8.支援役ロベル 魔族幹部をカンタンに倒す

「ここだな」



『大聖堂』に突入した俺は、最深部の扉を開けた。そこは祭壇の間だった。



「ほう、人間ですか」



貴族のような姿をした、1人の男がたたずんでいる。



「こいつが魔族の幹部……か」



感覚でわかった。




「あんまり強くはないな。これなら俺1人でも何とかなりそうだ」




うーむ。ちょっと拍子抜けしてしまったぞ。まあ、好都合だけどな。



「『太陽の聖女』サミーから奪ったチカラ、返してもらうぞ」



「ほほう。『太陽の聖女』の親衛隊、というわけですか?」



「少し違うな。親衛隊じゃなくて『支援役』だ」



「フン。まあ、そんなことはどうでもいいでしょう。クククク」



魔族が笑う。



「それにしても『太陽の聖女』以外に、ここまでたどり着く人間がいるとはねぇ。予想外でしたよ」



「はっきり言うと、ぜんぜん苦労しなかったけどな」



「ハハハハ! 同族を傷つけ、殺し合いながらここまで来た、というわけですねぇ? まったく、人間とはあきれた生き物だ。愚かとしか言いようがない!」



……ん? こいつは何を言ってるんだ?



「殺し合う? 俺、そんなことしてないぞ?」



「やれやれ、ハッタリはやめてもらえますか? この部屋の前には、私の強力な洗脳魔法をかけた人間を大量に配置しておきましたからねぇ。バーサーカー状態の彼らと戦わずに、ここまで来られるはずがない」



「その洗脳魔法、だっけ? 全員分、とっくに解いたから」



「……は?」



「今は全員、聖堂の外に避難してもらってるよ」



「ハハハハ! ハハハハハハハハ! ハーーーーーーッハッハッハッハッハ!」



なぜか魔族は高笑いを始めた。



「何がおかしいんだ? 俺、ヘンなこと言ったか?」



「どうやら、あなたはウソをつくのが苦手らしい。人間ふぜいに、そんな芸当ができるわけないでしょう?」



「そう思うのは勝手だけどな。カンタンだったけど?」



「まったく、口の減らない人ですねぇ。いいでしょう。それではどうやって洗脳を解いたのか、教えてもらえますか?」



「外から『大聖堂』全体に、洗脳解除スキルを1回使った」



「ほうほう。それで?」



……いや。それで? と言われてもなぁ。



「それだけだよ。たったそれだけ」



「ハハハハハハハハ! ハーーーーーーッハッハッハッハッハッハ!」



またも魔族は、なぜか高笑いを始める。



「えーーーっと。何かおかしい部分があるか? さっぱりわからん」



「ハッタリにもほどがありますねぇ! これだけの広々とした範囲に! あなたひとりで! 洗脳解除の技を使った?」



「ああ」



「しかも! この私の! 圧倒的魔力を使った洗脳を! あなたのような人間ふぜいが! 解除した?」



「ああ」



「ハハハハハハハハ! いいでしょういいでしょう! これから! この私が! この私自身の手で! あなたの話がたわ事であると! あきらかにしてあげましょう!」



「ムダだと思うけど」



「フフン! そんなに余裕ぶっていられるのも、今のうちですよ!」



魔族は何やら呪文を唱え始めた。



「我がしもべとなりし人間どもよ! 呼びかけに応じよ! この場につどい、ナマイキな『太陽の聖女』の親衛隊を殺すのだ!」




シーーーン




「……どうした? 我がしもべどもよ! 早く来るのだ!」




シーーーーン




「お、おい! 私の命令が聞けぬのか! とっとと来いと言っている!」




シーーーーーン




「ふ、ふざけるのもいい加減にしろ! キサマらの主が来いと言っているのだぞ! さっさと来い! 来るのだ!」




シーーーーーーン




「バ、バカな!? なぜ来ないのだ!? この人間の言ってることはでたらめだ! 私の洗脳が、こんな人間ごときに破られるはずがないのだ!」




シーーーーーーーン




「来い! 来い来い! 来いといっている! 来いというのがわからぬのか!? わからぬのかあああああ!?」



……やれやれ。



「だからムダだって言ってるのに。魔族って頭が悪いんだな? あと親衛隊じゃなくて『支援役』だから」



「だ、だまれ! だまれだまれだまれ! だまれぇぇぇぇぇ!」



俺の挑発に、魔族は怒り狂って我を忘れている。完全無防備。ここがチャンスだな! 覚えたての支援スキルの出番だ!



「魔力強奪スキル『マジック・スティール』発動! 対象は『太陽の聖女』サミーと『太陽のペンダント』の魔力!」




バシュウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!




「う、うお!? うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」



魔族の体内から、オレンジ色の光が俺に向かって飛び出した!



「続けていくぞ! 魔力結晶化スキル『マジック・コーティング』発動! 対象は『太陽の聖女』サミーと『太陽のペンダント』の魔力!」




パキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!




飛び出した魔力が結晶化する! オレンジ色に輝く結晶は、俺の手の中にすっぽりと収まった。



「覚えたばかりのスキルも、案外使いこなせるもんだな」



さて、と。




「サミーのチカラ、確かに返してもらった。あとは、あんたを倒すだけだ」




「ききき、キサマは何者だ!? まさか!? 魔王様の害となる、伝説の勇者だとでも!?」



「違う。ただの『支援役』だ。あんたを倒せる程度のな」



「ふ、ふ、ふふふふざけるな!? キサマのような『支援役』がいてたまるものか!? 強大な力を持ったこの私が、ザコ人間ごときに後れを取るはずがないのだ! わ、私を! 私を誰だと思っている!? 私は魔王様直属の四天王に次ぐ実力者、魔将軍デリー様だぞ!」



「悪いけど、そういうの別に興味ないから」



「だまれだまれだまれ! 『太陽の聖女』のチカラを取り込み、増幅した力で四天王どもを蹴落とす! この私の計画が、こんなところで終わってなるものか! なるものかあああああああぁぁぁぁ!」



……はあ。何言ってんだか。



「言うほどたいしたことないよ、あんた」



「なんだと!?」



「洗脳だとか人質だとか、イチイチやり方がセコすぎる。どーせ、サミーのチカラにビビってたんだろ?」



「むぐっ!?」



「まあ、正々堂々サミーと戦ってたら、100パーセントボロ負けだっただろうね。サミーの結界、結局破れなかったみたいだし?」



「ぐぐっ、ぐぐぐぐ……!」



「そもそも。あんたみたいな邪悪な魔族に、サミーの純粋な力も『太陽のペンダント』の魔力も使いこなせるわけないだろ? ザコ人間ごとき、とか言って甘く見てるくせに、こうやって痛い目を見てるのが何よりの証明だ」



「お……おのれ! おのれおのれ! おのれおのれおのれえええええええええええええええぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇ! 言わせておけばぁぁぁぁ!」



魔族は両手に闇をまとわせ、俺に向かって突っ込んでくるが。



俺にはわかった。




「力の差は圧倒的だ。支援スキルを使うまでもない」




ショートソードを抜き、そのまま魔族に投げつける。




ドシュッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!




「ぐあああアアアア! ナゼダナゼダナゼダ!? ナゼワタシガコンナ、ザコニンゲンナドニィィィィィィ!? ウグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ……」



悲鳴とともに、魔族の体が崩れ落ちる。あとには灰が残るだけだった。



「うーむ、予想以上に楽勝だったな。魔族の幹部って、案外大したことないのか?」



いや。



「違うな。こいつが弱すぎただけだ」




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