男爵の婚約者は、二重人格の公爵令嬢。炎魔法を使う彼女に追いつけない
落花生
第1話
俺の後ろには、荒野が広がっていた。
部下や仲間たちが、たった一人の強大な魔王に挑んでいく。魔王は指一本で魔法によって操られた部下を差し向ける。俺の仲間は、操られた魔法の部下によって蹴散らされる。魔王に近づける仲間は剣を抜いて切りかかるが、それにすら魔王は封じていく。地獄のような光景だ。
俺は、圧倒的な強さの魔王を見ていた。
もう見つめていることしか、俺にはできなかった。
俺の体は傷ついて、もう走ることはできなかった。魔法を使うための魔力も枯渇し、魔法を撃つための掌からは何も出ることはなかった。
俺は、地面に倒れた。
俺の部下たちが――あるいは他の隊の部下たちが、剣を振って魔王に向かって走っていく。俺は、その背中を目に焼き付けていた。
赤い大地に染みこんでいく、自分の血。その大地を力強く進んでいく、若者たち。その若者たちを蹴散らす、魔王。
おそらく、これが俺にとって最後の光景となるだろう。
意外と、つまらない人生だったなと俺は思う。
騎士の家系に生まれて、特に疑問も持たずに兵士になって、出世して、部下と仲間を得て、そして今は強大な魔力を持つ魔王と呼ばれた男に敗れて――……死んでいくのだ。
「あばよ」
俺は、ぼそりと呟いた。
一体、何と話しているのだろうかと自分でも思った。だが、考える暇などなかった。思いついた言葉は、深く考えず口からもれる。歌でもうたっているかのように。
「さよならだ……世界」
俺の世界は、こうして暗くなっていった。
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