第21話
食事を終えて部屋に戻り、のんびり話していたら、もう夜中になっていた。
せっかくだから温泉に入って寝ようということになり、温泉へと向かう。
温泉に入るのなんて数年ぶりだ。
レイネとネミリに関しては、数年どころの話じゃないんだろうけど。
「それじゃ、またここに集合な」
俺は男湯へ、2人は女湯へと入っていく。
脱衣所に行ってみると、今は誰も入っていないようだった。
ラッキーなことに貸切風呂だ。
お湯を全身にかけまわして汗などを流してから、ゆっくりと温泉に足を入れる。
少し熱めだけど、個人的にはこれくらいが好みだな。
「ふぁぁ~」
何も意図せずとも声が出てしまう。
それくらい気分が良い。
美味しいものも食べられているし、今回の休暇は今のところ100点なんじゃないだろうか。
あ、レイネの酒乱があったか。まあ、些細な問題だ。
「お、外にも風呂があるのか」
入ってきた扉とは別に、外へと続く扉がある。
やはりそこにも、誰も入っていないみたいだ。
「よいしょっと」
夜で気温が下がっている分、お湯の中から出ると少し寒い。
体が濡れているから余計にだ。
早く風呂につかりたい。
「お~!」
扉を開けて外に出た瞬間、俺は歓声を上げてしまった。
満天の星空だ。
大小明暗さまざまな無数の星が瞬いている。
「うはぁ~」
室内よりもさらに熱めのお湯につかり、星空を見上げる。
もうこれだけで、女の子を盗賊から守りに行った時のネミリのごときスピードで疲れが飛んでいく気がした。
本当に速かったよな、あの時のネミリは。
そのあとの白虎レイネもなかなかだったけど。
「グレン、いるのー?」
柵を隔てた向こう側、女湯の方の外風呂から声がした。
「ネミリか?」
「うん。レイネもいるよ」
「すごい星空だな」
「ほんと!めっちゃきれい!」
「疲れが飛んでいきますね」
俺は首までつかって星空を眺める。
ふと、一筋の光があっという間に空を駆け抜けていった。
「ご主人様、今の流れ星ご覧になりましたか?」
「見たよ。きれいだったな」
「え!?流れ星!?見逃したぁ」
「チュウ」
「残念だったな。まあ、また流れるかもしれ……」
……チュウ?
今、確かにチュウって高めの鳴き声がしたような。
「ご主人様、どうかなさいましたか?」
「ネズミの鳴き声がした」
「まさか例の召喚獣でしょうか?失礼します」
「は?し、失礼しますっておい!」
影が素早く柵を乗り越えてくる。
慌てて各部を隠して目を覆うと、ニャーと声がした。
「ご主人様、私は猫になっていますので目を開けていただいて大丈夫です」
「びっくりした……良かった……。いや、良くはねえよ。俺が裸だよ」
「そのまま隠しておいていただけるとありがたいです。それでネズミは?」
「いや、声がしただけで姿は見えてないんだよな」
「なるほど、分かりました」
レイネは外風呂をあちこち調べていく。
俺はずっといろいろ隠し続ける。
そういえば、ネミリは静かだな。
「ネミリは?」
「多分、寝てると思います」
「大丈夫なのか?風呂で寝るのは危ないって聞くぞ」
「ご安心ください。水中では能力こそ落ちますが、数時間くらい潜っていたところで何ともありませんから」
「え、何、えら呼吸でもしてんのか?」
「いえ、ただ息を止めていられるだけです」
「……さすがだな」
えら呼吸できるとしたら、それはそれで驚くけれど。
ネミリは話しながらしばらく探し回っていたが、何も見つからなかったようだ。
唐突に、俺は常々気になっていたことを聞く。
「なあ」
「何でしょうか」
「今、2人って幸せか?」
「急ですね。私は幸せですよ。ネミリも幸せだと思います。どうしてですか?」
「何か、自由に好きなように生きてる獣人がこの街にはたくさんいるからさ。2人はそういうの見て、どう思うんだろうって」
「ふふっ、ご主人様は優しいですね」
「そうか?」
「私たちは、召喚獣としてご主人様と一緒にいられて幸せですよ。だって、私たちのことを第一に考えてくださるじゃないですか。この街の獣人、例えば料理店で働いている子だって、誰か上司の元で働いているんです。私たちにとってご主人様は、理想の上司でありパートナーですから」
「そっか。なら良いんだけど」
「私たち、結構楽しんでいるんですよ?思いっきり……とまではさすがに言わないですけど、ちゃんとご主人様について戦えるのなんて、ほとんど始めてみたいなものですから」
「思いっきりではないのな」
「それはもう、ご主人様のデバフが強すぎるので」
「強すぎるのはお互い様だよ。ふぅ~、聞きたかったのはそれだけ」
「そうでしたか。では失礼します」
レイネはぴょんと柵を飛び越えて、女湯へと消えていった。
そろそろのぼせてきたな。
出るとするか。
最後にもう一度だけ星空を眺める。
また、流れ星が夜空を切り裂いていった。
――俺らの冒険者生活、無事に上手く行きますように。
そんなことを、心の中で願うのだった。
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