報告。そして……
後日、鈴と小春はトレーニング・テストの結果を社長に報告するため社長室にきていた。部屋には鈴達と社長の他に営業一課の課長もなぜかいる。
「これが佐々木選手と梅原選手のテスト結果です」
鈴は2枚1組のプリントを2つ、社長に渡す。
そこには1枚目にはブラーストを使ったバッティング成績。
2枚目はデジタルブラジャーの検査結果。
社長は1枚目のプリントをほとんど無視して、2枚目のプリントを注意深く読む。
「下の数値はプロの平均値と一般人の平均値なんだね」
「はい」
「しかし、これは面白いね」
社長はプリントに目を配りつつ、鼻で笑う。
それもそうだろう。
なぜなら──。
「佐々木は歳の割にはなかなかだね。でも、結局はプロは越えられなかったね。対して佐々木より若い梅原はダメダメ。一般人レベルじゃないか」
社長は頬杖をつく。
「まあ、梅原も若いといっても35だからね」
そこで社長室の固定電話が鳴る。
「なんだ? ……ああ、そうか。通してくれ」
と言って、受話器を置く。そして「話があるからそこのソファに座ってくれ」と2人にソファへ座るよう促す。
鈴達がソファに座り、テーブルを挟んで営業一課長が座る。
少ししてからドアがノックされた。
「どうぞ」
社長が言うとドアが開けられ、1人の女性が社長室へ入ってきた。
年齢は20代半ば。ショートヘアーに贅肉のないしっかりとした体。
鈴は誰だろうという顔。対して小春は驚き、目を見開いている。
「御堂君は初対面だっけ?」
「えっ? あっ、はい」
「彼女は三浦遥。女子プロ野球選手だよ」
「三浦遥です。よろしくお願いします」
ショートヘアーの女性は頭を下げる。
「で、こちらがトレーナーの御堂鈴君」
「御堂鈴です」
次に鈴が三浦に対してすわったまま頭を下げる。
「さ、三浦君、そっち座って」
「はい」
三浦は営業一課長の隣に座る。
(なるほどね。そういうことか)
営業一課長がここにいるということは、次のジム利用者の話ということ。そしてそのジム利用者が女子プロの三浦遥ということだろう。
「彼女は怪我をしてね。それで治療をしたんだよ。で、ここでリハビリをして、少しの期間を
「待ってください。今は佐々木達の方もあるんですよ」
小春ではなく鈴が待ったをかける。
「大丈夫。今はペナント中じゃないか。トレーニングにも週2くらいでしょ? それにこの成績ならもう良いでしょ」
社長は左手に持つプリントを右手の甲で叩く。
確かに梅原は成績が悪い。社長が飛ばした1枚目のプリントにはブラーストを使った梅原の成績が載っている。
その成績はかなりひどいもの。
だが、鈴と小春は成績を上げるためにあれやこれやと対策を考えている。
「佐々木もこれでは駄目だね」
(……佐々木?)
言い間違えか。
社長は梅原ではなく佐々木と言った。
「佐々木もこの成績ではNPBには戻れないだろうね」
「えーと、あの……佐々木さんですか? 梅原さんではなくて?」
「そうだよ。梅原はいいんだよ」
(どういうこと?)
成績が悪いのは梅原。
佐々木は少しづつだが成績は上がっている。
それでも社長は佐々木を非難し、梅原に対しては何も文句を言わない。
社長は手を鳴らし、
「話は以上。三浦君のリハ後のトレーニングについては後日ということで」
◯
鈴と小春は社長室を出た。三浦は社長と営業一課長とまだ話すことがあるらしくて残った。
「三浦遥って選手と知り合いなの?」
廊下を歩きつつ、鈴は小春に聞く。
「……ライバルです」
「そうなんだ」
小春も元女子プロ。戦っていてもおかしくはない。
「ライバルってことは相手もピッチャー?」
「はい」
答える小春の顔は複雑そうであった。
「それにしても佐々木さんのことはどういうことなんだろうね」
話を変えるために鈴は佐々木の件を口にした。
「確かにおかしかったですね」
「うんうん。成績の悪い梅原さんではなく佐々木さんが駄目なんておかしいよね」
普通なら逆だ。
そして言い間違えたわけでもなく本当に社長は佐々木の方を話していた。
「佐々木さんは調子いいよね?」
「はい。徐々にですがパワーが付いてきてます」
「だよね。逆に梅原さんはさ……」
鈴は言い淀んだ。
あまりにも悪いから。
「そちらの件はもしかしたら原因が判明するかもしれません」
「えっ!?」
「三浦がリハからトレーニングに変わるまでに終わらせます」
「う、うん」
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