銀色の魔法はやさしい世界でできている【作中作品集】

🎩鮎咲亜沙

城下町の白百合姫 『暗黒街の悪意、美しき姉妹を助け出せ!』

 聖国エドバーン、天下の名君エドワード・エドバーンが納める豊かな国。

 そこは、人々の笑顔であふれている。

 しかし裏ではそんな善良な民を食い物にせんとする、悪もいる。

 しかしそれを許さぬ花一輪、今回のお話は⋯⋯


 人々が歩く大通り、道行く人をかき分け走る少女が一人。

「誰か、誰か、私のお姉ちゃんを知りませんか!」

 しかしそんな少女の声に耳を貸す者はいない、そしてはずみでその少女は転んでしまう。

 痛みでうずくまり起き上がれぬ少女に一人手を差し出す者がいた。

「大丈夫? 起き上がれる? 怪我は無い?」

 少女はその手を取り答える、

「ありがとう、お姉ちゃん」

「私はサレナ、あなたは?」

「イヴァンカだよ」

 そう言いながらイヴァンカは立ち上がる。

「そう、お姉さんを探してるみたいだけど、イヴァンカちゃんは迷子なの?」

「違うよ、お姉ちゃんは三日前から帰ってこないの、だから探しているの」

「そっか、詳しく話してくれるかな? 探すのを手伝ってあげる」

「ほんとに?」

 こうしてイヴァンカは出会ったサレナという少女に、詳しい経緯を話すのであった。


「つまり夜遅くまで帰らない日が続いたあと、突然帰って来なくなった、そしてこれが残されていたと」

 イヴァンカの説明の後その残された紙包をサレナは検める。

 何かの薬だろうか? サレナには判断できない。

「これが何なのかわかれば、きっとお姉さんの行方の手掛かりになるに違いないわ」

「でも、わかんないよ」

「任せて、頼りになる人を知ってるんだから」

 そして二人は町外れの風車へと向かうのであった。


「まったく、ここへは誰も連れて来るなと言っているでしょう」

「ごめんなさい風車の魔女様」

 そう此処は魔女の住む館、その風車に住むことから人は彼女を『風車の魔女』と呼ぶ。

 サレナはここへ来た経緯を説明する。

「そう、これが何なのかわかれば帰るのね」

 そう言いながら風車の魔女は紙包を開き中の粉をほんのちょっぴり舐める。

「これは今、裏で出回ってる違法薬物『アヘーン』」

「違法薬物ですって」

「どうしてお姉ちゃんの部屋にそんな物が」

「さて、どうしてでしょうね。 これは用途から出回ってる所は限られて来る、暗黒街の色町⋯⋯そこにあんたの姉は居る可能性がある」

「お姉ちゃんがそんなところに、いかなきゃ!」

「待ちなさい、イヴァンカ!」

 しかしサレナの静止を聞かずにイヴァンカは飛び出してしまった。

 すぐに追おうとしたサレナを風車の魔女が引き留める。

「こいつを扱うには背後に黒幕がいる、そうねバロン男爵が最近妙に羽振りがいいと聞いたわ。 彼が経営する娼館『エッチゴー屋』へ行ってみなさい。

「ありがとう、風車の魔女様!」

 そして魔女の助言に従いサレナは走る。

 一人残された風車の魔女が呟く⋯⋯

「さて、今宵はどんな花が咲くのかしら?」


「なんだ! 騒がしいぞ」

 ここは暗黒街にある娼館『エッチゴー屋』その店の主バロン男爵は部下を呼びつける。

「はい、変なガキがいきなりやって来て姉ちゃんを返せと」

 部下の連れて来たイヴァンカをみたバロン男爵は気づく。

「ほう、その顔マルガリータの妹か」

「お姉ちゃんを知っているの? 返せ! お姉ちゃんを返せ!」

「お前みたいなガキに言われてホイホイ返すわけがなかろう、お前の姉は今夜からたっぷり稼いでもらうのだからな。 おい、こいつを地下にぶち込んでおけ」

「はっ!」

 部下がイヴァンカを引きずり連れて行こうとする、その時だった。

「そこまでよ!」

 一陣の風が吹き抜けた!

 イヴァンカを押さえつけていた部下は、切り伏せられ倒れる。

 そしてそこにはイヴァンカを護る白百合が咲く。

 突如現れた白百合のごとき純白の騎士に、

「ええい、何奴?」

「あら、バロン。 私の顔を見忘れたの?」

「ま、まさかリリー姫、姫様がなぜここに」

「あなたの悪事、全てこの白百合の騎士が見届けた!」

「ええい、もはやこれまで。 出会えい、出会えい!」

「素直に謝れば慈悲も在ったというのに、もはや許しがたい、覚悟せよ!」

「みなの者、姫を語る不埒者じゃ切り捨てろ」

 バロン男爵の部下たちが取り囲む。

「この聖都に咲く気高き花を、私の前では散らせはしない!」

 そしてバロン男爵の部下たちが白百合の騎士へと襲い掛かる、しかしそれをリリーは鎧袖一触見事切り伏せた。

「マルガリータを連れてこい!」

 バロンのその指示に一人の部下が地下牢へと走る、しかし⋯⋯

 その部下は地下牢まであと一歩のところで突如首に糸が絡まり身動きが取れなくなる、そして。

 その糸が何かに巻き取られていくかのように引きずられてゆく、やがてその部下は宙釣りになり自分を巻き取る物の正体に気づく。

「風車? だと⋯⋯」

 そしてそのままその部下の意識は途絶えた。


「号外! 号外! 違法薬物を扱った娼館が取り潰しだー。 さて続きは買って見てのお楽しみ」

 そしてその日の号外は飛ぶように売れるのであった。


「ありがとうございました、サレナさん」

 無事あの後、救出されたマルガリータは風車の魔女の治療により無事回復した。

「いえ、私に出来る事をやったまでです、イヴァンカちゃんお姉さんと仲良くね」

「うん、ありがとう、リ⋯⋯サレナお姉ちゃん」


 そしてそのままサレナの姿は人波へと消えてゆく。

 こうしてまた一つの悪が潰えた、しかし悪がある限り白百合の騎士の戦いは続く⋯⋯


 終わり!

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