前編

プロローグ

白光


 そこには何も無かった。

 どこを見ても目に入るのは一面の白。

 歩いても歩いても続くのは白の世界。

 ここには何かがあったのだと少女は知っている。

 ここには何も無くなったのだと少女は知っている。

 それでも少女は歩いている。

 真っ白な世界を見回しながら歩いている。

 何かを探し求めるかのように歩きつづけている。


 そうしてしばらく歩いていると、遙か彼方に光が見えた。

 それに気づいた途端、少女の足は自然と早まり、最後には駆けだしていた。

 光は遠かった。それでも少女は走った。

 それが何かを確かめたくて、確かめないといけない気がして、

 ひたすらに白い世界を突き進んだ。

 そうして走りつづけて少女はようやく、そこへとたどり着いた。


 それは逃げることも消えることもなく、そこで待っていた。

 何も無くなった世界に忘れ去られたように、そこに存在していた。

 少女は足下のそれを見る。

 目下には遠くで見たとおりの光があった。

 小さく、けれど白ばかりの世界で一際に輝く白光が。

 少女はそれを掬い上げる。

 両手に収まった光は――温かかった。

 強い輝きとは反対に、優しい温もりを発している。

 少女はその温もりを側で感じたくて、光を胸に抱えた。

 その時だった。


 声が、聞こえた気がした――。


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