勇者パーティー追放された支援役、スキル「エンカウント操作」のチート覚醒をきっかけに戦闘力超爆速上昇中ですが、俺は天職の支援役であり続けます。~稼ぎ放題最強無双・聖女を救い世界を救う・勇者没落今更遅い~
カズマ・ユキヒロ
1.支援役ロベル 勇者パーティーを追放される
俺の名前はロベル・モリス、18歳の男だ。
ここ『ゼローソ大陸』で、勇者パーティーの『支援役』をしていた。
そう。今、この瞬間までは。
「ロベル、キミは追放だ。これからボクのパーティーを出ていってもらおう」
冒険者ギルドの片すみで、勇者グレイが俺に言った。
「……理由を聞いてもいいか」
どうにか声を絞り出す。あまりにも突然すぎて、わけがわからなかった。
聖剣『ビリーヴ・ブレード』の持ち主で、打倒魔王に一番近いとされる男、勇者グレイ。そんなグレイのパーティーを、俺は全力で支援してきたつもりだった。
「やれやれ。言われないとわからないのかい? ま、いろいろあるけどね」
「そんなに、あるのか……?」
「心あたりがないとは、本気でタチが悪いね」
「……聞かせてくれ」
「フン! まあいいだろう!」
グレイがニヤリと笑う。
「一番の理由は、キミが役立たずだからだ! キミのちっぽけなチマチマした支援スキルは、今のボクらには必要ないんだよ!」
「俺の支援スキルが……ちっぽけ?」
「そうだとも! ボクら勇者パーティーは今、『世界の支援』を受けているからね」
「『世界の支援』だって?」
なんだそれは。聞いたこともない。
「聖剣の勇者であるこのボクに、世界が力を貸してくれるんだろうね! たとえば戦闘中は、『勝手に』能力が大幅強化される。モンスター・エンカウント率は、『なにもしなくても』ボクが望む通りに調整される。効果は数えればキリがないさ」
「なんだって!? そんな力、俺は感じたことがないぞ!?」
全然知らなかった。完全に初耳だった。
「フフン! キミは『世界の支援』を受けていない、という証明だよ。勇者パーティーの一員にふさわしくないのはあきらかだろう? それに、だ!」
グレイは指を、ビシッと俺の目の前に突き出した。
「昔から気にいらなかったんだよ、キミは! 何かにつけてこのボクに命令する! パーティーのリーダーはボク、勇者グレイだ! 役立たずのくせに、エラそうにあれこれ言うな! イチイチ生意気なんだよ!」
「違う、そんなつもりじゃない! 俺はただ――」
「アタシもグレイに賛成だから。この前だってそうよ」
武道家のメイファが、俺の言葉をさえぎった。鍛えられた拳と、スリット入りドレスから繰り出す足技を武器に、勇者パーティーの前衛を担当している。
「『あのモンスターは防御力が高い!』とか叫んでたけどね。『世界の支援』を受けたアタシが、それ以上の力で叩きつぶしてあげたじゃない。そのへんの無能パーティーならともかく、アタシたちに必要な指示とは思えないわね。わかったかしら、足手まといさん?」
「ワタクシも、グレイさんやメイファさんと同じ気持ちですわ。先ほどの戦闘、思い出してごらんなさいな? まったく……はぁ」
今度は魔導師のキャロラインだ。様々な属性魔法を使いこなす、パーティーの遠距離攻撃担当。黒いトンガリ帽子に手をかけ、ため息をついている。
「『あいつは魔法防御が高いな』とか、おほざになってましたけど。『世界の支援』を受けたワタクシの、炎魔法で黒コゲでしたわ! トンチンカンな口出しをされますと、グレイさんとの連携は乱れますし、ワタクシの集中力も乱れます! はっきり言ってジャマ! ジャマ者以外の何者でもないですわ!」
「そ……そん……な……」
戦闘では状況を見ながらアドバイスをしつつ、支援スキルでパーティーの戦力増強をしていたつもりだった。ダンジョン探索でも先手を打ち、エンカウント率の操作やトラップ探知をしていたつもりだった。
勇者パーティーの力になれているつもり……だった。
でも、現実は。
ぜんぶムダだった? 何ひとつ役に立っていなかった? それどころか、不要な存在だと思われて……いた?
