第17話

 ちょうど日没と同時くらいに、エルクの街へと到着した。

 御者と別れ、教えてもらった『ナクアの星』に向かう。

 人間3人より1人と2匹の方が、宿屋の代金は安くなるのでお得だ。


 部屋を確保したら夜ご飯。

 モンスターの処理は明日の朝、出発前にまわすことにした。

 ネミリの肉球と繋がる次元では、腐ったりしないらしいし。


「おー!美味しそうな匂い!」


 ネミリが手を叩いて歓声を上げる。

 大きな声こそ出さなかったが、レイネも尻尾をパタパタさせて早く何か食べたそうだ。


 屋台街には食事用に椅子とテーブルの置かれたスペースがあって、そこで買ってきたものを食べられるようになっている。

 かなりの盛況で、ほとんどのテーブルが埋まっていた。

 その中で開いている席を何とか見つけ確保。

 あちこちに美味しそうな匂いが充満していて、我慢の限界だ。


「取りあえず、レイネとネミリで行ってきていいぞ。俺の分も何か買ってきてくれ。席はキープしとくから」


「はいよー」


「かしこまりました」


 2人は仲良く屋台の方へと歩いて行く。

 席から見える値札を見ても、御者の言っていた通り確かに安い。

 そして屋台の量が半端じゃない。

 種類も非常に豊富だ。


「おっまたせ~」


 ネミリが肉の刺さった串を差し出してくれる。

 肉汁が滴っていて、とんでもなく美味そうだ。


「ありがと」


 2人同時に、それぞれの串へかぶりつく。

 そして同時に声を上げた。


「うまい!」

「おいし~!」


 口の中にじゅわぁっと肉の旨味が広がっていく。

 焼き加減も抜群。

 肉々しさを感じさせつつ、ちゃんと嚙み切ることができる。


「すごいな。美味いな」


「味付けは塩だけだからねぇ。あとは肉の良さと焼く腕だよ。店主、やりますなぁ」


「さすが、料理人の視点だな」


「えへへ。食事になるとついね」


「ところでレイネは?」


「野菜が食べたいって探しに行ったよ」


「そうかそうか。俺も屋台見てくるから、ここ座っといてくれ」


「りょーかいであります」


「頼んだな」


 さて、何を買おうか。

 正直、今の肉はリピートしたいくらい美味かった。

 でもせっかくなら、他のものも食べてみたい。

 せっかくこれだけ屋台があるわけだし。


「へいいらっしゃい!生でもいける新鮮な野菜をさっと焼いただけ!素材の旨味が味わえるよ!」


 野菜か。

 野菜はレイネが買ってくるっぽいしな。


「今日のうちに獲れた新鮮な野菜!それを使ったスープはどうだい!」

「生野菜サラダ!うちの秘伝の味付けをぜひ試してみてくれ!」

「ほらほら!肉ばっかじゃなくて野菜の串焼きもどうだーい!」

「新鮮な野菜で作ったジュースだい!飲んでみー!」


 んー野菜多いな!

 どんだけ野菜の屋台が乱立してるんだよ。

 肉の屋台とか挟んで散らした方が、どこももっと売れるんじゃないか?


「さっき焼き立てのチーズパンだよ!夜に焼き立てのパン屋のパン!これはなかなか食べられないよ!」


 おっ、やっと野菜以外の店舗があった。

 それに焼き立てパンとはそそられる。

 小麦の良い匂いもするし。

 これは買いだな。


「チーズパン、3つ」


「はいよー!毎度!」


 受け取った袋の中から、蒸気が立ち昇っている。

 本当に焼き立てほやほやのようだ。


 席に戻ると、野菜の串焼きと野菜ジュースが机に並んでいた。

 さてはネミリ、あのゾーンで買ったな。


「何買ってきたのー?」


「チーズパン。焼き立てらしいぞ」


「おー。私たちの分もある?」


「もちろんだ」


 俺は1つずつ、レイネとネミリに手渡す。

 サイズはそこまで大きくない。

 きっと、他の屋台のものも食べられるようにだろう。


「あ、んまーい」


「すごく美味しいです」


 焼き立てでチーズがとろとろ。

 パン生地も外側がカリッとしていて中はふわふわ。

 焼き立てならではの最高のパンだ。


「そういえば、2人って酒は飲めるのか?御者から、宿の近くの酒場を教えてもらったんだけど」


「私は飲めるよ。レイネは……」


「何よ。私も飲めます」


「そうかそうか。じゃあ、もう少し食べたら酒場に行くか?」


「そうですね」


「むぅん……」


 珍しく遊びに乗り気じゃないネミリと、逆に耳を盛んに動かすレイネだった。

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