発表

 1月21日に佐々木達の新ユニフォームのお披露目会見があり、その1週間後に地元小学校の野球チームに佐々木と梅原が訪れて、野球の指導をするというイベントが行われた。それ以降、地方ワイドショーなどに佐々木と梅原が呼ばれることもあった。

 そして2月。NPBなら合宿シーズン。

 けど、独立リーグには合宿はなく、2週間の選手全員集まった合同練習のみである。

 外野はランニング、バッティング、守備の練習がメインの合同練習で公開はしていない。

 だが、今回は特例にとなった。

 公開練習とは見せるためのものである。

 そしてその公開練習のメインはやはり佐々木達で、佐々木達の練習を見せるため、あれこれと球団は動いた。練習メニューも順番も。

 梅原が柵越えの一発を放てば、観客は歓声を上げた。

 この期間限定の公開練習には一般人だけでなく、東京からのファンやテレビ局の一団も来ていた。

 テレビ局のアナウンサーはファンにインタビューをしたり、ホワイトキャットの選手を捕まえては練習の感想や今後の球団の目標などのインタビューをしていた。

 佐々木達は休憩時間などに観客にファンサービスをして喜ばしていた。

「佐々木選手! 日本に帰ってきてどうですか?」

 と、若手男性アナウンサーが佐々木にインタビューをした。

「ここは故郷ではありませんが」と、佐々木は苦笑して「でも日本に戻ってきたと変な懐かしさはありますね」

「今後どのような活躍をするのですか?」

「そりゃあ当然バンバン打つよ」

 そう答えると周囲は笑った。

「お忙しいとこ、ありがとうございました」

「いえいえ」

 佐々木が去ると観客達は拍手した。

 それだけ世間は彼らに注目しているということだろう。

 番組内でも梅原のホームランを何度も流していた。

 そして彼らは佐々木達が今までと違ったバッティングフォームをしていることに気付いた。

 これにはネットでも騒ぎになった。

 期待する者。不安がる者。新フォームに疑問視する者。

 様々な意見が飛び交った。そのほとんどは懐疑的なものばかり。

 テレビでは元プロ野球選手が新フォームについて分析、そして解説もしていた。

 彼らは期待が持てると告げていた──が、やはり最後には年齢のことを告げていた。

 2月の下旬に合同練習が終わると佐々木達は地元テレビ局に引っ張りだこだった。

 3月中頃になり、佐々木達が久々にジムへ訪れた。

「お久しぶりですね」

「ああ。合同練習にテレビ。大変だったよ」

「公開練習はどうでしたか?」

「パンダのような気分だったよ」

 佐々木は少し辟易するように言った。

「その間は自主練はしていたんですよね?」

「主にランニングと素振りばっかだけどな」

「では今日は器具を使った筋トレをしましょう」


  ◯


 4月上旬から独立リーグのペナントレースが始まる。

 でも、その前にあることが決まった。

 地元の高校、私立履習社高等学校の野球部が春のセンバツこと選抜甲子園で優勝をしたのだ。

 県初の春のセンバツ優勝。さらに地元の大北緑ではあれよこれよと大賑わいであった。駅には垂幕、商店街には横断幕、そしてパレードまで催された。地元ケーブルだけでなく東京のテレビ局からもアナウンサーがわざわざ履習社高校に訪れてインタビューにきたほど。

 そして──。

「親善試合が行われることになった」

 シルバーキャットの監督が部屋に集まった選手達にそう告げた。

 部屋には選手以外にもジェネラルマネージャーやコーチ、球団職員もいる。

 選手達の前列には佐々木と梅原がいる。本人達は後ろでも構わないのだが、ホワイトキャット選手達が「恐れ多い」ということで2人を前列に座るよう促した。

「相手は高校生。しかもメンバーが新3年生といえど、春甲を優勝した高校だ。油断するなよ」

『はい』

「ペナントが始まるというのに、いきなりこんな練習試合を設けてしまって、すまなかった」

「気にしないでくださいよ。悪いのは春甲を優勝してしまった彼らなんですから」

 選手の1人が告げた。彼はホワイトキャットの4番バッターで、リーダーも務めている選手。

 ムードメーカーで周りからの信頼も厚い。

「加減をしろとは言わんが……まあ、大人げない行動は慎めよ」

 監督はそう言って肩を竦める。

『はい』

 しかし、監督は不安だった。

 春の選抜甲子園を勝ち抜いた彼らに球団のスカウトマンが注目をしているとか。その彼らの中には伸び代のある者、即戦力級がいると小耳に聞く。それはすなわちドラフト指名される者ということ。

 ここにはNPB戦力外として捨てられた者、ドラフト指名されなかった者、伸びしろのない者の集まり。

 彼らとは真逆の集まり。

 経験だけならこちらが上だろう。だけど、能力面でいえば……それはちと厳しい。

 それが監督の不安。

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