トレーニングテスト①

 独立リーグのペナントレースが始まった。

 元メジャーリーガーの佐々木と梅原の活躍は週一でニュース番組内のスポーツコーナーにて取り上げられている。

「すごいわね。ヒットですって」

 鈴の母・聡子は洗濯物を畳みながらテレビにて佐々木のヒット報告を知り感心していた。

「でも打率悪いじゃん」

 逆に弟の大輔は批判的であった。

「悪いの?」

 野球をあまり知らない聡子が問う。

「ギリ2割じゃん。悪いよ。全盛期は3割超え。しかもここは独立リーグ。三軍だよ。週一くらいしか活躍が報道されないし。やばいんじゃない?」

「へえ。……あれ? ねえ、鈴、独立リーグは試合が少ないんでしょ?」

 聡子が鈴に聞く。

「うん。少ないよ」

「佐々木選手と梅原選手はどれくらいのペースで来ているの?」

「今は週一かな」

「佐々木選手と梅原選手が来てない時は何してるの?」

「そりゃあジムの仕事よ」


  ◯


 翌日、鈴と小春は社長に呼び出された。

 呼び出された時から鈴達は佐々木達の件だと察した。

 そして──。

「テスト……ですか?」

「そう。我がジムで最新の器具を取り入れることにしたんだ。で、その初めのテストとして佐々木と梅原を使おうと考えているんだ」

「最新の器具ですか?」

「松野君」

「はい」

 呼ばれてトレーナー課の松野課長が机に2つの器具を置く。

 1つはスポーツブラを大きくしたもの。

 もう1つはシリコンゴムに覆われたキャップのようなもの。

「デジタルブラジャーとブラーストだよ。知ってるかい?」

「はい。ここ最近メジャーなどで使われているやつですよね」

「そう。それでこの2つを使って佐々木達の能力を数値化してほしいのだよ」

「能力の数値化ですか。でも、デジタルブラジャーは疲労等の数値化であって能力は……」

「分かってるよ。だからだよ」

「だから?」

「彼らがどれくらいの運動量で疲労するのかを知りたいんだ」

 社長はにっこりとした笑みで言う。

「無理を言って悪いけど頼めないかな?」

 相手は社長。頼まれては否定できない。しかも今は無期契約の申請中の身。

「分かりました」


  ◯


「いいんですか?」

 社長室を出てからトレーナー課に戻る間の廊下にて小春に問われた。

「社長命令だし。そっちだって否定しなかったじゃないの」

「私は梅原さんのデータが欲しかったので」

「データ?」

「はい。梅原さんの成績が芳しくないので、その理由が知りたくて」

「まあ、成績は……悪いよね」

 梅原の成績はかなり悪かった。

 ホームランこそ球団一であるが、打率は低い。開幕時は4番だったが、今では7番。このままだとスタメンから外されベンチ入りとも言われている。

「しかもフォームを変えてませんし」

「気に入らなかったのかな」

 梅原はフォームを変えずにバットを振り続けた。フォーム変えは強制ではないが、今のままだと成績は上がらないと考えられている。

「梅原選手は前のフォームでいかせるかな?」

「でも、それだと……」

「分かってるよ」

「次のテストで原因が分かればいいのですけど」


  ◯


 トレーナー課に戻り、自席に戻ると隣の花が、「あんた、何したのよ」と聞く。

「何もしてませんよ」

「じゃあ、なんで呼ばれたのよ」

「ジムで新しい器具を導入するから、それを使って佐々木さん達にテストをするって話ですよ」

「器具……ああ! デジタルブラジャーとブラーストだっけ」

「知ってるんですか?」

「私にもテストをするようにお達が来てたわ」

「へえ」

「でも、それだけで社長に呼ばれる?」

「私に言われても」

「ま、元メジャーリーガーだもんね」

「先輩は2人の成績についてどう思われます?」

「悪い。特に梅原選手はね」

 花はきっぱりと言う。

「ですよね」

 素人目でも分かるくらい梅原の成績は悪い。

「なんとかせねば」


  ◯


 試合がない日はトレーニングというわけにはいかない。

 体を休ませる日が必要である。

 ただ、独立リーグの場合は少し違う。

 ほとんどの選手は試合のない日には仕事をしている。

 独立リーグはNPBとは違い、選手に支払われる年俸は低い。

 そのため働く選手は大勢いる。

 けどメジャーで活躍した佐々木達はまだ金に余裕があるためトレーニングテストの日程もすぐに決まった。

「すみません。急なことでお呼び出しして」

「いいよ。今週は2回しか試合はないからね」

 佐々木は苦笑気味に答える。

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