだよ!」



『わたしのエネルギーはあと2日で、すべて吸い尽くされてしまうでしょう』



「……そんなに時間がないのか」



『わたしの体はもうボロボロです。ここまで耐えられたのが、奇跡だったんです。助けを求めておきながら勝手ですけど、わたしのことは忘れてください』



「…………」



『わたしの代わりに、ロベル様がしあわせな毎日を送れるよう、心からお祈り申し上げま――』



「俺が助けるさ」



「え?」



心は決まっていた。



とらわれのお姫様がピンチなんだ! 『支援役』が支援しないでどうする!




「『支援役』ロベル・モリスは、ここに宣言する!」



俺はこぶしを握ると、天に向かって突き上げる。



「『光の聖女』アンリ姫の完全勝利を、全力で支援する、と!」




『そ、そんな! 気持ちはうれしいですけど、無茶です!』



「やってみなけりゃわからないさ」



『で、でも! これまでわたしの声が誰にも届かなかったのは、敵が魔法で妨害していたからに違いありません! そんな強大な相手と戦うなんて、危険すぎます!』



「だけど今。俺とアンリ姫はこうやって、誰にもジャマされずに話せてるじゃないか」



『あっ……! そういえば……!』



「俺のチカラが、敵を上回ってる可能性があるってことだ。まだまだ未熟だけど、支援スキルは1,000個使えるしね」



『ス、スキルを1,000個ですか!? そんなに使える方、わたしは聞いたことがありません!』



「そうかな? 探せばほかにもいると思うよ?」



『ロベル様はいったい何者なのです!? 伝説の勇者様? 大魔導士? それとも、世界を救うもの?』



「そんなにすごい人間じゃないよ。ただの『支援役』さ」



『……クスッ、クスクスッ、クスクスクスッ!』



アンリ姫が笑い出した。



「ん? 何かおかしかったかな?」



『不思議ですね。なぜかはわかりませんけど、すごく安心できます。ロベル様なら絶対、わたしを助け出してくれる。そんな気持ちになれました』



「まかせてくれ! 期待にこたえてみせるよ!」



『お会いできるのを楽しみにしております! ロベル様!』



「必ず助けるから! もう少しだけ頑張ってくれ、アンリ姫!」




俺は『レゾナンス・ハート』を解除し、アンリ姫との交信を終えた。



「さあ、のんびりしてはいられないな。ここからが勝負だぞ」




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