第5話
スライムなんぞいくら倒しても新居には程遠いので、もう少しレベルの高いモンスターに狙いを定める。
今日の獲物は洞窟に潜むゴーレムだ。
俊敏性は猛烈に低いが、一撃の破壊力と耐久力はめちゃくちゃ高い。
メタルゴーレムのような上位種もいるが、今日は普通のゴーレムに挑戦する。
「この洞窟だ。準備はいいか?」
「いつでも行けます」
「オッケーだよ~」
セオリーに従えば、特性を発動したうえで洞窟に入るべきだ。
でもそれをやると、俺は動けなくなってしまう。
ネミリが敵を察知するのは得意らしいので、探知を彼女に任せ、敵が近づいてきたら特性を発動することにした。
薄暗い洞窟の中に足を踏み入れる。
最初は少し日光が射し込んでいたが、瞬く間にそれも届かなくなる。
俺が持つ松明だけが、足元を照らす頼りだ。
「松明ってのも片手塞がるし不便だよね。グレンは照らす系のスキル持ってないの?」
「残念だが俺はデバフ以外のスキルは持ってない。それに片手が塞がったところで、俺は戦わないし困らないからな」
「なるほど。完全に人任せだね」
「俺の力が無ければ戦えないのはどこのどいつだ?」
「むー」
ぴゅーぴゅー口笛を吹いて歩くネミリ。
分が悪くなって逃げたな。
5分くらい歩いただろうか。
ふと、ネミリが足を止めた。
耳がぴくぴく動いている。
「いたか?」
「いた。正面からゆ~っくり歩いてくる」
「じゃあ準備するか」
俺は【破滅への導き手】を、2人は【破滅をもたらす双子】を発動する。
全員の腕に鎖の印が現われた。
「むー。動きづらい」
そう言いながら、ネミリはその場で軽く飛び跳ねる。
レイネも腕を回したり体を伸ばしたりして、戦闘に備えた。
「大丈夫だ。十分動けてる」
「グレンから見たらそうかもしれないけどね」
「私たちからすれば、とんでもない力で体を抑え込まれている感覚なんです。巨大な竜が100匹のしかかっている感じでしょうか」
「100匹の竜にのしかかれたことがないから分からないんだが」
「それくらいの重さということです」
正直、全く想像がつかない。
でも自分のデバフの力が凄まじいのは、これまでの経験から痛いほど分かっている。
だからこそ、それを食らってなおも動ける彼女たちがすごいということだけは断言できる。
ずしんずしんという重そうな足音が聞こえてきた。
ゴーレムが近づいている。
俺の役目はもうおしまい。
あとは2人の仕事だ。
「どうする?1体だけだから、2人でやることはないと思う」
「じゃあ私がやろうか?」
「はーい。レイネに任せた」
ネミリはこちらへ歩いてきて、俺の足元で腰を下ろす。
まあ、昨日のスライムとの戦い……というか一方的な攻撃を見る限り、レイネ1人でも十分は十分だろう。
「とはいえやる気ないよな」
「いやー、私だってやる時はやるんだよ?昨日の見たでしょ?」
「まあな」
「ささっ、ここはレイネがどんな戦いをするか見ようよ。多分、戦いというには短すぎるだろうけどね」
足音が一段と大きくなり、ゴーレムがその姿を現す。
ごつごつとした巨大な岩のような体。
その破壊力と耐久力は、大きな図体を見ればよく分かる。
しかし、ただでさえ鈍い動きが、俺と一定の距離になってからさらに鈍くなった。
カタツムリなんかよりはるかに遅い。
右の前足に鎖の印が確認できた。
「……遅すぎますね。もうやってしまいますか」
レイネは1つ息を吐くと、強く地面を蹴った。
一気にゴーレムとの距離が詰まる。
速い。
デバフがかかってなお、そこらの冒険者なんかより断然速い。
「【
ゴーレムの顔面にレイネの拳が叩き込まれる。
こちらまでビリビリと衝撃が伝わってくる、すさまじい攻撃。
バキバキという音とともにひびが入り、それが大きな体全体へと広がった。
そして一瞬のうちに全身が砕け散る。
あとに残ったのは、ゴーレムの体の欠片と、人間の頭くらいの大きさの石だった。
「ご主人様、完了しました」
レイネがこちらへ頭を下げる。
俺は小さく頷くと、【破滅への導き手】を解除した。
「あー、動きやすい」
ネミリが大きく伸びをする。
お前、何にもしてないだろうが。
「これがゴーレムのドロップアイテムだな」
一見すると、ただの石でしかない。
しかしこの中には、様々な鉱石が入っている。
何が入っているかは割ってみてのお楽しみで、もちろんレアな鉱石が入っていれば金額も高くなるのだ。
「これは割らずに取っておくんですか?」
「そうだな。街に持ち帰って、冒険者協会で割ってもらおう。ちょっと手数料は取られるけどな」
「じゃあ、私が割ってあげようか?お金もったいないし」
「……遠慮する。中の鉱石まで破壊されたら金にならないからな」
「むー……。でもあり得る」
「だろ」
俺は石を抱え上げ、レイネへと渡した。
そこそこ重いけど、俺でも全然持てるのだから彼女は余裕だろう。
「悪いけど持っててくれ。俺はデバフがかかると持ってられなくなるからな」
「かしこまりました」
「さあ、次はネミリが戦う番だからな」
「はいはい。仕方ないなぁ、もう」
なんだかんだ言いつつ、ネミリは先陣を切って歩き出す。
俺とレイネは顔を合わせて肩をすくめ、それから彼女の後に続いた。
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