「…………」
パーティー最後のひとり。聖女トウナは、さっきからだまっている。俺と目を合わせようともしない。
聖女トウナ。
年は俺よりひとつ下。つややかな黒髪に、最高級アメジストのような赤紫の瞳。すれ違った男が100パーセント振り返るであろう、整った顔立ちの美少女だ。
その通称は『月の聖女』。神秘的な雰囲気と、適合者に無限の魔力を与える伝説アイテム、『月のペンダント』からつけられた通り名だ。圧倒的な魔力でさまざまな神聖魔法を使いこなす、大陸中に知れ渡るレベルの実力者。勇者パーティーのシンボルともいえる存在だ。
「トウナもみんなと同じ考え、なんだよな?」
俺の問いに、トウナは顔をそむける。視線の先には勇者グレイ。
「見る目がなかった。それだけ」
「この返事だけは、俺の予想通り……か」
俺は旅の間、ずっとトウナに監視されているのを知っていた。
街中では、いつも背後から視線を感じる。ダンジョンでは、俺のそばにぴったり張り付いて離れない。戦闘中などは俺の前に立ちはだかったと思えば、ちらちら振り向いて様子をうかがってくる。
俺の行動の、何もかもを信用していない証だ。
「悪い意味でただ者じゃないな、キミは! 『月の聖女』にここまで嫌われるとはね!」
「うわー。『月の聖女サマ』も、案外キツイわねー」
「トウナさんのお気持ち、よーーーくわかりますわ」
グレイもメイファもキャロラインも、ニヤニヤと笑っている。
「これ、あとで必ず読んで」
トウナが俺に手紙をさし出した。
「言いたいこと、全部書いてあるから」
「ああ……」
俺は手紙を力なく受け取った。口では言えない恨みごとを書いた、ってとこだろうか。
トウナはクールで口数も少ないけど、俺との会話では特にひどかった。
話を振るたびに視線をそらす。会話をさっさと打ち切ろうとする。なのに顔はいつも真っ赤だ。
俺のふるまいが気に入らず、イライラしてるとしか思えなかった。
「さあロベル! これでわかっただろう? このパーティーに! キミの存在は! ふさわしくないんだよ! 理解したなら! 今すぐ! とっとと! 出て行ってもらおうか?」
グレイが勝ち誇ったように言う。
「お願い。早く行って」
トウナは苦い顔で、体をふるわせている。俺への怒りがガマンの限界なんだろう。
痛いほどに理解した。もうこのパーティーに、俺の居場所はない。
「……わかった。俺、パーティーを出るよ」
俺はみんなに頭を下げる。
「みんなの望む支援ができなくて、すまなかった。勇者パーティーの役に立てなくて、本当にすまなかった」
「そうか! やっとわかってくれたのか! いくら役立たずでも、引きぎわぐらいは理解しているんだな! ボクはほんの少しだけ! 本っっっ当に! 少しだけ見直したよ!」
「かしこい判断をほめてあげるわ! これからは無能らしく、もっと低レベルな無能パーティーでがんばりなさい? 昔のよしみで応援ぐらいはしてあげるから!」
「まちがっても、戻ってこようなどとは思わないことですわ! これからアナタがどれだけ力をつけたところで、ワタクシたちのジャマにしかなりませんから!」
グレイ、メイファ、キャロライン。3人が次々に俺をあざ笑い。
「……くっ!」
トウナが怒りの表情を浮かべた。クールなトウナにしては珍しい、と思った。俺の顔なんて1秒も見ていたくない、ということだろう。
ただ……。何となくトウナだけは、他の3人と様子が違う気もするけど。ま、今更気にしても仕方がないか。
「それじゃ。今まで、ありがとう」
そう言い残し、俺は冒険者ギルドを出ていく。
「ハハハハハハ! 役立たずのゴミクズは勇者パーティーから消えた! このボク、勇者グレイの勝利だ! ハーッハッハッハッハ!」
「アハハハハハ! せいぜいがんばりなさい! アーッハハハハハハ!」
「ホホホホホホ! おジャマ虫には似合いの末路ですわ! オーッホホホホホホ!」
背中に高笑いと罵声が浴びせられる。目から、悔し涙がぽろぽろこぼれ落ちていた。
「泣いたのなんて、いつ以来だろうな……ははは」
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