そこからそこへあと一歩

めるるかん

第1話 遥かなる時間の中で

「カァン」

木製バットの乾いた音が響き渡る。高く打ちあがった打球は遥か高く、まるで空に届いてしまうのかと思ったほどだ。

しかし、打球は落ちてこない。いつからかLED照明に変わって眩しくなった照明の中に打球を見出すしかなかったが、それはいよいよ叶わなかった。打球は照明の隙間に挟まってしまったようだ。ここ東京ド…。シラフレスドームの照明に当たったり、挟まった場合は2塁打という判定になる。審判が2塁を指で差し、打者は2塁上で不満気にとどまっていた。アナウンスで今のプレーの説明が行われている中で、烏賊本は選手プロデュースの弁当を持ちながら席へ戻ってきた。

「何?どうしたの?」

席に座りながら私に問いかけてくる。

「打球が天井に当たったみたい。2塁打だって。」

そうなんだ。気の抜けた返事が返ってきた。烏賊本はそんなことより弁当を食べることに夢中だった。

烏賊本は私の1つ下の大学の後輩である。同級生とはあまり仲良くないようで、私も同じような人種だから懐かれているのだろう。

「何で野球なんか見に行こうってなったんですか。野球好きなんでしたっけ。」

「そうでもないけど、なんとなくね。」

実のところ野球が目的ではない。私がわざわざ安くないお金を払って球場に来たのには本当の目的がある。

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